2021年 非/日常の年

三原 聡一郎

2022年を迎えても引き続きパンデミックの影響が気になりながらの活動だ。ただアーティストとして、出来ることを淡々とするということには変わりはないが、この状況ならではの実験的な提案をしたり、風変わりでユニークなプロジェクトが立ち現れることにもなった。そんな1年の中で、度々一緒に面白いことを企てているインディペンデントキュレーター四方幸子さんから本助成への推薦のお話を頂き、無事に採択され、この困難な時期に非常にありがたく感じた。これで更なる一歩を迷わずに進むことが出来る。

大きく口には出せないが、私はこの状況が芸術体験をどう変えてゆくのか不謹慎ながらも好奇心をくすぐられていた。それは全体が次のフェイズに移るというよりも、これもありだよね!という拡がりに繋がるからだ。他の多くのアーティストが目を向けたようにオンラインメディアについてじっくり吟味し、作品展開を含め、ワークショップやパフォーマンスにも挑戦した。個人で24時間365日のライブストリーム中継システムが組める時代だ。またオンラインでの講義の環境も整えられたことで、制作活動について話す機会も多々あった。子供向けから大学でのレクチャー、そして初の国際学会発表など、精力的に活動出来た1年であった。これを書いている今も次の展覧会を月末に控えている。

NIPPONFESTIVAL online

さて年も明けたことだし、今年度に行ったことを振り返っていこう。最初の仕事は、春先の伊勢市だった。市による公募制のクリエータズワーケーションと銘打った滞在だ。光栄にも実に多様な芸術文化に携わるアーティストの中に選ばれ、10日に渡ってのんびりした滞在が出来た。私は物質循環に興味があり遷宮と共に、対照的な頻度で、毎日行われる朝夕日毎大御饌祭に魅かれ、そのことにまつわるリサーチを行った。毎日、時間に合せた早朝参拝をしつつ、100を超える神宮に時間の限り足を運んだ。その後、夏までは、年度後半に参加企画が続くので、余裕のある5月6月にオンラインメディアについての実験、年度末に行うオンライン展覧会のシステムつくりにエンジニア達と奔走した。8月には迷走したオリンピックと共に行われたニッポンフェスティバルに参加。本祭と同じく無観客開催となり、実展示会場が急遽オンラインコンテンツのスタジオと化し、映像配信という形式の展覧会になった。その後は、ここ5年程継続的に参加させてもらっている対馬アートファンタジアの為に離島へ飛んだ。海が近いことを活用して、海水から塩を炊く作品を制作した。この企画の醍醐味は韓国からのアーティスト参加が多く境界文化ならではの濃ゆい交流の機会だが昨年と同じく海外からのアーティストたちの渡航は叶わずだった。翌9月は奈良の吉野での山間部にてMINDTRAILという企画に新作制作の滞在に明け暮れた。

MINDTRAIL

吉野の素晴らしい木材が手に入ったことで、正四面体構造の木組みモジュールを現地で制作し、各所に点在させた。10月は大学やオンラインでのワークショップが重なり、3コマ連続講義などは、ネタ切れしそうになりつつも、レクチャーに作品のセットアップパフォーマンス、きわめつけは、目下、香りの作品を制作しているので手作りのマドレーヌを焼き、菩提樹のハーブティに浸しながらのディスカッションを試みたことだ。彼の有名な小説をご存知の方でも実際に試したことのある方はいないだろう。その香りを含め空気を扱った新作に11月から没頭し今に至る。その前に年末の師走には、韓国の光州とさっぽろ天神山スタジオの交流展覧会に呼ばれ、初の完全リモートによるインストラクションのみの新作制作を行った。それぞれの会場の空気を展覧会期日数分ジップロックに詰めて送り、彼の地の空気を少しでも交感させる様な作品にしあげた。今、私の意識は「空気」に集中している。年明けた1月末にはそのKYOTOSTEAMのコンペティション展で披露される。2月にはフィンランドはSeinäjoki/セイナヨキ市でCriss Crossing Ecologies展の巡回が始まる。渡航の制限されている今、海外に送った作品が回り続けるのは嬉しい。そして年度末月の3月には、2011年3月11日をきっかけに開始した空白のプロジェクトのオンライン展を年度末に敢行して今年度が終わる。まだ終わっていないが、最後まで元気に駆け抜けたい。

Workshop kit

来年度は感染状況にも気をつけながら、海外での活動を改めて視野に入れて進んでいきたい。初夏のイタリアでの滞在制作の話が進んでいるし、今後も予定されているフィンランドの継続的な巡回展にもタイミングがあえば現地を訪れたいとも思っている。新しい株の流行が気になり、状況が流動的なことは変わらずだが、世界のどこかに自分の作品があることや、招聘して頂ける話があるだけでも幸せなことだと感じている。来年はこれまでの活動をまとめる活動を一つの軸に、もう一つの軸として、気象予報士資格の取得を目指したい。(と他者の目に触れる場所に書いておく!)空気、物質循環、エネルギーという要素をここ数年特に意識的に扱ってきたが、芸術家の予言ではなく、科学的な予報の客観的なレベルまでこの地球を眺める視点を磨きたいなと思っている。そこにたどり着いてからまた次のステップを考えてみようと感じている。

 

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*プッシュ型支援プロジェクト#TuneUpforECoC 支援アーティスト*
https://www.eu-japanfest.org/tuneupforecoc/

(*2022年1月にご執筆いただきました)