「場」と作りだす形を求めて

園田昂史

ドイツでの制作を初めて3年、2021年11月には私が現在住んでいるAlfterという町の歴史資料館で個展“Orange und Schwarz”を開催することができました。

この展覧会では「Alfterの冬の太陽」をテーマにした作品群を展示しました。この作品は2020年の1月に制作を開始したのですが、コロナの影響で展示開催が延びに延び、結果として何度も作品の完成と再考を繰り返しました。

2021年は、5月のAltenburgから始まり、7月―9月はHamburgとKielと場所を変えながらの滞在制作と展示が続きました。今からお話をする2つの滞在制作の経験は、特別なことではなく、日常の中にある何かが、私に訴えかけてくれていることに私が気付くことができるきっかけとなる機会を与えてくれました。

Solo Exhibition “Auch ich werde von Möwen Beobachtet” (I too am observed by seagulls)

5月20日から6月20日の間の1か月間、私は東ドイツにあるAltenburgという町の中心地にある旧カジノ施設で開催されたアートプロジェクトに参加しました。

会期中、2回の中間展示と最終日には成果発表展が開催されました。一週間おきに小展示を開催したことは、ストレスであり、同時に良いモチベーションにもなっていました。

今回、滞在制作を行ったカジノは、当時から集いの場所として愛されていましたが、カジノからレストランへと営業方針が変わり、二年前に閉鎖されました。

展示を見に来てくれた人達は、久しぶりにカジノに入ることができることがうれしいようで、当時の思い出を聞かせてくれました。むかしここでコックだったというおじいさんが、孫と一緒にやってきて、当時地下にワインをたくさん保管していてワイン用のエレベータがあったことを教えてくれたり、また別のおじさんは、隠し扉の裏のバー空間があったことを教えてくれたりと会話を続けるなか、住民の方々を通してカジノの時間による移り変わりが、新しい発見として私の中につみ重ねられていきました。

Altenburgに来て初めのころは東ドイツの様々な歴史について、そして歴史ある町にある大きくて美しい建物なのに殆どが空き家というアンバランスな現状について思いを巡らせ、自分はこの地で何ができるのか、そして反対に何をすべきではないのかを漠然と考えていました。しかし住民の方々と話をするようになって、私の中でカジノそのものとのかかわりがAltenburgと今の私との等身大のかかわり方だと思うようになりました。これは本プロジェクトをオーガナイズしてくれた友人の存在も大きく、彼らが事前に住民の方々との信頼関係を築いてくれていたおかげです。1週間ごとの成果発表は、住民の方に気軽に声をかけることのできる理由としても機能しました。展覧会は交流の場であると同時に完成した自身の作品について再考する機会でもありました。

次に、ハンブルクではAbstecher(迂回)というタイトルのグループ展に招待され、KielではGallarycube+が企画する2人展Meanwhile(その間)に招聘されました。

Two-person Exhibition “Meanwhile

ハンブルクでの滞在はKielの滞在と重なった10日間でした。Kielとハンブルクを行き来しながら、短い滞在を繰り返しました。Kielには2か月ほど滞在したことになりました。とてもたっぷりな時間で滞在制作に取り組めたといえます。どちらも制作に集中できた時間だったのですが、思い返すと地域住人の方々との関りが少なかったように感じました。なぜこのようになったのか、原因を考えなければならないと思いました。

普段は人見知りな私ですが、不思議と自分の作品を前にしている時は人見知りじゃなくなる感覚があります。作品は自分自身が感じ取った素直な意見や思いそのものだからだと思います。そして、発表することは自身の立ち位置をはっきりさせることです。このことは、私にとって、作品を制作し発表することが、私がその地域に住む人たち、つまりはその場所との本当の意味での関わりのスタートであるという事に気付かせてくれました。

先に書いた。Altenburgでの滞在制作とAlfterでの個展は、制作期間は大きく異なりますが、作品を1度発表した後にも住民の方々とかかわりを持ち続け、同じテーマについて再び考えそして再び展示を行った点が共通しています。そしてこれには時間と信頼関係と忍耐力が必要です。

Solo Exhibition “Auch ich werde von Möwen Beobachtet” (I too am observed by seagulls)

粘り強く同じテーマで作品を発展させることは、アーティストにとって特別な事ではないと思うのですが、私にとってこの経験は、自分がこれまで、如何に新しい刺激的な情報に頼った制作をしていたのか気付かせてくれました。そして、場所との関係を一度きりで終わらせるのではなく、完成した作品を通して、その場所と繋がり、じっくり何度も思いを巡らせることが、場所の捉え方や考え方、ひいては作品の形態を変化させていくことを実感できました。

今回の経験は、私の場所との関わり方そのものを変えることになりました。ドイツに拠点を移して早3年、だんだんと特別だった日常が特別でなくなってきています。だからこそ目の前にある大地、樹木、海、建物、そしてその中で生活している人たちなどが作り出す「場」の声を聞き、その声から感じ取れる思いをしっかりと受け止め、形として表現していくことを追求していきたいと強く思っているところです。

 

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*プッシュ型支援プロジェクト#TuneUpforECoC 支援アーティスト*
https://www.eu-japanfest.org/tuneupforecoc/

(*2022年1月にご執筆いただきました)