遊んで考える博物館

サラ・ストルフィ|ラ・ルナ・アル・グインツァリオ、プロジェクト・マネージャー

M.E.M.O.RI.(メ・モ・リ)は、海外から地中海を渡って欧州に到達した不要品やありふれた物に新たな生命を吹き込む異文化空間としての博物館についての集合的考察として誕生しました。

地中海は、古来より多様な文化交流を可能にしてきました。展示された品々は、そうしたやりとりを目の当たりにしています。これらの品物は人の手から手へと渡り、異文化の目新しい風習を運びながら、現地の人々の家屋や、船上、市場、港へと辿り着きました。

「欧州地中海リ(フ)ユーズ [不要/再生品] 博物館」(略してM.E.M.O.RI.)は、物を収集し大切にするというコンセプトをもとに様々な試みを行いながら、旅、交換、新発見を顕すことを志した展覧会を実施する、移動型の博物館となります。M.E.M.O.RI.は、物と戯れることを通じて、異文化交流の重要性に関する考え方や最良な実践方法の共有を可能にする場を創出します。

加藤かおりさんとの打ち合わせは、自分達の手を使って展示から着想を得たアートゲームの具体化の可能性を実験し視覚化する、折り紙や折り襞を通じた変容する紙の芸術についての意見交換を行う素晴らしい機会となりました。

M.E.M.O.RI.は、再生品で造られたインスタレーションアート作品によるインタラクティブな展覧会の分野に特化した芸術集団、ラ・ルナ・アル・グインツァリオの経験から派生したものです。全ての展覧会が、アーティストと連携し、一般市民を巻き込んで実施されます。 

私達はM.E.M.O.RI.プロジェクトに際して、拡大可能な欧州・地中海地域コレクションが収蔵できる、広域からの参加を得た博物館を実現するため、国際的な芸術ネットワークの構築を望んでいました。

ラ・ルナ・アル・グインツァリオ・コレクティブは、アーティストとしてのみならず、欧州・地中海沿岸地域での旅の道中や国際交流の場で見つけ、自分達が特設の博物館で保存、展示、共有をしたいと感じた品々を蒐集する、コレクターとして当プロジェクトに参画しています。

まず私達は、地中海沿岸全域に点在する5ヵ所のアトリエ訪問を行い、創造芸術の実践について理解と共有を図りました。1ヵ所目はマラガのアトリエで、アーティストのピラー・バンドレスさんとシロ・ガルシアさんにお会いしました。おふたりは、ともにスペイン・マラガのサン・テルモ工芸学校の教授でもあります。2ヵ所目がモロッコのティトゥアンで、フランスで学業を修め、テトゥアン国立美術アカデミーで教授を務めるハッサン・イシャイアさんが率いるアトリエ、3ヵ所目のジェノヴァでは、5つのコミュニティが当プロジェクトに参加するワークショップを共同開催し、またカリグラフィー作家のフランチェスカ・バイアセットンさんとお会いしました。4ヵ所目がマルセイユで、ここでは欧州地中海文明博物館を訪れ、建築家で博物館学者のファビオ・フォルナサリさんとお会いしました。5番目のチュニスでは、バルド国立博物館と、地元のベルベデール公園友の会のご案内で郷土工芸・デザインの工房の数々を訪問しました。

そこで、芸術的実践の共有や、手作りの土産物や思いがけない拾い物、不要になった物や素材、あるいは特別な贈り物など、物品を通じた異文化探求を行う上で、これら5ヵ所の地中海沿岸都市とバジリカータ州内の5つのコミュニティ間の創造的対話を始動させる、文化的ネットワークを創出することが課題となりました。

最も興味深い一面のひとつとなったのが、オーストラリアでの勉学を経て、世界的に活躍する北海道出身の日本人アーティスト、加藤かおりさんとのコラボレーションでした。

私達は、箱に収まり、どこにでも持ち運びや郵送ができる自由気ままな博物館に向けて想像力を解き放ちかつ促進させるための、人々が自分達の手で作れるキットの制作の可能性を試みるにあたり、折ることで変容する紙の芸術を取り入れることに決めました。そのまま持ち帰ることができ、十代の若者達がどこででも遊べる、手作りミュージアムを実現したいという考えが私達にはありました。

私達は、加藤かおりさんに3段階の取り組みをご提案しました。

‐ 欧州文化首都マテーラ2019を記念し、欧州で最も重要な彫刻美術館に数えられるMUSMA(マテーラ現代彫刻美術館)の、加藤さんのインスタレーション作品「ドローイング・マシーン」の展示。

‐ 2つのM.E.M.O.RI.プロジェクトパートナーであるラ・ルナ・アル・グインツァリオ・コレクティブとMOONと連携し、市民や学生達とともに2種類の異なる折り目模様を制作するプロジェクトの共同展開。

‐ ギャラリー来場者とマテーラ市内の芸術系高等学校の生徒の2グループを対象とした2回にわたるワークショップでの指導。

私達はMOONにて懸命な取り組みに励みました。MOON(ナラティブ・オブジェクト博物館・工房)は、ラ・ルナ・アル・グインツァグリオがポテンツァ市に開設し、協同組合法人イル・サローネ・デイ・レフュータティ(廃棄物のサロン)が集団運営する、展覧会やイベント開催のためのギャラリーと、廃棄物を用いてインスタレーション作品を実体化する創作スペースを備えた施設です。

私達は、実在する物に新たな名前を付けることで、視点を逆転させるゲームの制作に際し、見事な言葉遣いの達人アーティスト、マッシモ・ジェラルド・カレッセさんとコラボレーションを組みました。芸術的実践から着想を得た教育的ゲームを実施したことのあるメディア教育機関チェントロ・ツァッフィリアのグループ体験が活かされ、このブレーンストーミングは充実した展開となり、その模様は文書にまとめられ、博物館の学習プログラム向けに欧州と日本で公開される予定です。 

加藤かおりさんの芸術は、平易で親しみやすい形状が、折ることで誰でもブロックが作れ、それが箱や展示ケースとなり、あらゆる場所で博物館を想像したり創造できる、手作りの紙製ツールの実現を促すという意味で、極めて重要なポイントをなしました。

第2回目のワークショップは、M.E.M.O.RI.の5つの異なるコレクションのように、5つの異なる面が発見できる、折り本の制作に焦点を当てて実施されました。アーティストも自ら「インタラクティブな彫刻」を制作し、当ワークショップで披露しました。

これらのワークショップは、ギャラリー来場者、学生、さらに連携パートナーや教師の方々から、多大な評価をいただきました。

異なる文化圏からの専門性を取り入れるチャンスと、芸術の媒介力により、異文化相互の対話が成長する場としての博物館についての創造的議論を推し広げる絶好の機会をくださった、EU・ジャパンフェスト日本委員会からのご支援に感謝いたします。

次なるステップとして、欧州文化首都マテーラ2019会期中に開催のM.E.M.O.RI.展を検証し、引き続きアートゲームに取り組み、観客の反応を試しながら、主なる議題や芸術的ツールの明確化を図り、その成果を特製の箱に収めて発表し、欧州全土、さらには日本の博物館でも共有したいと考えています。