千年を超える伝統と現代芸術の合流

エミリア・シャカリエネ|日本文化週間inカウナス WA、MBヤポニステ、フェスティバルディレクター

カウナス市は、リトアニアを流れる二大河川、ネムナス川とネリス川の合流点に位置する都市です。あたかもこれらの川の水が合流するように、欧州文化首都カウナス2022プログラムの伝統を引き継ぎ2023年5月に開催された「日本文化週間inカウナスWA」では、日本の伝統文化が現代芸術と相交わりました。

ほぼ一年におよぶ本フェスティバルに向けた準備期間を経て、5月3日、日本人ダンサー本田綾乃氏の繊細な動きが、オープニングコンサートに集まった700名を超える観客を魅了しました。本田氏の心に残る出演の後、東濃歌舞伎中津川保存会の役者らが創り上げた独特なパフォーマンスが上演され、リトアニアの観客は、本場の日本人のように舞台を楽しみ、見事な演技への謝礼であるおひねりを投げる方法を教わりました。そしてこれは美しい友情を称える夕べのほんの始まりに過ぎず、遠山歌子氏と伴奏者による平和コンサートのための歌の数々の優しい音色が続きました。本コンサートのクライマックスを飾ったのが、山陰少年少女合唱団リトル・フェニックスとアレキサンドラス・カチャナウスカス音楽学校合唱団「ペルペトゥム・モビレ」と遠山歌子氏率いるグループの共演で、楽曲『We Declare Peace』を演奏し、観客全員とともに大合唱となりました。本イベントは、二国を結ぶ懸け橋のように、友情と世界平和への展望により人々をひとつにしたのです。

Festival Opening Concert – Utako Toyama with her band, Yonago City Youth Choir “Little Phoenix” and A. Kacanauskas School Choir “Perpetuum Mobile” ©︎ Martynas Plepys

観客がオープニングのコンサートを楽しむ一方で、カウナスAURAダンスシアターでは、デジタルアートとダンスが紡ぎ出すパフォーマンス作品『Garden 4.12°』のプレミア公演を控え、その最終リハーサルと準備が終日行われました。日本人音響映像アーティスト荒井建氏によるインスタレーション作品から着想を得て、振付家ビルテ・レトゥカイテ氏が花の装飾を通じて繰り広げられる、人類の経験を表現する振付作品を創作しました。星雲が惑星へ、舞台が広漠な宇宙へと変容を遂げ、庭園がダンサーの身体とデジタル・ヴィジュアル作品とともに開花するというものです。本イベントは、歴史あるアールデコ様式のカウナス・シネマ・センター「ロムバ映画館」で開催され、荒井建氏が開発したシナジー・オーディオ・ヴィジュアル・ソリューションとカウナスAURAダンスシアターのダンサーらの見事なパフォーマンスが観客をあっと驚かせました。フェスティバル「日本文化週間inカウナス WA」で生まれたリトアニアと日本のアーティストのコラボレーションは、互いを際立て合うこれら二つの芸術形式を融合するさらなるプロジェクトとして花開いていくことでしょう。

Hiroaki Umeda performance “Intensional Particle” ©︎ Evaldas Virketis

「日本文化週間inカウナス WA」では、今や日本の前衛芸術シーンを牽引する人物のひとりとして認められている、振付家であり領域横断的アーティスト梅田宏明氏を観客にご披露できたことを、とりわけ光栄に感じています。梅田氏主宰のカンパニー「S20」が設立されて以来、繊細さと激しさを持ち併せた彼のダンス作品は、世界各国を巡回し、観客および評論家より絶賛を浴びています。梅田氏の作品は、ダンスにおける身体的要素のみならず、振付の一環としての視覚的、音響的、感覚的、そして何よりも重要な、時空間的な構成要素を視野に入れながら、強力なデジタル表現を備えた高度にホリスティック(全体的)な芸術的手法で知られています。梅田氏は、時間と空間を振り付けることへの深い関心をベースに、振付家、ダンサーのみに留まらず、作曲家、照明デザイナー、舞台美術家、視覚芸術家として自らの才能を拡張しています。観客は、パフォーマンス作品『Intensional Particle』で、「不安定な安定」に溢れかえったデジタルの現実世界を、アーティスト本人が手掛けた壮大な照明アーキテクチャ、振付、そして梅田氏自らのダンスとともに体験しました。舞台上では、溶解する固体、液体の昇華、熱伝達アルゴリズムのイメージを想起させるデジタル粒子の瞬間的な形状が、梅田氏の動きとシンクロかつ合成され、生命体のように舞う全宇宙が繰り広げられました。

カウナス・アーティスト・ハウスの舞台で発表された、日本人アーティスト菅原圭輔氏による、抑圧された人間の感情を分析する斬新な演劇およびダンスパフォーマンスでは、世の不正や自らの不遇に対する嘆きに満ちた内なる憤りを意味する日本の慣用句「悲歌慷慨」がその象徴を成しました。日本の文化では、慎み深さと他者の感情を守ることが至上の美徳とされ、幼少から教え込まれていますが、他者を守るために、どれほどの吐き出されない感情が私達の心中に閉じ込められているのか?社会において私達はいかにして怒りを覚えるのか?こうした問いが役者によって提起されました。

夜の公演の合間には、連日のように日本文化のレクチャーや映画上映、その他のイベントなどで目白押しとなり、1,500名を超える観客が集まり、日本の生活様式や伝統の多角的な側面が学べる機会となりました。写真家の瀬尾浩司氏は、特別に東京からお越しになり、1,200年の歴史を有する「お家元」という、さまざまな日本の芸術的創造の匠の伝統を重んじる風習に焦点を絞った自らの「Oiemoto」展を発表しました。岩崎冬僊氏の個展「The Sense of Wonder」では、岩崎氏の穏やかな筆致が表現する独創的な書道作品が、ご自身の詩とともに披露されました。神奈川県平塚市写真展が、市の中心街を通りかかった人々の目を楽しませ、また5月3日には、千人を超えるカウナスの児童生徒達が舞う、日本の伝統舞踊『七夕おどり』のフラッシュモブが街を活気づけました。

Tanabata-Odori dance flash mob by Kaunas Pupils©︎Vilmantas Raupelis

4日間にわたる本フェスティバルは、川の水のごとくあっという間に駆け抜け、ラストを飾るコンサートの開催のときがやって来ました。観客には思いがけないサプライズが待ち受けていました。その晩の終わりに、津軽三味線奏者の一川響氏と日本の演歌歌手の望月あかり氏とともに、観客が歌を覚えて大合唱となり、ルーク・バーンズ氏の活気溢れる和太鼓のリズムが続きました。二国の合流による異文化的視点が、いつまでも記憶に残る日本の感性で私達の思い出を再び満たし、私達により強い絆と、さらなる豊かさをもたらしてくれたのです。