シビウ国際演劇祭2020オンラインエディションを終えて

谷口真由美|ボランティアプログラムコーディネーター

 2020年シビウ国際演劇祭はCOVID-19により、来年2021年にその演目を延期、2020年はオンラインでのスペシャルエディションになりました。今年は、私自身にとっては、シビウ国際演劇祭にボランティアとして初めて参加して以来11年目、ボランティアコーディネーターとして演劇祭に関わるようになってから7年目の年でした。この11年・そして7年の間には、演劇祭の規模も大きくなり、チームメンバーの多くが入れ替わり、ボランティアプログラムも広がり少しずつ整備する一方、継続してかかわることの光と影を感じ始めていました。

 日本からのボランティア受け入れについては、例年3月末にボランティア選考の結果連絡を行ってきましたが、今年は3月20日に結果連絡をしました。そして、3月27日に今年の演劇祭演目の延期・オンラインでの特別エディション実施が正式に発表されました。不確かな状況の中で結果連絡を行い、2020年ボランティアメンバーにぬか喜びをさせてしまう形になってしまいましたが、結果から考えると2020年のボランティアメンバーの存在によって、これまでの演劇祭の在り方を見つめなおし、そしてこのオンラインエディションからの未来への提言を受け取ることができたと感謝しています。面接の段階から、ウィルスの状況次第では今年のボランティアプログラム中止もありうることを皆さんに伝えてきていましたが、世界的なパンデミックの状況下で、私自身日本からの帰国で自主自宅隔離の状況の中、これまでシビウで奇跡のような数々の結果を見てきていたため“シビウ国際演劇祭なら何か方法を見つけてくれるのではないか?”と、どこかで信じていたと思います。20日の結果連絡の際も中止の可能性があることを前提にしつつ、ただ待つだけではなく私自身も何か動いていかねば、という思いがあったのだと思います。その分、今年の演目の延期という発表を聞いたときは、“ああ、シビウでも駄目だったか”と正直力が抜けました。が、約2か月でオンラインでのスペシャルエディションを開催したシビウ国際演劇祭は、どんな境遇にあっても奇跡のような結果を作り出す底力を持っていると改めて感じました。そしてそれは、私自身が日ごろ感じるルーマニアのたくましさとも通じるものでした。日本を含む今年のインターナショナルボランティアの受入はかないませんでしたが、結果連絡をした2020メンバーが、今年のオンラインで一緒に出来ることを模索してくれたこと、そして来年、シビウでの演劇祭実施が実現するならば2年越しでシビウに来たい、と言ってくれたことが原動力となって、私自身今年のオンラインエディションを迎えられました。実際には、オンラインでの事前ミーティング、演劇祭期間中の情報アップデートや演目・カンファレンスのお知らせなどをグループメッセージを通して行い、また、シビウアーツマーケットでは、過年度メンバーを含むボランティアの登録参加というチャンスをもらいました。来年のシビウに向けて、まずはどんなジャンルの演目があり、どんなイベントが開催されているのかを知ってもらう事を目的に時間のある限りオンライン視聴・カンファレンス参加をしてもらいました。ただ、日本での緊急事態宣言解除後だったこともあり、メンバーそれぞれ忙しい日常に戻りつつあるタイミングだったことからなかなか視聴・カンファレンス参加をしてもらえなかったのは残念でした。それでも、それぞれのペースで視聴・参加、そしてSNSでシビウ国際演劇祭についての発信を行ってくれ、オンラインボランティアとしても活躍してくれたと思います。

 

 私自身は、期間中の10日間はパソコンをテレビにつなぎ一日中映像を流し、携帯で家事をしながらトークセッションを聞くなど、初めてボランティアとして参加した年以来、まるでシャワーを浴びるようにたくさんの演目・トーク・カンファレンスの時間を持つことができました。それは、私自身にとってとても必要なインプットの時間で、素晴らしいアーティストの方々の話を直接聞く貴重な機会と、シビウ国際演劇祭の幅の広さに改めて敬服する思いでした。と同時に、初めて家族や、高校の同級生・昔の職場の同僚など、彼らが興味を持ちそうな演目の紹介(主に日本関連の演劇や、アウトドア、ダンス、ゴスペルなど)を送り、演劇祭にこれまで接点のなかった周囲の人に私が情熱をもってかかわってきたシビウ国際演劇祭を紹介することができたことが、個人的に今年の大きな収穫と喜びでした。

 

 

 毎年のボランティアから指摘されてきた“シビウ国際演劇祭の認知度の低さ”についても、今年のメンバーからも意見をもらいました。これまで“シビウ国際演劇祭はチケット料金を抑えるためにも事前の広報などに予算を割かないできている。すべての作品を招待作品とすることで、(もちろん作品の好き嫌いはあるものの)質を保った作品を届ける。アウトドアからインドアに人を呼び込むという仕組みで流れを作る”といった地道な継続的な広がりについて説明をしてきましたが、今回のオンラインエディションを経て、これまでの取組をベースにしながら新たな段階として、広がり方を繋げていく段階に来たと感じています。それは、ボランティアプログラムについても同じで、今回のことをきっかけにオンラインでの事前ミーティングや事前トレーニングの可能性・やり方が広がったと感じています。それを学びのチャンスととらえ、今後につなげていくことが私自身が現在できること、すべきことの一つだと思います。

 

 

 来年のシビウ国際演劇祭は2021年6月11日~20日での開催を予定。ウィルス感染の危険や不安が完全に払しょくされない限り、昨年までと同じ収容人数や規模での演劇祭は実施できないだろうと想像しています。シビウアーツマーケットのカンファレンスやアーティストトークを通して、これまで素晴らしい作品を生み出してきたアーティストたちも苦悩し、もがき、その創造性へのチャレンジを続けていることを知り、改めて、私たちすべてがその想像力と創造力を今求められているのだと強く感じました。これまで当たり前だと思ってきたことを振り返り、そこに新しい意義や価値を見出し継ぎ足していくひとつひとつの積み重ねがこれからを形作るのだ、と。

 現在様々な分野で、様々な方法で努力を重ねられているすべての方に感謝と敬意をもって、私自身も、自分自身の身の回りから、もう少しその先へ、できる工夫と努力へのチャレンジを続けていきたいと思います。