水木しげるの妖怪:東西を結ぶ文化の懸け橋

サブリナ・バラチェッティ|アーティスティック・ディレクター
ウーディネ・極東映画祭

水木しげる氏没後10年を迎え、極東映画祭およびカニコラは共同で、『水木しげるの世界』展を開催いたしました。これは、原画や高精細な複製画、厳選された漫画単行本、映像資料、さらにメモラビリア各種を用いて、境港出身のこの稀代の漫画家の創作活動の歩みを紹介する展覧会です。

水木しげる氏の創造性、仕事の流儀、そして果てしない人間性の証といえるその膨大な作品群は、多様な物語ジャンルや画風に挑み、あらゆる国籍、年齢、性別の読者を魅了する融和を生み出しています。水木氏は、見るからに相反している対極的な要素を調和させる能力を備え、あらゆる側面で現代の日本人アーティストの本質を体現しており、日本の人々が抱くトラウマや夢、執念をきめ細やかに描き出し、彼の物語を読む何百万人もの読者に安らぎの地を与えているのです。

その軌跡に通底するテーマが、水木しげる氏の妖怪が棲む果てしない王国と、彼が雑誌『ガロ』で手掛けた作品で、これらはカニコラ・エディションズがキュレーションを務める作品コレクションを通じて西洋の読者に初公開されました。

本展では、これら二つのテーマに焦点を当てながら、水木しげる氏の生涯と、戦後期以降の近代日本の歴史を考察しています。アメリカ占領下の暗闇の時代から経済的、社会的に覚醒するに至るまで、水木氏の私生活での出来事や日の出ずる国に起きた多大な変化が、彼の漫画作品のこの上なく美しい頁の数々を埋め尽くしています。

日本の伝統のイメージを再構築し、現代社会の文脈に溶け込ませることで、水木氏は、一見かけ離れた世界とのあいだに無数の懸け橋を築きました。彼の名作の頁のなかで、古来の妖怪や伝説上の存在が現代日本の大都市の路地裏を彷徨い歩き、心優しい老婆達が意気盛んなやんちゃ小僧らと腕を組んで歩きながら、祖先と通じ合うことを教え、そして忘れ去られかけていた怪談が、戦後以降進行していた過度の西洋化という文脈で再び現代に甦り、復讐の叫びを上げるのです。

日本の民間伝承もまた、水木氏がかの有名な雑誌『ガロ』に向けて制作した作品の土台をなしています。長井勝一氏と白土三平氏により創刊されたこの月刊誌の誌面で、水木氏は、伝統的な大衆物語の発想を用いて風刺話や短編漫画シリーズ作品を創作し、現代社会の特異性を映し出しました。『ガロ』と水木氏は、完璧な組み合わせといえました。同誌は、境港出身の漫画家に現代社会および文化に対する考えを表現し、自由に実験し、ジャンルを混淆させ、様式的慣習からの脱却を図る機会を与え、それと同時に同誌は、ゲゲゲの鬼太郎の「生みの父」という第二のスター的存在を見出したのです。さらに、圧倒的な魅力を放つ作家は、『ガロ』の誌面での活動に踏み出したばかりの若手の作家らにとっての基点でもありました。その例として、水木しげる氏のアシスタントとして水木氏と密接に仕事をしながら得た貴重な教えを実践に移した、つげ義春氏やつりたくにこ氏といった表現者達は、現代漫画史に不滅の足跡を残しています。

民間伝承の重要性と民間伝承に焦点を当てることが、「Mondo Mizuki, mondo Yokai(水木の世界、妖怪の世界)」プロジェクトの中核をなしています。フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州は、まさに大衆的伝統の豊かな土地であり、なかでもこの地域では、森や森を流れる川に数多の精霊が棲息しています。妖精や小鬼に満ち溢れるこの地は、スロヴェニアとオーストリアという二つの隣国の民俗伝統の影響を受け形成されています。

それは多様性豊かな生きた幻想世界で、山間の地域社会やその周辺に今なお根強く顕在しており、村のお祭りのみならず観光ルートでも、ますますこの世界に対する敬意が表されています。スビルフスやグリウツ、クリヴァペーテ、アガニス、バガン、マサロット、マッサロウルなどの精霊は、口承文芸や寓話、物語の中に息づき続けており、これらを専門とする出版界の隆盛を後押ししています。

極東映画祭では、東西およびそれを超えた文化の懸け橋を築くことを、芸術面およびキュレーション面での中心的目標として常に掲げて参りました。これを踏まえ、水木氏に捧げる本展は、フリウリの世界と妖怪の世界という二つの幻想世界の対話を通じた、本映画祭の開催地であるフリウリ=ヴェネツィア・ジュリアに寄せる敬意として構想されています。究極的に、それは西洋と東洋、幻想と歴史という両世界に向けた心からのオマージュとなるのである。

本展に向けて特別企画されたパブリックプログラムでもトリビュートが展開し、また妖怪の世界を特集した本映画祭の回顧上映では、文化の横断的価値に焦点を当てたもうひとつの重要な局面を見出すことができます。今回の回顧上映は、さまざまな監督を一堂に集め、多彩な映画ジャンルへと踏み込み、映画という現代の芸術形式のなかでも最も大衆的といえるジャンルにおいて、古来の大衆的な民間伝承の伝統から生まれた登場キャラクターが現在いかに自然に溶け込んでいるかを明確に表しています。

私達は、今後の展覧会において、漫画家で随筆家のつげ義春氏のような日本人アーティストとの協働を引き続き行っていくことを熱望しており、古典芸術のみならず、さまざまな表現形式の現代芸術を探求して参ります。大衆的なアジア映画に特化した欧州最大のイベントである極東映画祭の中心に芸術と映画を据えていくことは、私達にとって極めて大切なことなのです。

毎年、極東映画祭では、大ヒット作からインディペンデント作品に至るまで、最も魅力的な現代日本映画作品を厳選し、お届けしています。また私達は、クラシック映画やカルト映画の復刻上映も行っています。監督や俳優らが、イタリアの観客および映画祭のゲストに自らの作品を発表するためウーディネを訪れます。私達は、継続的に日本映画を支持し、より多くの著名な映画監督および新進気鋭の映画作家をご紹介していくことが極めて重要であると確信しています。