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[Vol.102] 挑戦者 – The Challengers

小川正晃

倭代表・芸術監督

我々にとって54カ国目の訪問国となったCyprusでの公演は「呼ばれればどこまででも行こう!世界の人々を元気にしよう!」を合言葉に活動を続けてきた我々にとって忘れられないものとなった。

2017年6月27日夜、我々は活動拠点である奈良県・明日香村を出発した。1年の半分を世界ツアーと称した公演活動を続ける我々にとって、この、明日香を出発して異国の公演地に向かう光景はいつもと同じ見慣れたものだ。しかし、今回は何かが違っていた。キプロス・パフォスへ向かう我々はいつもと違う感覚を感じていた。それは、うまく言えないが、なんというのか「使命感」のようなものだったのかもしれない。心なしかメンバー個々の表情も緊張していた。いつものツアーの時よりスマートに着こなした服装もどこかぎこちなかった。

「欧州文化首都 パフォス2017」に招聘され、公演を行う。その事実は我々のこれまでの活動に対する一つの信頼や評価だと、みんなが感じていたのだと思う。別に誰かがそう言ったわけではないけれど、「日本と欧州の人々の架け橋にならねばならぬ」などという大それた気分、勝手に背負ったその重責を、まさに「勝手に」「誇りを持って」受け止めながら機内の人となった。

明日香を出発し、Cyprusまでは飛行機を乗り継いで約30時間。2017年6月28日昼、Cyprus到着。全体的に疲れが漂った機内から抜け出し、Cyprusに降り立った我々を真っ先に出迎えてくれたのはCyprusの抜けるような青空と太陽だった。いきなりの直射日光に目が眩む。6月の日本は「梅雨」と呼ばれる雨季の真っ只中。雨にけむるしっとりとした明日香村を出発し、深夜に飛行機に乗って到着した地中海に浮かぶ島、Cyprusは大げさではなくキラキラとした輝きに満ちていた。眩しかった。空は青く、海は更に青く、太陽が力強く、吹き抜ける爽やかな風に心も体も透き通る気分だった。我々はいきなりの素晴らしい歓待に心を躍らせた。

倭は和太鼓という日本伝統の楽器を用い、斬新で革新的なパフォーマンスの創造に挑んでいる。明日香という日本国家誕生の地、歴史の深い地に暮らし、伝統楽器に触れているが、我々の音楽や舞台は伝統的ではない。今を生きるもの、我々の肉体と精神によって、和太鼓という楽器による新たな音の世界を創り上げようとしている。

和太鼓パフォーマンスの様子 (写真提供:小川正晃)

明日香村を拠点に、世界を駆け巡り、世界中の人々と出会う。時に「肉体の音楽」と呼ばれる我々のパフォーマンス。全身全霊で打ち鳴らす爆音は、人々の心音・体力の限界に挑むかのようなそのパフォーマンスは、すべての人々の人生の縮図だ。和太鼓の響き、鍛え上げた肉体を以って、人間の持つエネルギーを表現する。観客にエネルギーを届ける。我々のエネルギーを得た観客はそれぞれの笑顔と歓声で我々にエネルギーを送り返してくれる。エネルギーの交歓を繰り返しながら互いに「生命」という作品を熟成させていく。

そして、2017年の欧州文化首都。美の生誕地と呼ばれる「パフォス」。ここが今回の倭舞台だ。照りつける太陽の下、市庁舎の前に倭のステージが組まれてゆく。40フィートコンテナを積んだ大きなトレーラーから次々と太鼓が登場する。直径1m70cm、重さ500キロを超える大太鼓を筆頭に大小数十台の日本の太鼓だ。樹齢400年の大木から生まれた大きな太鼓が青空に映える。

公演の前日、朝から始まった準備は延々と続いた。汗が滴り落ち、皮膚がじりじりと焼けた。日本から遠く離れたこの地での公演は1度きり。これまで行ってきた3500回を超える公演で得たものをすべて注ぎ込むべく、集中した時間が過ぎた。真っ青だった空がオレンジ色に変わり、風が涼しくなる。この空の美しさとシンクロさせるように美しい舞台を創り上げてゆく。メンバーと、日本人のスタッフ、他のヨーロッパの国のスタッフと、そしてCyprusのスタッフが力を合わせて創り上げる舞台。作業は明け方、4時まで続いた。

数時間の仮眠をとり、ついに公演当日。朝、海の向こうから霧が立ち込めていた。地元の人も珍しいと言っていたその霧は静かに厳かに陸にたどり着き、パフォスの街を包みこんだ。なんとなく特別な1日を予感させる始まりに緊張感が募る。再び会場となる市庁舎前で準備再開。楽器のチェックや音のチェック、細かな作業が続いた。午後を過ぎ、少し焦りも出始めた頃、市庁舎の前に大勢の人だかり。そうだった、公演前に和太鼓のワークショップを行うのだった。大急ぎで準備を完了し、ワークショップ開始。舞台上はあっという間に参加者のみなさんで満杯。どの顔も初めて見る和太鼓に興味津々の様子。そして一斉に和太鼓を打ち鳴らす。和太鼓の爆音がパフォスの空に響き渡る。みんな素晴らしい笑顔。汗が光る。日本語交じりの説明に優しくうなずいてくださったみなさん。少しでも和太鼓の楽しさが伝わっていればいいなと思う。

暮れなずむパフォスの街に出来上がった倭の舞台。様々な人々の力が創り上げた舞台に和太鼓が並ぶ。観客席に人々が集まってくる。あちらからもこちらからもやってくる。倭を観るために島の反対側からやってきたのだと笑顔を見せてくれる人たち。おじいちゃんもおばあちゃんもお父さんもお母さんもお兄さんもお姉さんも小さな子供達も赤ちゃんも、みんな集まってくれる。

開演(写真提供:小川正晃)

午後9時、開演。数えきれない人、人、人。そのすべての人々に届けと打ち鳴らした。みんながそれぞれの人生を歩む、その少しばかりのエネルギーになることが出来れば、そう願った。

Cyprusの美しい町パフォス。2017年、世界中の様々な芸術がこの島に集い、この地を彩り、人々に様々な刺激と活力を与えている。争いが絶えないこの地球上において、異なる人々が一つになれる瞬間がここにある。そこは、新しい理解、新しい関係、が誕生する可能性に満ちている。政治ではなく、スポーツでなく文化芸術で人々が集う。「欧州文化首都」という試みが人々によって支えられ永続することを心から願っています。

右から: 古賀実行委員長、パッツァリデス氏(パフォス2017チェアマン)、古木事務局長 (写真提供:小川正晃)

最後に、美しい海、空、その風景を輝かせている太陽、吹き抜ける風、おいしい食べ物、そして何よりもこの島に暮らす人々の笑顔。倭はたくさんの力を受け取りました。本当にありがとう。みなさんの命の鼓動は倭の打ち鳴らす太鼓の響きに生き続け、今日も世界のどこかで誰かを勇気付けています。

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