自己表現の幅

角田 一久|Paixtette 代表 チューバ奏者

初の欧州渡航、また同時期にドイツでのコンクールの出場を考えていたため、今回のルクセンブルクのエッシュで開催されるREMIX 22は自分にとって念願の機会であった。しかし当初は参加資格の年齢制限が24歳までと聞いており、半ば諦めかけていたが、事務局への確認をしたところ、年齢はあくまでひとつの目安ということであったため、自分の参加が認められた。ドイツでのコンクールの参加、そしてルクセンブルクの音楽祭の参加により、初めての欧州渡航であったが、1ヶ月の滞在となった。

日本では新型コロナウイルスの感染者の増減により緊急事態宣言などが出され続けており、大型の音楽イベントは現在でも規制が続いているのだが、欧州ではそのような素振りが全く見えなかった。まるでコロナは完全に終息したと言っていいような音楽祭であった。この欧州文化首都のREMIX 22自体も2年ぶりの開催となり、参加者の若者達もとても楽しみにしていたことが見受けられた。

Day 3. At the end of the first performance. With the audience ©︎Paixtette

自分は以前から西洋で発達したクラシック音楽を勉強する身として、自分の演奏が生活から音楽が根付いている人たちにどのように受け止められるのかがとても気になっていた。日本でフリーランスの音楽家として活動していくためには、どうしても他人からの評価が大事になってくるからである。コンクールで結果を残すことをはじめとし、自分の演奏を他人に評価してもらうことによって仕事に繋がることが大半であるからである。そういった観点から、今回の欧州滞在は自分の音楽や演奏技術が欧州でも通用するものなのかを見てもらういいきっかけになると考え、参加を決めた。

音楽祭期間が始まってから、そのような考えは薄れていった。多くの団体の参加者と交流をする中で感じたのは、彼らには自分達の音楽に絶対的な自信があることである。他人の評価を気にするわけではなく、自分達の音楽を存分に披露するという意識がとても強く感じられた。

Performance on stage on the last day of the music festival ©︎REMIX 22
 

音楽祭の参加者は10代の学生などが多く、とても若い演奏者が多かったのだが、彼らの立ち振舞いや演奏は他人の評価を気にせず、伸び伸びと音楽を楽しんでいる様であった。その純粋に音楽を楽しみ、自身のできる表現をするということが、今の自分に足りていない要素だと感じた。

自分達はアジア圏で唯一の参加団体だったため、もの珍しさからか、多くの方々が演奏に耳を傾けてくれた。演奏終了後には多くの方々が良かったと声をかけてくれたり、別団体のパレードの最中の隊長らしき方も声をかけてくれた。待ち合わせのために閉会セレモニーの最中に自分が一人で立っていたところ、「昼間の演奏がとても良かった。君たちのファンになったよ。」と言ってくれる若者もいた。コンクールが直前まであったためか、評価自体を気にしていたが、シンプルな言葉はとても胸に残るものであった。自分の音楽でもヨーロッパの方々に楽しんでもらえるということがわかり安心した。

Day 2. When playing on stage ©︎ Paixtette

また、音楽祭最終日に自分達の団体とほぼ同じ編成のオーストリアの学校からきたグループのメンバーと交流をした。彼らの出演は自分たちの直後であり、演奏は素晴らしいものであった。一つ一つの音の質の高さを感じた。お互いの演奏を聞き合い、終了後に感想を語り合った。その中のトランペットを演奏していた女性は出発時間の限界まで自分達と話してくれた。どこから来たのか、どこで勉強してきたのか、どうやって練習してきたのか多くのことを問われた。自分からしたら全く同じことをそのまま訊ねたいところであったが、自分達の演奏に興味を示してくれた。そして私たちのことを絶賛してくれた。
今回の滞在、そして音楽祭への参加で島国に居続けると言うことは文化的に視野を狭めていると感じた。多くの情報をインターネットで得られるようになった現代で、物理的な距離は関係ないと思っていたが、人や文化を実際に見ることによって得られるものは別段であった。教会や街の景観一つにしても写真で見るものとは違うものであった。その建物や教会が現代に至るまでに残り続けている意味があるのだと感じた。偉大なる作曲家達が過ごしてきた街並がそのまま残っていて、それと同じ景色を現代に生きる自分が見ることができるのは日本に居続けると得られない経験だった。西洋音楽を勉強している身としてこの上ない経験となった。

自分は音楽大学を卒業した後、チューバ奏者として活動をしてきたが、間も無く年齢も30代になるタイミングで今回の経験を得られたことをとても嬉しく思う。世界を狭めているのは自分自身で、自分の音楽を窮屈にしてしまうのも自分自身であることを強く感じた。 これまでの経験を活かした音楽をすることができるのは世界で自分だけであり、自分自身の音楽をより大事にしようと感じた。自分の活動は中高生の指導も多いため、今回の経験をより若い世代に共有し、彼らの世界も広めていく手助けを今後とも続けていきたい。