答えは風によって綴られる

ラース・ノイエンフェルド|ベゲウンゲン代表
ベゲウンゲン・アートフェスティバル

2025年7月18日から8月17日にかけて、廃炉となったケムニッツ・ノルト褐炭火力発電所にて、第22回ベゲウンゲン・アートフェスティバルが開催されました。本年のフェスティバルは、欧州文化首都ケムニッツ2025の公式プログラムの一環として実施されました。

「すべては相互作用である」というタイトルのもとで、ベゲウンゲン・アートフェスティバルは、資源消費、生物多様性の喪失、気候危機の複雑性を浮き彫りにしました。このフェスティバルは、新しい、先を見据えた議論のための刺激的な舞台であり、出会いと交流、創造的な刺激のための場所となったのです。

今回の展覧会では、環境破壊がもたらす社会的・生態学的・経済的影響、正義と権力に関する問題、および関連する社会危機について、32の国際的なアーティストの視点を集結させました。クラウディア・ティッテル博士がこの展覧会の芸術監督を務め、展示は芸術監督による作品選定、ベゲウンゲンの欧州提携機関とのアーティスト・イン・レジデンス・プログラム、そして世界的に公募されたオープンコールからのプロジェクト案によって制作されました。オープンコールは30歳未満のアーティストを対象としていたため、本展の約3分の1は若手の視点が中心となって構成されたことになります。

©Johanes Richter

本展ではインスタレーション、写真、絵画、彫刻に加え、映像作品や音響作品も展示されました。展示作品の4分の1はサイトスペシフィック作品であり、フェスティバルのために特別に制作されたものです。

©Johanes Richter

出展アーティストは、アナ・アレンソ(ベネズエラ)、ララ・アルマルセギ(オランダ/スペイン)、AWOL コレクティブ(ベネズエラ/スペイン/セルビア)、ティナ・バラ(ドイツ)、ウルスラ・ビーマン&パウロ・タバレス(スイス/ブラジル)、ベーラー&オーレント(ドイツ/ルーマニア)、ボレク・ブリンダク(スロバキア)、ダニエル・カノガル(スペイン/アメリカ)、 ヤン・ファビアン(チェコ)、アビー・フランクリン&ダニエル・ヘルツル(英国/オーストリア)、ティム・ガサウアー(ドイツ)、エルザ・グバノヴァ(ウクライナ)、サラ・ダマイ・ホーグマン(オランダ)、クレメンス・ホーネマン(ドイツ)、アン・ドゥク・ヒ・ジョーダン(韓国/ドイツ)、ナディア・カービ・リンケ(ドイツ/チュニジア/ウクライナ)、ディアナ・レロネック(ポーランド)、 ティー・マキパー(フィンランド)、ギスレ・ナタス(ノルウェー)、ヘンリケ・ナウマン(ドイツ)、オラフ・ニコライ(ドイツ)、ウリエル・オルロー(スイス)、ヨハンナ・M・ライヒ(ドイツ)、アンパロ・サルド(スペイン)、カタリーナ・ザウアーマン(オーストリア)、 ギュンター&ロレダナ・セリチャー(オーストリア/イタリア)、ヒト・シュタイエル(ドイツ)、グレゴール・シュナイダー(ドイツ)、ダニエル・オテロ・トレス(コロンビア)、ウエダリクオ(日本)、アンナ・ヴェーバーベルガー(オーストリア)、ヴァレリア・ザネ&ヴィクトル・ネッビオーロ・ディ・カストリ(イタリア/フランス)

クラウディア・ティッテル博士とベゲウンゲンチームが本展覧会に選出したアーティストの中に、日本人アーティストのウエダリクオ氏が名を連ねていました。それに伴い、ウエダリクオ氏は2025年の春、ケムニッツに数日間滞在し、熱電併給プラント内での作品設置の候補地を調査・選定しました。彼が選んだのは、堂々たる鋼鉄製の階段塔でした。そして2025年7月、ウエダリクオ氏は2週間かけてサイトスペシフィック作品『風からの手紙』を制作しました。このユニークなアーティストの創作過程を目の当たりにし、『風からの手紙』の誕生を支えられたことは、フェスティバルチームにとって本当に素晴らしい体験でした。

©Mikiko Sato

ウエダリクオ氏は、芸術と自然、そして偶然を織り交ぜて作品を制作します。彼の作品は機械装置であり、風の動きによってキャンバスや紙に描画を残すのです。ケムニッツでは、原子炉建屋の階段をこうした装置の一つへと変容させていて、時間の経過とともに、ここでは風によるドローイングが生み出されました。それらは予測不可能で唯一無二であり、その時の気象条件や 展示場所の影響を受けます。こうして生まれる作品―繊細な風の図式や文字―は、アーティストと風による共同制作の美しい記録と捉えることができ、それらは保存され、原子炉建屋内の展示ケースに展示されるのです。

©Johanes Richter

ウエダ氏のドローイングは、儚さや目に見えない自然の力についての思索です。Arte Povera(イタリアの『貧しい芸術』運動) や Land Art(ランド・アート) に インスピレーションを 得ながら、ウエダ氏は日本の伝統的美学と西洋の概念的芸術を融合させているのです。

©Johanes Richter

2025年のフェスティバルには56,000人が来場しました。この数字は主催団体である非営利団体「ベゲウンゲンe.V.」の予想を大幅に上回りました。地域メディアにおける報道は、内容と量の両面で非常に高い関心が寄せられ、Deutschlandfunk、rbb Radio eins、ARD、 Süddeutsche.de、Monopol Magazin、ARTmapp、MDR TVといった、多くの全国メディアがこのフェスティバルを広く報じました。「風からの手紙」はテレビや新聞の写真報道で頻繁に取り上げられたのです。

ベゲウンゲン・アートフェスティバルは、再び、幅広い層の関心を引きつけました。 地域の外から、そして国際的にも多数の来訪者が訪れたのは珍しいことで、 2025年の欧州文化首都としてケムニッツが特に観光客を惹きつけている事実も確かに起因していました。そして、文化首都関連の観光客や多くの地元住民に加えて、専門家の観客層もこの展覧会に強い関心を示していました。

ベゲウンゲン・アートフェスティバルは、あらゆる層の人々、特に芸術に関心のない人々をも迎え入れたいという理念を掲げています。そのため、フェスティバルの期間中は、さまざまに工夫を凝らした芸術普及プログラムや参加型プログラムが実施されます。

また、このフェスティバルでは、障がいのある方々のためのバリアフリーにも特に留意して取り組んでいます。アクセシビリティに関する取り組みの中心的な目的は、障害物の除去、または架け橋となること、そして他の感覚(触覚、聴覚、嗅覚)で作品を体感できる可能性を提供することです。 とりわけウエダリクオ氏の今回の作品では、視覚障がい者向けに触覚モデルが制作されました。

このフェスティバルは、寄付金、市やザクセン州、連邦政府からの助成金、スポンサー、財団、そして、日本、スペイン、スイス、オランダ、オーストリア、フィンランド、チェコ共和国、ノルウェーからの国際機関による助成によって資金が調達されました。

ベゲウンゲン・アートフェスティバルは今後もケムニッツの遊休建造物に焦点を当て、洗練されたアートによって新たな命を吹き込み続けます。国際的なアーティストとのコラボレーションは重要な特色の一つとして継続されます。2025年のウエダリクオ氏、2023年の堀真理子氏との協働の経験は我々にとって非常に刺激的であり、日本との繋がりを維持することを決意しています。今後も、日本のアーティスト達がベゲウンゲン・アートフェスティバルの発展に重要な役割を果たしていくことでしょう。