温泉、トイレ、そして観客の信頼がもたらしたアイルランド日本映画祭2024の成功!

メーヴ・クック|access>CINEMA 常務取締役、『アイルランド日本映画祭2024フェスティバル」プログラム担当

2024年が始まったとき、以前と変わらない新しい一年の時間がスタートしたと思ったのに、すぐにこれまでとは全く異なる年になった2020年が4年前だったということが信じられませんでした。新型コロナウイルスの恐怖がまるで悪夢だったかのように感じられる中で、2024年は多くの人々にとって、そしてアイルランド日本映画祭にとっても、初めて迎える“普通”の年となるように思えたのです。

しかし、この新しい “普通”は何を意味したのでしょうか?2023年、アイルランド日本映画祭は、新型コロナウイルス以前に上映を実施した7カ所に、ウェックスフォードでの新しい1カ所を加えて、計8カ所で開催されるようになりました。しかし、観客動員数は、2020年以前と比べると、そこにはまだ届かない状況でした。

アイルランド映画では、一般的に、観客は知名度の高い映画か、すでに聞いたことのある映画しか映画館に見に来ないと言われていました。観客は映画を見るときにある程度の安心感を求め、リスクを負いたくないのです。また、アイルランドの主要な映画祭からも同様の意見を聞いていました。

そのため、これらのイベントよりもはるかに少ない予算で開催される専門的な映画祭として、2024年アイルランド日本映画祭にとってこの情報が何を意味するのか、また、このような課題に直面して我々はキュレーションのアプローチを変えるべきなのかどうかといった点で、多くの真剣な議論を促しました。

しかし、アイルランド日本映画祭は、他の映画祭と同じではないことを常に誇りとしてきました。映画祭を愛してくださる観客の皆様やパートナー映画館、そしてEU・ジャパンフェスト日本委員会をはじめとする映画祭を信じてくださるサポーターの皆様のご支援のおかげで、我々は常にリスクを取ることができました。世界中の映画祭がオンライン化していくという暗黒の時代にあっても、2020年、2021年、2022年の映画祭は、規模は小さいながらも状況に適応し、無事にリアルイベントとして開催することができ、温かくそして感謝をもって迎えられたのです。

そのため、我々はこの映画祭に対する自分たちの信念とアプローチ、これまで我々がとってきた、日本の有名な作家の作品と、日本の新進気鋭の才能によるエキサイティングな作品のバランスをとるということに忠実であることを決心しました。

アイルランドの観客が2024年のプログラムに含まれた2つの作品にいかに反応したかということを見ると、我々がこの直感に従ったことは、幸運の女神にも助けられたのだといえます!

鈴木雅之監督の『湯道』は、2023年にウディネ極東映画祭(イタリア)での上映の成功によって、我々の電波探知機に引っかかっていました。日本の公衆浴場や温泉にまつわる文化や伝統に対する特別な洞察と、優しくユーモラスで温かみのあるストーリー(脚本は2009年に『おくりびと』でアカデミー賞を受賞した小山薫堂氏による)が融合したこの作品を、アイルランドの観客にぜひ紹介したいと、我々は当初から考えていたのです。

俳優の役所広司氏が男優賞を受賞し、我々がカンヌ国際映画祭2023で初めて観た『Perfect Days』も、我々の2024年の映画祭上映希望リストの上位にありました。監督のヴィム・ヴェンダース氏はドイツ人ですが、彼がこの映画で描いた、中年男性の平山が東京の公衆トイレの清掃員としての仕事と、音楽、読書、写真への愛情を両立させながら慎ましく生きる姿は、まさに日本人そのものでした。この映画はイギリスとアイルランドで配給されることが決まっていましたが、その公開日が我々の映画祭の日程とぴったり重なったとき、私たちはまたしても運が味方してくれたのだと確信したのです。

人生のシンプルな楽しみ、そして大切なものへの集中というこの2作品に流れるテーマがアイルランドの観客の心を捉えたのか、それとも別の理由なのかはわかりませんが、両作品とも、私たちが上映したすべての場所で、観客の心を瞬時に捉えたのです。両作品とも、上映後の観客は、感謝の気持ちと好意的なコメントで溢れていました。『湯道』は、アイルランド日本映画祭2024観客賞も受賞しました。

最終的には、この2本の映画の結果として、2024年のフェスティバルプログラムの他の作品への動員も増加したのです。『湯道』や『Perfect Days』でポジティブな体験をした人たちが、プログラムの他の作品にも再び足を運ぶようになったのは、我々のキュレーションに対する信頼の表れです。全体的な結果は我々が予想していなかったもので、2024年の総入場者数は2019年を上回ったのでした。温泉とトイレ、そして観客からの信頼のおかげで、アイルランド日本映画祭2024は幸せな成功を収めたのです。

そして、我々は、その成功にほんのひととき喜んだ後で旅がまた一から始まるということを知っています。2025年のエディションに向けて、我々はこれまでの成功に向けて積み重ねてきたものを確実なものとし、これまで築き上げてきた観客との信頼を維持できるよう取り組んでいます。