Swedish Style in Tokyo 2013年再び東京にて

エヴァ・クムリーン|Svensk Form代表

私は、1997年から2002年までの5年間、駐日スウェーデン大使として日本に赴任していた夫に伴い、東京で暮らすという幸運に恵まれた。この5年の間に私は、日本とスウェーデン両国の関係が深まり、結びつきが強くなっていくのを感じた。私たちが、様々な文化に根付いたライフスタイルを紹介するイベントとして「Swedish Style in Tokyo」を立ち上げたのもちょうどその頃であり、それ以来このイベントは継続されている。一方で、2004年にはストックホルムで、「東京スタイル」と題した大規模なイベントの開催にも携わった。日本とスウェーデンの間にはそれ以降多くのつながりができ、形を変えながらも、双方向での交流は引き続き活発に行われている。2013年の秋には、EU・ジャパンフェスト日本委員会や他のパートナーのご支援によって、Swedish Style in Tokyoの東京イベント開催やスウェーデンの雑誌『Form』の日本語特別号の発行も行うことが出来た。

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FORMマガジン

私は、2004年から、スヴェンスクフォルムという、1845年に創立された世界で最も古いスウェーデンのデザイン会社にディレクターとして携わっている。この会社では1905年から、北欧の建築やデザインをスウェーデン国内外の読者に届ける『Form』という雑誌の発行も行っている。日本との良好な関係や、スウェーデンデザインへの関心の高さを鑑み、私たちはこのスウェーデン雑誌『Form』の日本語版特別号を発行することを決めた。この目的は、通常のシリーズよりも、より長期間にわたって読まれることにある。2013年11月4日には、代官山の蔦谷書店にて、クライン・ダイサム・アーキテクツという、東京に拠点を置き活動をしている建築家ユニットの協力を得て発売記念パーティを行った。この時、駐日スウェーデン大使のラーシュ・ヴァリエ氏や、アストリッド・クライン氏、マーク・ダイサム氏、黒崎輝男氏、そして日本のファッションデザイナーであるコシノジュンコ氏やその夫、鈴木弘之氏らによるトークイベントも行われた。クライン・ダイサム・アーキテクツは、2003年に始まったPecha Kuchaという、スピード・プレゼンテーションを行う人気企画を創設した団体であり、今やこのイベントは世界の700以上の都市で実施されている。東京デザイナーズウィークの期間中、このPecha Kuchaとのコラボ企画を開催し、そこを訪れた1,000人の観客に向け雑誌『Form』の宣伝を行った。『Form』は現在、蔦谷書店、みどり荘、スウェーデン大使館他、私たちのパートナー団体を通して日本の読者も手に入れることができる。

PGギャラリーは、スウェーデンのブランドや、そこで活躍するデザイナーの作品を展示するショールームである。80歳の巨匠オーケ・アクセルソンもそのギャラリーを彩る1人だ。彼は今も若手のデザイナーたちと同じように、最近のノマドトレンドに沿った日常使いの椅子など、小ぶりで扱いやすい家具をデザインしており、それらはオーケのウェブサイトからも購入可能である。インテリア家具の建築家・デザイナー、そしてヤシネスというスウェーデンの家具会社のオーナーとしての、彼の60年の精力的な活動がここに集約されている。オーケに関しては、ストックホルムでの回顧展に続き、東京で2つの企画が開催された。これらはPGコアド&マテリアルズの協力によってギャラリーで行われた他、ジョニー・ワカ氏による「Swedish Style +Tokyo Style」と題されたボルボ・ショールームでの展示会においても、アクセルソン氏の娘であるカタリナ・アクセルソン絵画展や芸術家の緒方慎一郎とのコラボ展示が行われた。オーケ・アクセルソン氏は、2001年、日本におけるスウェーデン・スタイルのブームを作り出すきっかけとなった1人である。PGギャラリーは他にも、スウェーデン在住の日本人デザイナー机宏典氏による新しいデザインの椅子の展示会も行った。

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オーケ・アクセルソン展
10月にはスウェーデン大使館において、18人のスウェーデンと日本の作家による織物の作品展「スウェーデンと日本のシボリ展 “Plentitude―萌芽HOUGA”」が開催された。これはトマス・ローリエン氏、弥永保子氏によって監督された展示会である。この展示会の名前が示すとおり、作家たちはPlentitude(豊富さ)や、時間をかけて作品を生み出すプロセスが持つ豊かさを表現しようとした。「シボリ」の技術は日本古来のものであるが、今ではハンドメイドの織物工芸品や、その彩色方法、成形やそのコンセプトを表す呼び名としても使われている。

スウェーデンには、子ども向け製品や子どもたちの暮らす環境への取り組みに関して、先進的な企業がいくつもある。10月25日から27日までの間、東京にあるスウェーデン大使館では、ビジネス・スウェーデン企画による「スウェーデン・キッズ・ウィーク」が開催され、マスコミを含め約1,700人の入場者があった。子どもの権利は、スウェーデンのデザイン哲学やその業界において長年にわたり大切な役割を担っている。子ども向け製品は、機能的でデザインに優れ、子どもたちの創造力を高め、安全・安心で子どもや青少年の心をくすぐるようなものであるべきという哲学が根付いている。

「製品よりまず顧客が第一である。見せびらかしではなく分かち合いの精神を持ち、楽しく友好的で、堅苦しくないこと」というポリシーに従って、私たちは現地のパートナーとともに製品を生み出してきた。彼らの協力なくしては、こんなにも大きなインパクトを生み出すことはできなかっただろう。ひとつのつながりが、また別のつながりを生み出していく。鍵となるのは協働、コラボレーションだった。家の机に座りながら海外向けの製品を生み出していたのでは、一方的なコミュニケーションしかできず、満足いくものは生まれない。製品の質以外にも、対話を通したコミュニケーションが不可欠である。それによりはじめて、現地の人が本当にほしがるものを生み出すことができ、本当にその製品を必要とする顧客に辿り着けるのである。

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絞り作品

1999年に開催された1回目のSwedish Style in Tokyoは、スウェーデン大使館が中心となり、どちらかと言えば質素な構成であった。90年代後半というのは、世界でスウェーデンのデザインやライフスタイルが流行り始めた時代でもあった。芸術、写真、ダンス、音楽、食べ物、ファッション、デザインなどについて広く取り上げられた。Swedish Styleはいつの時代も低予算で実施されており、そこに開催場所となる地元の人々の熱意や、低コストで斬新な手法を用いたマーケティング手法や、最先端の文化クオリティが加わって作り上げられるイベントである。東京は、巨大で魅力あふれる都市。多くの若者ボランティアたちが、スウェーデンと日本の関係強化の担い手となって活躍してくれている。限られた予算であっても、私たちは参加した人たちが独自につながりを広げられる場にすることを優先し、それによって持続的に関係が発展していくことを目指した。

輝かしい側面だけでなく、実験的、挑戦的な取り組みを含め、芯が通っていて決してぶれないということは、その文化の興隆には欠かせないものである。日本人観光客は、スウェーデンのライフスタイルを自分たちの生活にも取り入れられないかと考え、スウェーデンでの生活を見学しに訪れる。そして彼らは、日常生活の中で手頃な価格で優れたデザインを自然に取り入れることができるスウェーデンの伝統を賞賛する。堅苦しさがなく、大衆の意見に基づいた作りで、社会階層とは無関係のスウェーデン文化が持つこのような特徴は、日常の中でも上下関係や序列が大きな意味を持つ日本社会に対して、新たな可能性を投げかけるものであった。

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Plentitude-萌芽-展オープニング

一方で、スウェーデンにおける日本文化への興味というのも同様にまた、強いものである。長い間、精巧な日本の伝統文化は私たちにとっての憧れであった。デザイナーであるヴィルヘルム・コーゲは、20世紀初め、スウェーデンのNK百貨店において日本からの作品展示会を開催している。50年代から60年代に活躍したモダン北欧デザイナーたちは、陶器や家具、ガラス製品といった分野で日本のデザイナーと手を組み活動した。私たちはよく、日本と言えば禅の庭や無駄なものを一切省いたスタイル、他者への思いやり、自然や質の高いものへの共通の愛情を思い浮かべる。私たちは共に出しゃばらず、華美な装飾を好まず、身の丈にあったぴったりのものを好む、それで十分なのである。こういった傾向は今でも変わらず続いているが、さらに最近は新しい文化の波も押し寄せている。

スウェーデンの若い世代は、アニメや漫画に囲まれて育っており、日本語を学んでいる者も多い。そのため、鮮やかなトーンの画像や、かわいい日本雑貨、日本のポップカルチャー、コスプレしたキャラクターはスウェーデンでも大人気だ。日本の文化や文学は、一方で未来的であり、他方では伝統文化にもとづいたものであり、極端で斬新なアプローチの中に、私たちは異文化の魅力を感じるのだ。東京から来たDJもスウェーデンでは大変人気がある。スウェーデンでの寿司ブームも、日本食への更なる関心となって以前から根強く続いている。多くのスウェーデンのデザイナーや芸術家たちは、東京を訪れると、その街中にあるストリート文化や、建設現場で働く人たちのファッション、東急ハンズの商品のような、飾り過ぎることなく機能性に満ちた文化に魅了される。常に変化し続ける都会の光景、そして時代を先取りして生きるその強烈さ。東京のようなエネルギッシュな場所は他にはないのである。

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東京デザイナーズウィークでの PechaKucha

2004年にストックホルム全体を巻き込んで開催された大規模なイベント「Tokyo Style」では、このような日本の特徴を紹介し、さらにストックホルムの持つ特色と互いに共鳴できるような試みを実施した。東京からは400人の芸術家を含めた参加者が来場し、その同数の400人のスウェーデン人とのコラボレーションによって、ストックホルムのどこに行っても東京にいるかのような感覚を味わえるような企画を開催した。その功績は今も残っており、その余韻の中でさらなるコラボレーションをも生み出している。スウェーデンと日本の似ている点、そして全く異なる点が、お互いを惹きつけあっているのだ。その波は、形を変えながらも未だに続いている。新しい世代の若者たちは、新しいコミュニケーションスタイルを有している。しかしそこにもまた、内面や外見に惹きつけられるという関係が引き継がれており、華美で過剰なデザインの製品は新しいトレンドへと道を譲り、より持続可能で現代的なライフスタイルに適合し始めている。

Tokyo Styleは、2014年、欧州文化首都となったウメオで再び開催され、その功績をウメオに残すことになるだろう。EU・ジャパンフェスト日本委員会の協力により、2014年、リガとウメオで日本文化が広く紹介される。日本とスウェーデンの友好関係が引き続き育まれていくことを、私たちはとても楽しみにしている。