コラム
Column日本とセルビア両国を多層にリンクさせたプロジェクト
本プロジェクトのコンセプトは、日本人ミュージシャンのトリオが、日本とセルビアを代表する楽器で、両国の音楽を演奏することであった。それを基本に始めたプロジェクトであるが、公演準備を進めていくにつれ両国が更に密接に関わることになり、結果として公演ではミュージシャン、オーガナイザー、リスナー皆が両国それぞれの音楽、そしてそれらを結びつけることができることを知り楽しむことができたと思っている。
トリオ「縁」はセルビアの5都市で演奏した。そのうち2都市では、毎年現地で行われている音楽イベントの一環として参加をした(首都ベオグラード市では歴史博物館を舞台に「博物館が奏でる音楽」と題するイベント、スメデレヴォ市ではコスタ・マノイロヴィッチ音楽学校の年末イベント「NOKOS」に参加をした。どちらも毎年約1か月間行われ10ほどのグループが参加している)。演者が日本人であることをアピールすると同時に、現地の他のミュージシャンと同じ立場で準備・公演をすることになるので、特殊性を維持しつつも周囲に馴染むことができ、オーガナイザーとリスナーへの受け入れやすさにもつながった。また、現地イベントでの参加なので、日本にあまり興味がない観客にも来ていただけた。セルビアは親日家が多いので、そのような方をイベントに呼ぶのは比較的容易だが、日本への関心が高くない方に来ていただくのは難しい。より多くの方に日本や日本の音楽に触れていただけたという点でも、意義深い公演となった。一方、既に日本との交流が深い団体、都市との結びつきをより深める公演も行った。ポジャレヴァッツ市では、日本の歌を日本語で歌っている現地の女声合唱団バリリと共演をした。また、2022年に欧州文化首都であったノヴィ・サド市でも公演を行った。
公演先の5都市のうち4都市について述べたが、5都市目のニシュ市へは全く異なるアプローチが可能となった。ニシュ市では、市立文化センター長にトリオのためにコンサートを開催していただいた。ニシュ市はセルビアで3番目に大きい都市だが、首都から離れていて、日本に関するイベントはあまり行われていない。そのような中で、センター長に集客・開催していただいた公演は、現地の人たちに日本に関心を持ってもらう大きな一歩になったと思う。
「縁」は日本の伝統楽器である篠笛と、セルビア民族音楽で頻繁に使用されるアコーディオンとヴァイオリンのトリオである。プログラムの最初には、篠笛とアコーディオンで、セルビアのサッカー映画の名作の主題歌を演奏した。「涙が出るほど良かった」との感想もいただき、両国の楽器で両国の音楽を演奏するというトリオのスタイルのスタートを切るのに最適の選曲であったと思う。その他、セルビアの酒場や結婚式で演奏される定番の曲では手拍子をいただき、セルビア民族音楽のメドレーは現地のプロのフルーティストにアレンジを評価され楽譜を求められた。セルビアの人々が普段から聞いているセルビアの音楽だが、日本人が両国の楽器を使って演奏することで独自性を演出することができ、結果的に現地の人々に受け入れられ楽しまれていることも分かった。
一方で、日本の音楽については、セルビアでは聞かれる機会も少ないのでオーセンティックなものも提供しなければならないと考えた。「縁」のメンバーで篠笛奏者の朱鷺たたら氏が篠笛の名曲を独奏し、観客を大いに惹きつけた。日本の楽器で最初にイメージされるのは琴や三味線、和太鼓が多いように思う。MCで篠笛が木ではなく竹でできていると話したら驚かれた。セルビアでの篠笛の演奏は大変貴重な機会になった。
その後、トリオでも日本の曲を演奏した。篠笛以外の楽器、特にアコーディオンは日本の伝統的な音楽の演奏には馴染まないため、曲目は必然的に現代のものとなった。また、日本の曲とセルビアの曲を繋げた演奏もした。これらの演奏で、いわゆる日本的なものとは別の音楽も提供できたと思う。日本の伝統音楽、ポピュラー音楽、セルビアの曲とのメドレーなど日本の音楽の色々な面を紹介し、セルビアの音楽とも繋げることができた。
公演はどの都市でも好評を博した。特にベオグラード市では10以上のオンラインニュースサイトで記事になった。ポジャレヴァッツ市では、当地の著名な詩人にトリオ縁の詩を書いていただいた。ベオグラード市では今村在セルビア日本大使ご夫妻をはじめ日本大使館の方々に、ポジャレヴァッツ市では市長補佐官にお越しいただいた。
お客様からは「セルビアの曲の演奏に心とエネルギーを込められていると感じてとても嬉しかった」「篠笛の演奏は初めて聞いたが、笛の音の後ろに日本の風景が見えた。(コンサートのMCで)篠笛は神への祈りの場で奏でられていたと聞いたが、それが分かった」「セルビアと日本という遠く離れた国の楽器と曲なのに、こんなに調和するなんてと驚いた」などのご感想をいただいた。
今後の展望についてだが、「縁」のメンバーは、公演を通して数多くの現地のミュージシャンと知り合って、SNSでの交流をしている。また、今回は滞在日数が足りず実現できなかったが、埼玉県富士見市と姉妹都市であるシャバッツ市からも公演をしてほしい旨お声をかけていただいていた。勿論、公演をした5都市で「縁」を支えてくださったオーガナイザーや音楽学校、バリリ合唱団の方々との交流も続いている。これらの交流をいかし、セルビアへの再度の訪問や、セルビアのミュージシャンの日本招聘に繋げていこう、その時にはセルビアのミュージシャンと「縁」の共演もしようと考えている。