「皮膚〜愛へ」

山内 祥太|© Koichi Takemura

今年は自分の制作活動の中で大躍進を遂げる一年となった。

今年の1月、代々木に新しくできたGallery TOHでの個展「第二のテクスチュア(感触)」にて、物語、映像、オブジェクト、パフォーマンスを組み合わせた、総合的なインスタレーションを展開した。コンセプトは漫画家諸星大二郎作「カオカオさまが通る」を引用し、都市の表層(さまざまな広告的なイメージやまたは絵画的なイメージ)と私たち現代人の表層である「カオ」を示し合わせ、コロナ禍に直面する私たちの心象風景を描き出した。

この展覧会で色々なことを実験した。まずは、展覧会で中心を走る物語を作ること。これは短編小説として会場でも販売することとなった。またパフォーマンスを導入すること。初日のオープニングレセプションでは自身の背中に刺青を彫るパフォーマンスを行った。

© Tatsuyuki Tayama

これらのアクションとナラティブがどこか不気味さを残しつつも鑑賞者の心に訴えかけ、展示は盛況のまま幕を閉じる結果となった。

そして、この夏ワタリウム美術館主催の「水の波紋展2021」に出展する運びとなり、「我々は太陽の光を浴びるとどうしても近くにあるように感じてしまう。」を制作した。

私はこの一年、自分にとっての中間領域を探すことがテーマとなっていた。それは哲学者の國分功一郎氏が書いた「中動態の世界」に多大な影響を受けたからである。

私たちは「純粋」な存在ではなく、誰もが他者に頼るしか生きることができない「不純」な存在である。という言葉が本書の中で印象的な一文として書かれていたことを覚えている。確かに私たちは一人であらゆる判断をしているわけではないし、あらゆる活動が何かと関係しているからこそ成立している。と言うことだ。そういった概念が脳裏で走り続けた結果できた作品が「我々は太陽の光を浴びるとどうしても近くにあるように感じてしまう。」である。

©Koichi Takemura

ゴリラの姿をした人間….毛が抜けてしまったゴリラ….などなど色んな言葉で表象することができるが、私はあえてこの不気味な姿を青山の一等地で曝け出した。広告に晒され、受動的にしか物事を考えられなくなった都市で生きる現代人に向けて「これはあなたたちの姿ではないだろうか」と問題定義したつもりである。映像の中でゴリラは自身の皮膚を纏っており、それはゴムのように伸縮して身体にまとわりつく。ゴリラはそれをまるでストリップショーのように鑑賞者を誘惑しながら脱ぎ捨てる。この展示で初めて野外で映像作品を見せるために大型のサイネージディスプレイを導入し青山通りの広告の中に強引に忍び込んだ。

変なゴリラが急に現れて喜ぶ観客、みて見ぬふりをしていつもと同じスピードで通り過ぎる観客、これがなんなのか美術なのか、単なる嫌がらせなのか、困った顔をして立ち去る観客などなど、さまざまな街ゆく人を色んな意味で困惑させる結果となった。しかしそれはキュレーターの和多利さんの思惑なのだ。都市がどんどんつまらなくなっていく。と彼は打ち合わせの時にいつもそう口にしていた。この青山地区で一人街の秩序を崩そうとしているギャングなんだよ!と最初の打ち合わせでそういった彼の顔はとても楽しそうだった。その気概を受け取り「我々は太陽の光を浴びるとどうしても近くにあるように感じてしまう。」は過去最大級の作品となった。街自体が作品となってしまったのだから。

©Koichi Takemura

そして、「水の波紋2021」が始まるちょうど前日に一本の電話があり、TERRADA ART AWARD 2021ファイナリストに決定したと知らせを受けた。TERRADA ART AWARDは僕とほとんど同世代のアーティスト5名がファイナリストとして選出され、寺田倉庫が持つエキシビションスペースで展覧会を行う企画だ。この時点で300万円の賞金をもらい、それを元手に作品を制作する。僕は「水の波紋展2021」に出展したゴリラの映像をパフォーマンスピースとして改良するプランを提出して、見事ファイナリストとして選んでもらうことができた。「水の波紋2021」が終わったのが9月5日でそれからすぐ制作に取りかかれるわけではなかったので、実質2ヶ月程度の制作期間でTERRADA ART AWARDの作品を仕上げることとなった。まず先に言っておきたいことがこのTERRADA ART AWARD 2021で発表した「舞姫」という作品が私のこれまでのアーティスト活動の中で過去最高傑作と呼べる作品になったということだ。周りの観客からもそれ相応の反応が寄せられ、自他ともに認める傑作が完成した。「舞姫」はプラン段階で過去作のスケール感を超えていたため、実制作は相当ハードなものだった。僕には超えるべき山がたくさんあった。僕が本当に伝えたい問いと誠実に向かい合うこと。それは「愛」について向かい合うことだった。人間に対してまたテクノロジーに対して自分がどう思ってるか伝えたいと思った。大勢の観客にまるで告白するかのように僕は作品を構想していった。とても大掛かりだったため多くの方に協力してもらう結果となった。プログラミング、衣装制作、ダンサー、音楽など各方面のプロフェッショナルを交えて毎日ミーティングや検証、実制作を行う。短期間の制作なので一つの判断が作品のクオリティに大きく影響してゆく…とてもストレスのかかることだがこの過程が僕を成長させたように思う。わからないところはプロに任せ、作品の肝を丁寧に作り上げる。。。「TERRADA ART AWARD2021」はそれが本当に結実した結果となった。いいものを見た時人は本当に感動するのだなと今作を作りあげていのいちばんに感じたことである。

 

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*プッシュ型支援プロジェクト#TuneUpforECoC 支援アーティスト*
https://www.eu-japanfest.org/tuneupforecoc/

(*2022年1月にご執筆いただきました)