目まぐるしく変化する文化の有害な裏側 ー ゲチョフォト2023での2つの展覧会について

ヨーキン・アスプル|ベギハンディ文化友好会 ディレクター

ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、ゲチョ(スペイン・バスク地方)でこれまで17年間開催されているフェスティバルです。毎年、世界中から集まったビジュアルアーティストたちが、提示されるテーマについて現代的な会話を交わしながら、さまざまな提案を出し合います。このフェスティバルは、現代的な課題に取り組むプラットフォームとして企画され、内省の場を設け、集団的な対話を構築することを目的としています。

ゲチョフォトの特徴は、公共空間(物理的およびネット空間)が均質化され私有化される中で、出会いの場、相互承認の場、実験、遊び、祝祭の場としての公共空間をラディカルに擁護することにあります。その為、プログラムの大半は野外インスタレーションで構成され、イメージと環境との結びつきを強調する一方、市民とのより水平的で参加型の関係を生み出しています。

この17年間で270人以上の著名な国際的アーティストが参加し、その多くは評論家からも高く評価されています。ほとんどのプログラムが無料のこのイベントは、ローカル且つ国際的なプラットフォームとして位置付けられ、様々な機関、アーティストや来場者たちが経験や知識を交換するネットワークを作り上げてきました。

第17回ゲチョフォト国際イメージフェスティバルは、2023年6月1日から25日まで開催されました。新キュレーター、ビルバオ生まれのマリア・プトク(バスク大学アート・リサーチ博士課程)のディレクションで、『PAUSE!(休止)』というアイディアとコンセプトの元、この目まぐるしい世界に対する反抗と抵抗のジェスチャーとしての「休止すること」の正当性を証明しました。スイス、日本、モロッコ、エクアドル、メキシコ、アルゼンチン、イギリス、ブラジル、スペイン、ギリシャなど23カ国のアーティストが参加し、市内での展覧会やインスタレーション(ほとんどが屋外での展示)を発表しました。

日本からは、2名の素晴らしい写真家の作品群 ー フォトグラファーハル氏の『Flesh Love All』シリーズ、羽永光利氏の『呪殺祈祷僧団』シリーズを迎えることができました。

 

M. Hanaga`s installation 4 ©︎ Getxophoto 2023 : Ainhoa Resano

 

このフェスティバルの大きな特徴のひとつは、出会い、楽しみ、内省の場としての公共空間をしっかりと守ることです。その為、いくつかの展覧会が公共スペースを利用しました。フォトグラファーハル氏と羽永光利氏によるシリーズは、ゲチョフォトの最も特別な場所のひとつであるエレアガビーチに展示されました。市街地からほど近いこのユニークな場所は、6月の1ヶ月間、最も多くの人が訪れる野外会場のひとつとなりました。夏の始まりということもあり、フェスティバルの来場者にとっても、メディアにとっても、ここは最も知名度の高い展示スペースのひとつとなりました。

フォトグラファーハル氏の『Flesh Love All』は、海を前に設計、組み立て、設置された大型コンテナ(高さ5.6m×幅4.1m)の中に展示されました。本展では、完璧な人生への不安をテーマにした彼のポートレイトシリーズが、ゲチョの海沿いの大きなマナーハウスの目の前でフレームに収められ、フォトグラファーハル氏の写真が社会環境と対話することを可能にしました。

Photographerhal`s installation 1 ©︎ Getxophoto 2023 / Ainhoa Resano

 

エル・パイス紙(スペイン)とガーディアン紙(イギリス)という世界的知名度のある二つの新聞がこの展覧会を取り上げたことは特筆に値するでしょう。この特別なインスタレーションを楽しむために、少なくとも4万人がエレアガビーチを訪れたと推定されます。

羽永光利氏の『呪殺祈祷僧団』シリーズは、一本あたり2.25mのメカノチューブで作られた3つのプリズム型の構造体で展示され、フォトグラファーハル氏の作品と同様、ビーチの前に設置されました。前述したように、本シリーズはビルバオ河口の工業地帯の前に戦略的に設置されました。羽永氏の作品は数十年前に制作され、当時の日本の問題をテーマにしたものでありますが、現代社会における工業の有毒廃棄物や排出物といった現在私たちが抱える問題について考えさせられます。今回、青山目黒の協力によりゲチョフォトでこの作品群を展示できたことは、フェスティバルの芸術性を高めるだけでなく、イメージを批判的に読み解くことの重要性と、大衆(家族、組織など)と作品を仲介する役割について、一般の人々に伝えることを可能にしました。

フォトグラファーハル氏の作品もそうであったように、羽永光利氏の作品シリーズにまつわる写真とストーリーは多くのメディアの関心を集めました。その証拠に、国内外の報道記事、テレビやソーシャルメディアへの投稿など、彼の姿を捉えた様々なキャプチャーが掲載されています。

Photographerhal`s installation 5 ©︎ Getxophoto 2023 / Ainhoa Resano

 

今後のフェスティバルについては、現在、2024年6月の次回開催に向けて準備を進めているところです。これから数年間において、ゲチョフォトは、展覧会やインスタレーション、世界中のアーティストに門戸を開く国際公募、ゲチョを訪れ、このフェスティバルをヨーロッパの舞台に位置づける著名な専門家との対話、文化的エコシステムを強化する文化エージェントや文化機関とのコラボレーション、あるいは芸術的提案を一般の人々に近づける参加型プログラム内のさまざまな活動を通して、公共空間に存在し続けます。

2024年にまたお会いできることを楽しみにしています!