ハンド・メイド・ムーブメント

時里 充

私は今まで映像に映る事象をメカニカルに動作する電磁カウンターで数値化することで、現実空間の時間と映像内の時間が擬似的にリンクするような作品のシリーズ「見た目カウント」(2016~)という作品を制作してきた。

このシリーズで私は、いくつかの時間のレイヤー(映像の中にある時間 / 映像を見る人の時間 /また映像を撮影した時の時間)について考えてきた。

また、「見た目カウント」シリーズの作品で、数値化してきた対象は初期は物質だったが、徐々に人間の身体の動作と物の関係が対象になり、最新作では、人間の身体の運動のみを対象にしている。

このように、作品を制作していく中で映像内の身体の動きや、動きに関わる物理的な現象へと興味の焦点が移行してきている。

その延長で、VRを手に取ってみた。

ヘッドセットを装着し手にコントローラーを握り映像に没入しながらそれを手を使い操作していく感覚が面白く、その感覚について考え始めたところから、今回のプロジェクトはスタートした。

2020年の10月ごろに購入し少し遊び、そのままになっていたVRヘッドセットを2021年1月、久しぶりに起動してみた。色々とソフトを試し、(体を動かすフィットネスのようなゲームなどを色々と試した。)、そのひとつとして3Dのモデリングソフトをダウンロードし起動した。

そこで3DモデリングをVRで行う感覚が、素朴にとても面白く感じた。

その頃、コロナ禍の中2020年に山口に引っ越しちょうど1年経とうとしていて、今までの作品の作り方や、今後の作り方について考えている時期とも重なり、とりあえず何か始めようという気持ちでVRを触り始めたことと、前述したように、面白く感じたその感覚について色々と考えるために、次の週から、VRヘッドセットを使用し、毎日一つのモデリングを日課として行うことにした。

VRでモデリングしていくと、当たり前だが直感的な操作ができることが、面白さを感じた一つの要素だということを発見した。顔を動かし、視点を変え、手を動かし、3次元空間にあるオブジェを操作していく。今までマウスを使用し、挫折してきた3Dのモデリングソフトの体験とは明らかに違った(細かい操作は難しい。)

毎日続けることで、身体が、ヘッドセットにどんどん慣れていく感覚が生まれて、何かしらのクセのようなものがでてきた。

ツール的な発見と、造形的な発見、また身体の動かし方の発見、コントローラーを握っている手の微妙な動き。

コントローラーは、バーチャル空間を操作するツールでもあり、手の延長でもある。

コントローラーを触っていると、自分はVRヘッドセットを被り一体何を操っているのだろうという気分になる。

VRのヘッドセットの中では、手は仮想的にコントローラーを握った手に変換される。

そういえばマウスも手で操作している。鉛筆で文字を書くときもそうだ。

そのようにして、「身体」への興味が少なからず影響してはじめたVRでの日課を通じて、「手」という存在への興味が大きくなっていった。

物(=ここではVRコントローラー)を操作する手の動きから毎日生まれているオブジェクトと、手そのものの動きを結びつける方法として、自分でも唐突だと思うが、ハンドパペットをベースにしたものを制作することを思いついた。

コンピュータの特性との相性も良く感じたこと、ハンドパペットにとっての身体は、ハンドパペットを操る手であるというところに面白さを感じたこと、また、ハンドパペットの造形が気に入ったということもあり、毎日の日課に、ハンドパペットを加えた。

ハンドパペットが動いている様子から、何かを喋り出しそうな雰囲気を感じる。

パペットの身体(=動かす手)の動きや、パペットに何を語らせる(もしくは語らせないのか)かによって、このパペットたちによる人形劇(=物語のようなもの?その断片?)が生まれるのではないか!?

そのように考えた。また、ハンドパペットを作っていく面白さのもうひとつのポイントとして、ハンドパペットは、それを操る手を包む(隠す?)形で、布がその手を覆っている。

そこにも、何か面白さのヒントが隠れているのではないか?!

その様な問いや興味を伴いながら、8月から本格的に人形を動かす実験を開始した。

人間の手をバーチャルで読み取るハンドモーションキャプチャーデバイス使用して、手の動きを読み取り、その結果をコンピュータ上の手に移し替える。

そこに製作しているハンドパペットの頭の部分を取り付ける。

その動きをもとに、コンピュータ上で衣裳を製作するソフトウエアを使用して、ハンドパペットの胴体の部分(布)を製作。コンピュータ上で布の動きをシミュレートし、ハンドパペットのモーション製作をした。

上記の製作を、考えながら手を動かすための日課とした。

8月24日から始めて、12月1日までの100日間行い、合計100体のハンドパペットを製作した。

製作しながら、ハンドパペットや布の動きの面白さ、手(コントローラーを操作する手/パペットを操作する(=パペットの身体としての)手/手そのもの)に関すること、VRで造形を作ること、コンピュータ上でシミュレーションを行うこと、いろいろな状態を考えながら、時に何も考えずに手を動かし製作して行った。

上記の過程で考えたことなどをもとに、次の段階として、CGを仕事にしている人、アーティスト、ダンサーなどをゲストに迎え、一緒にVRで人形の顔をモデリングしながら、作品を製作する上での考え方や、VR空間での制作をどう感じるか、身体や手についての話などをインタビューしていくという企画を現在進めている。この企画は今後の自分の制作や考え方などをアップデートするというリサーチの為に行い、最終的にはウェブサイトに制作の様子などをアップしていく予定である。

今後は上記の企画を進めつつ来年度に発表予定の人形劇のような作品を完成させるべく、日々色々と試行錯誤している。また、ヨーロッパ各地や世界のハンドパペットや人形劇の歴史や考え方、身体と衣類の関係についてなどもリサーチ、思考しながら進めていきたいと思っている。

 

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*プッシュ型支援プロジェクト#TuneUpforECoC 支援アーティスト*
https://www.eu-japanfest.org/tuneupforecoc/

(*2022年1月にご執筆いただきました)