身体性の定義:カウナス写真ギャラリー片山真理写真展

ユステ・リティンスカイテ|カウナス写真ギャラリー、マネージャー兼展覧会コーディネーター

2022年の中頃、日本人写真家、片山真理氏の眩く夢幻的な作品群がカウナス写真ギャラリーの会場を満たし、魅惑的な発見空間へと変容させました。それは展覧会の域を超えたものでした。真理氏が為すあらゆる事柄と同様に、それは作家が独自に思い描く繊細かつ人の心を惹きつけてやまない美と完璧性の現れであり、強力な個人の意思表明といえました。しかし、何よりまず重要なのが、この展覧会がリトアニア市民との初対面となったことでした。

「Mari Katayama」と題したこの展覧会は、世界的に絶賛を浴びる同アーティストのリトアニアでの初の個展となりました。本展では、2015年から2021年にかけて制作された真理氏の写真シリーズが披露され、観客がアーティストの作品を回顧的に鑑賞できる機会となりました。

Mari Katayama’s exhibition at Kaunas Photography Gallery ©︎ Miglė Verikaitė

真理氏の芸術的実践は、自らの容姿や身体的経験によって形成されています。先天性脛骨欠損症を患っていた真理氏は、9歳で両足を切断しました。それ以来、自身の身体を生きた彫像として用いながら、独自に装飾を施した義足や手縫いの刺繍のオブジェを装着し、数々のセルフポートレートを制作してきました。緻密に演出されたセルフポートレート作品(撮影ではリモコンとセルフタイマーを使い必ずご自分でシャッターを切ります)のなかで、作家はアイデンティティ、美、女性性、脆弱性といった問題を探究するとともに、障がいに対する認識や女性の身体の表象に疑問を投げかけています。真理氏の一連の作品は、既知と未知の存在、自然物と人工物の境界線を捻じ曲げます。作品には、パーソナルな物語と普遍的な美術史からの引用に満ち溢れています。こうした要素が、彼女の作品を、極めて独特で共感を呼ぶものにしているのです。

本展は、「身体」そのものの、独創性豊かかつ解放的な再定義といえました。この展示が、観客に途轍もない感動をもたらしたことは言うまでもありません。本展の来場者は、真理氏の作品について、自らの感想や意見を非常に意欲的にギャラリーのスタッフと共有していました(読者の皆様、これはなかなか頻繁に起こることではありません)。真理氏の作品が観客に共鳴し、彼らに考えるべきこと、そして何より重要といえる、持ち帰って考える何かをもたらしたことは、目に見えて明らかでした。

真理氏は、自ら展示の設営を行うため、カウナス写真ギャラリーを訪れました。彼女は作品ごとに、最適な配置を慎重に選びました。真理氏の主なこだわりは、展示における絶妙な「バランス」と「リズム」を見出すことでした。それが観客との対話の始まりとなるからです。彼女は自らの作品を解釈する独自の方法を編み出すことで、ギャラリー空間での体験を魅惑的な旅へと変容させるストーリー展開や、手引きとなるナラティブを示唆していたのです。

自然光 ©︎ Miglė Verikaitė

真理氏は、展覧会設営中、ギャラリー空間に差し込む自然光に惹かれ、ごく自然にその光を使って試してみたいという気持ちになり、ギャラリーの窓のひとつで何枚か写真を撮りました。そのときに撮影された写真のうちの一枚が駆け込みで本展に加えられ、最後の仕上げとなりました。

来場者体験を補完するため、本展のオープニングでは、片山真理氏のアーティストトークと、展覧会ツアーが実施されました。本イベントは日本語で実施され、リトアニア語の通訳が付きました。この模様はカウナス写真ギャラリー公式Facebookのページでストリーム配信され、400名を超える人々が観覧し、現在もなお閲覧可能です。オープニングイベントは、展覧会体験全体において極めて大切な要素となりました。これにより、観客に作家と直接会し、作品を手掛けた人物を知る機会をもたらしたからです。それは、自らの芸術を通じて自分は世界とより幅広い社会とつながることができると信じる真理氏にとっても、等しく重要なものとなりました。

私達は本プロジェクトの開始当初、未だ知られていない日本人写真家、片山真理氏をリトアニアの観客に紹介し、現代ヒューマニズム写真の領域で用いられる正統派の写真様式に関するより幅広い認識を促すことを望んでいました。本展が、私達の抱いていたあらゆる期待を大きく上回るものとなることは、思いもよりませんでした。真理氏はこの展覧会において、障がい者の不可視性、肯定的あるいは否定的なボディイメージ、原型的な女性性などの問題を洞察力豊かに提起することによって、これらの問題への人々の認識を高め、それらを取り巻く偏見を低減しました。本展とその題材が、来場者の心に共鳴する光景を目の当たりにできたことを、嬉しく思います。

また本展は、ギャラリー内のインフラ整備に変化をもたらす動機を与えてくれました。真理氏や移動に不自由のあるギャラリー来場者のアクセスをより容易にするため、ギャラリーの入口に仮設スロープを設置し、後にそれは常設スロープに置き換えられました。私達は、物理的なギャラリー空間が、すべての人々にとってより包摂的になるよう、ギャラリーのアクセシビリティに引き続き取り組んでいきたいと思います。

片山真理氏の個展の制作は、仕事面でも個人面でも長く刺激的な発見に満ちた道のりとなりました。一年以上にわたる準備が、真理氏とMari Katayama Studioとの実り豊かでかけがえのない協働へと私達を導き、そこで留まることなく、すでに新たな連携プロジェクトの計画が進行しています。

Mari Katayama’s exhibition opening at Kaunas Photography Gallery ©︎ Miglė Verikaitė

真理氏の個展の会期中、作家の芸術実践をより深く理解していただくため、来場者が館内で閲覧できるよう、真理氏の作品群が掲載された日本の出版物を数冊ご用意しました。私達は、リトアニアの観客が、日本の美術書籍にかなりの興味を示していることに気づきました。このことが、リトアニアの観客に、引き続き現代日本写真に親しんでいただき、日本の造本技術を発見する場となる、日本アートブック展開催の可能性について考えるきっかけとなりました。そこで紹介される書籍の選定にあたり、片山真理氏ご本人以上に相応しい人物は思い浮かびませんでした。そして彼女は、今回のこのキュレーター役を引き受けることをご快諾くださったのです。展覧会は、真理氏を含む最大で20名の日本人作家が含まれ、20冊から40冊の出版物で構成される見込みです。少しでも運が味方し、2023年にこの展覧会を共創できることを願っています。