サボタージュのチャンス到来

デリア・ポパ|広報担当

サボタージュ・フェスティバル2021は、音楽、テクノロジー、知識をふんだんに盛り込んだ祭典です。第9回目を迎えた本フェスティバルは、9月24日から26日までの会期で、ティミショアラに出来た新しい実験技術センター、MultipleXity (マルチプレキシティ)の中庭にて開催されました。本フェスティバルは、国内各地から若者を一堂に集め、多様性を称え、新たなサウンドで実験的な試みを行うことをねらいとしています。

欧州文化首都ティミショアラのプログラム「Energy Incubators(エネルギー・インキュベーター)」の一環として実施されたサボタージュ・フェスティバルは、工業建築を見渡す環境を舞台に、電子音楽ならびにマルチメディア・アートを通じて人々を繋ぎました。その焦点となったのが、音楽の響きを通じて過去の遺産を再活性化することでした。

サボタージュ2021では、コンサート、DJセット、ドキュメンタリー、レコードフェア、ポップアップ・ストア、討論、マルチメディア・アート展で構成された、趣向を凝らしたプログラムに重点が置かれました。

Music Arena ©Seba Tataru

第29回EU・ジャパンフェストとして、2021年度のラインアップでは、日本とルーマニアの文化の融合をお届けしました。このアイディアにより、ルーマニアの音楽シーンではあまり知られていない日本人アーティストが前面に押し出されました。

音楽プログラムは、電子アリーナとダブ・アリーナの二つの領域に細分されました。いずれのアリーナにおいても、Kyokaライブセット(日本)、Mimicofライブセット(日本)、So (日本)、Poly Chainライブセット(ウクライナ)、Hiroko Hacci(日本)、Indica Dubs(英国)、 Echoboy aka Riddim Tuffa (スロヴァキア)、 Dubapest Hifi(ハンガリー)といった海外アーティストにスポットライトが当てられました。

ライブエレクトロニックミュージック(ライブ電子音楽)とは、電子音響生成デバイス、改造された電気楽器、改変された音響生成技術およびコンピューターを含んだ音楽演奏の形式を意味します。

このような演奏形式において、多くの場合、音楽的即興性が中心的な役割を果たします。Kyoka氏が語ってくれたところによると、彼女の音選びは、特定の周波数に対する観客の受け止め方に影響されて行われ、それにより彼女は自然発生的なライブパフォーマンスを創り上げているとのことでした。これは、同じくライブ演奏を行ったMimicof氏にも当てはまることでした。双方のライブセットはともに、ライブエレクトロニックミュージックにとって、コンテクストと期待がいかに極めて重要であるかを表しています。 

Performance scenes at Sabotage Festival ©Seba Tataru

音楽のライブ演奏におけるこのような物理的、機械的要素の混合が、電子音楽のパフォーマンスとその楽器に秘められたモジュラー的性質を顕わにします。それは、楽器そのものを特徴の特定要素として見なすのではなく、むしろライブ装置全体におけるその組み合わせや、それがもたらす可変性に着目すべきであることを私達に語りかけているのです。

日本人アーティストを選出するにあたり、第一にアーティストの音楽的アプローチがテクノ、エレクトロ、実験音楽であること、第二に彼らの知識と経験が主な基準となりました。これらのなかには、世界の電子音楽業界に意義深い貢献をもたらしているアーティストも複数存在します。

例えばKyoka氏のように、わずか7歳でテープレコーダーを用いた試みを始めたアーティストがいます。彼女は東京での学生時代に、ドラムマシーンやシーケンサー、MIDIコントローラーを入手し、onpa))))) レーベルからリリースする楽曲のレコーディングを開始し、その後オリジナル作品「Ufunfunfufu」(2008年)、「2 Ufunfunfufu」 (2009年)、EP「iSH」(2012年)、そしてアルバム「Is Superepowered」(2014年)を発表しました。Kyoka氏は、raster-notonとの契約を果たしたレーベル史上初の女性ソロアーティストでもあります。

Mimicof氏は、電子処理を施したモダンなサウンドやフィールドレコーディングを用いた実験的かつ折衷的な融合を特徴とする、極めて優れた作曲家です。これまでに、レコードレーベル、プログレッシブ・フォーム(PROGRESSIVE FOrM)から同名義で2枚のアルバムとEPをリリースしています。

So氏(青柳聡)は、東京を拠点とするテクノフェスティバル、The Labyrinthでの活動でより広く知られています。オーガナイザーでありDJでもあるSo氏は、絶妙にセレクトされたグルーヴ感満載のトラックが織り成す選曲と、スムーズなミックステクニックを披露し、日本で最も尊敬と信頼を集めるDJの一人として活躍しています。 

Hiroko Hacci氏は、幅広く多彩な音作りにより、多形的アーティストとして、観客によって流動的に変容や発展を遂げることができます。Gak Sato氏とのエレクトロ・ポップユニットOmnineの活動をはじめ、Tamburi NeriとDumbo Gets Madでボーカルコラボレーターとして参加したり、ミラノのオンラインラジオ局Radio RaheemでレジデントDJを務めるなど、多岐にわたるプロジェクトに参加しています。

サボタージュは、2021年度の本フェスティバルを盛り上げるAlur Duvaal氏、Jon Jitsu氏、LionRiddims氏、Mighty Boogie氏、Mitsubitchi氏、Mr. H氏、Mi-tzu氏、Rapala氏、Virgil氏、who:ratio氏といった地元および国内のアーティストによるサポートアクトに恵まれました。

テクノロジー・アリーナでは、Psihodrom (Eugen Neacșu氏、Adrian Marian氏、Octavian Horvath氏)とDorian Bolca氏によるインタラクティブなデジタルインスタレーション作品が展示されました。

Dub Arena ©Seba Tataru

ナレッジ・アリーナのプログラムは、映画上映、講演、ワークショップに重点が置かれました。今回のフェスティバルでは、電子音楽界における女性パイオニア達と、彼女らから名声を奪ったセクシズムを描いたドキュメンタリー映画「Sisters with Transistors」が上映されました。

2本目の映画として「Swamp City」が上映され、これに続いて映像作家との一連の討論会が行われました。この映画は、地域の人々が語るエピソードを集めることにより、共産党政権崩壊後最初の10年間のアンダーグラウンド音楽シーンの考察を映し出した作品です。

ナレッジ・アリーナでは、音楽制作をテーマとした2つの音楽ワークショップが行われました。ここでは、制作を始めるにあたって必要な事や、制作プロセスおよびその背後にある技法についてディスカッションが行われました。2つ目のワークショップではミキシングを取り上げ、音楽ジャンルやプロ用DJ機材によって異なるさまざまなミキシングのスタイルを論じました。

本フェスティバルでは、レコードフェアのほか、Dona Arnakis氏、Chrs Rzvn氏、Lore Ilie氏、Mimi Ciora氏といったアーティストが出店するポップアップ・ストアも開かれました。

我が市では、新型コロナウィルス感染者数の急増により、本フェスティバル開催のたった2日前に政府がロックダウンの実施を宣言しました。先行き不透明な時の訪れに、サボタージュは重大な危機に晒されました。その日、私達は出演アーティスト全員に、今年のフェスティバルの延期の可能性を告知しました。しかし幸運が私達を味方し、翌日になって政府がその条例を撤回したことにより、準備を完了するための24時間が与えられたのでした。

ティミショアラでは、2020年以降、代表的な電子音楽のプログラムの開催がありませんでした。そのことから、サボタージュは、電子音楽カルチャーに残された最後の送電塔となりました。このように自由に解き放たれたかたちで、アーティストやテクノロジー、そして音楽をただひたすら発見しようと国内全土から集まった観客が参加しました。サボタージュ・フェスティバルは、こうしたコミュニティーに大変必要とされており、静まり返った音楽シーンに、ちょっとした新たな風穴を開けたといえるでしょう。 

Knowledge Arena ©Seba Tataru

サボタージュは、あらゆる熱心なエレクトロニック・ミュージックファンや、デジタルアートを追求する人々の集いの場となりました。私達は、より技術的性能の高い音響システムを備え、世界有数の電子音楽のパフォーマンスをお楽しみいただくのに最適な環境を提供しました。観客は年齢層が若く、新しい音楽ジャンルの発見をオープンに受け入れていました。本フェスティバルには、ルーマニア、ハンガリー、セルビアから、1日当たりおよそ300名もの参加者の来場がありました。

全体的な印象として、サボタージュは、革新的なテクノロジーの繁栄のためのプラットフォームを創出し、異なる音楽的背景を持つアーティスト同士のつながりを構築するに至ったと私達は感じています。