風紋

ミキコ サトウ|ミキコサトウギャラリー オーナー

まだコロナの規制が強い2022年2月末、ドイツ、ボンの美術館で開催された現代アートの国際展 “UP IN THE AIR”にて、ギャラリーに所属している、大阪在住作家ウエダリクオ氏の風によって描かれた作品15点とインスタレーションの作品が展示されました。

私は、作家のギャラリーストとして美術館と作家とのコーディネーターとしてお仕事をさせて頂きました。本来は、作品数点のみを展示することでしたが、日本人の作家がドイツの国際展で参加させて頂けるチャンスは、そんな簡単には回ってきません。私はこのチャンスをどのように次への作家活動の展開に結びつけるかと考えました。

Rikuo Ueda exhibition view / UP IN THE AIR ©︎ David Ertl / Kunst Museum Bonn

やはり動きのある風を使ってドローイングを描く繊細に製作されたインスタレーションを、作家本人が現地にきて制作し、ライブで皆さんに体験して頂くことにより、作品を深く理解してもらえるのではないかと考えましたが、その反面、コロナの感染の終止符が打たれない中、まだ日本では、3回目のワクチンが開始されていなく、外国からの帰国者も隔離をしなければならいない状況でしたので、作家をドイツまで招聘することは、生命の危険があるのではと考え、簡単には決められないと、とても悩みました。ウエダ氏とのお仕事は今年で20年目でギャラリーの拠点であるハンブルクを中心にギャラリーでの展覧会、ドイツ国内での野外のプロジェクトを何度も行って来ましたので最悪の場合、私が美術館の搬入に立ち会い、作家とはリモートでインスタレーションを搬入することも考えました。

そんな時です。Facebook上でEU・ジャパンフェスト日本委員会の古木さんがとてもエネルギシュに欧州と日本の架け橋となって日本のアーティストのため、また国際交流を活発にすることに尽力し、駆けずり回っているお姿を見て、自分がコロナの間で少し弱気になっていることに気づき、早速ウエダ氏に古木さんのことを伝え、3回目のワクチンをしてもらえるのあれば、こちらに渡航する可能性があるのではと再度話し合いをしました。ウエダ氏も古木さんの行動力に圧倒されたと言われていました。

そういう経緯で、結局作家本人がインスターレションを現地で制作することが実現しました。やはり作家がそこにいる、いないで現地のスタッフの雰囲気も全然変わってきます。また作家の制作風景を観察し、美術館スタッフとの会話があり、そこから作品についての新たな情報を知ってもらえる。そこには、リモートでは決して得られない人間と人間との生のコミュニケーションが強い絆となり素晴らしい時間を共有し、良い結果に結びついていく。
受け身では、予測のできない出来事が起こりづらいのです。やはり動くということが大切なことだと私は思います。

setup / Rikuo Ueda©︎Mikiko Sato Gallery / Foto: Daiki Kimoto

オープニング前のプレスの方々から作家に直接作品についてのインタビユーがいくつかあり、本人自身の言葉で回答し、また言葉だけでなく作家がそこにいるというだけでも作家からの雰囲気が繊細に相手に伝り、プレスの方々も更に深く作品を観賞して、日本の独特な風土で生まれた繊細な作品、ヨーロッパでは人間中心の考え方が多いがこの風のドローイングは、重厚を重んじるドイツの文化に対して軽やかさとユニークなこと、また作家本人が「風がアーティスト」と言い切り、自然に対して尊敬が感じられると、こちらでなかなか見られないオリジナル性が素晴らしいと評価されました。
その後地元の地方のTV, 全国放送のラジオにもウエダ氏の作品を紹介して頂くことになりました。ドイツでは政治的な内容、その背景の社会、歴史などを取り扱っている展覧会が多く、西洋の美術史に日本が介入していくことが難儀なことでもあります。こちらでは日本のアートは残念ながらエキゾチックのカテゴリーに入れられることも多々あります。それでも自分たちのオリジナル性を信じて継続してくしかないと私は実感しています。現に日本のアートは過去の西洋美術史に影響を与えているのは事実なのですから。        
                                        
1995年ごろ、私は偶然ある日本人の作家との出会いで、ドイツで現代アートに興味を持ち、アートにもっと携わりたい一心でどんどんのめり込み、オーガナイズのお手伝いをし、2002年に偶然のきっかけでハンブルクでギャラリーを運営しはじめ、それはあまりにも突然の出来事で、作家のリストもないまま始まったのでした。
そんな時、2001年にウエダ氏は大阪トリエナーレでハンブルク市とゲーテ・インスティトュート大阪の賞を頂き、翌年ハンブルク市に招待され二ヶ月現地のアトリエで制作し、滞在最後には展覧会をすることになっていたらしく、当時ウエダ氏を招待したハンブルクの文化省の担当者が、私が日本の現代アートのギャラリー開くことをどこかで聞いたらしく突然、電話がかかってきてウエダ氏の展覧会を依頼されたのが最初のきっかとなり、現在に至ったのです。まるでギャラリーのドアを開けたら風が入ってきたように。   

Opening View©︎ David Ertl / Kunst Museum Bonn

そんな訳で私は、初めはウエダ氏の風のアートについては、アイデアがユニーク、面白いアート、ドローイングも綺麗程度に思っていました。しかしその後、縁があり何度もウエダ氏のプロジェクトを手伝わせ頂きそばにいて、作家の制作を観察し、その時に作家らから出てくる言葉から作品に対して新しい発見を見出すこともしばしば。その後年月もたちその間自分の人生にも色々なことを経験し、それと同時にウエダ氏の風によるドローイングの作品で今まで見えていなかったもっと奥の深い精神的なことが徐々に見え始め、風を感じられることになりました。

作品のコンセプトの一部である”I think we think too much…” 
今では朝起きたらまず窓の外にある木の葉の動きを見て今日の風は。。。どんなドローイングを描くのかと想像してしまうのが日課です。