コラム
Column日本のアーティストMITSUMEがノヴァ・ゴリツァのXセンターに出現
ノヴァ・ゴリツァのXセンターで開催されたMITSUMEプロジェクトは、マンガアニメポップスタイル、壁面絵画、ライブパフォーマンスの分野から集まった若者、地元クリエイター、専門家をつなぐ参加型のアート実践を通じて、日本とスロヴェニアの有意義な文化交流を促進することを目的として実施されました。これは欧州文化首都ノヴァ・ゴリツァ・ゴリツィア2025公式プログラムの一環で行われ、このプログラムにおいてXセンターは、創造性、技術、そして多文化間の対話の拠点としての役割を担いました。
2025年、5月から6月にかけて、鮮やかなマンガ美学と視覚的ストーリーテリングで知られる日本人アーティストMITSUMEは、共有の歴史と新たな共生のモデルを体現する双子都市であるノヴァ・ゴリツァとゴリツィアの境界のないアイデンティティにインスピレーションを受けた新作アートを制作するため、2週間の滞在創作活動を行いました。MITSUMEは、モイチャ・ストゥベルジ・アルス博士とマテイ・ヴィドマル氏が率いるGO! 2025チームとともに、両都市の地域的な特徴やシンボルに基づいた二つの都市を象徴的に表現する二つのオリジナル漫画キャラクターをデザインしました。一つはダイナミックで若々しいエネルギーを映し出すノヴァ・ゴリツァの男性キャラクター、もう一つは穏やかな優雅さと伝統を表現するゴリツィアの女性キャラクターです。

これらのキャラクターは、若者たちの間で両都市のビジュアル・アンバサダーとなりました。 コミュニティ内での普及を図るため、我々はMITSUMEのデザインをプリントした3種類の黒色のTシャツを制作し、プロジェクトに参加した若者たちに無料で配布しました。この取り組みにより、プロジェクトは共有可能な「着用できるアート作品」へと姿を変え、言語や文化の壁を越えた日本とスロヴェニアのコラボレーションの表現へと進化したのです。
MITSUMEのデザインを基に、我々はさらにキャラクターの1体を、スロヴェニアをテーマにした漫画コスプレ衣装へと展開させ、国家および地域のアイデンティティを象徴するいくつかの重要な要素を表現することにしました。そのジャケットにはバラがデザインされていますが、これはノヴァ・ゴリツァの紋章であり、同市の「バラの街」という愛称の象徴でもあります。胸元には、この地方で生まれたスロヴェニア初の飛行士エドヴァルド・ルシヤンの記念碑をモチーフに、勇気と革新を象徴するデザインが施されています。彼の衣装には、スロヴェニア最古の町プトゥイに起源を持つ伝統的な「クレント」という衣装の要素が取り入れられていて、生命力、守護、祝祭を象徴しています。彼の上半身は民族衣装を反映しており、シャツの袖にはスロヴェニア国旗の色を用いた模様が施されています。こうしてこのキャラクターは、現代的なマンガスタイルとスロヴェニアの伝統が融合した存在となり、世界中の人々が理解しやすい現代的な視覚言語を用いて、地域の文化を紹介しています。

このプロジェクトは、欧州文化首都ケムニッツ2025におけるMITSUMEの取り組みと連携して開催されました。MITSUMEは、ノヴァ・ゴリツァ、ケムニッツ(ドイツ)、日本の若者参加者を対象に、計4回のマンガ制作ワークショップを行いました。2回は完全オンライン形式、残り2回はハイブリッド形式で行なわれ、Xセンターとケムニッツで対面セッションが行われました。このワークショップはケムニッツ2025の提携団体による支援を受けて実施されました。 彼はデッサンの演習と個別の指導を通じて、それぞれの参加者が地元の物語や感情に触発された独自のキャラクターを創造するよう働きかけました。 参加者の大半はプロの日本人漫画アーティストと直接交流した経験がなかったため、この体験はマンガ・アニメスタイルのキャラクター創作に込められた芸術的プロセスと文化的哲学を理解する貴重な機会となりました。
今回の滞在制作プログラムのハイライトは、Xセンターの1階に2点の室内壁画を制作したことでした。 日本でデザインされたMITSUMEのキャラクターをプリントしたステッカーを壁面に貼り、そこにMITSUMEがアクリル絵の具で2体のキャラクターの精神を表現した独創的で美しい壁画を描き出しました。この制作過程そのものが公開イベントとして行われ、ワークショップ参加者や地域コミュニティの人々がこのイベントを共に体験したのです。
2つ目の大きな成果は「PianinoX」と題されたライブペインティングパフォーマンスです。このイベントでは、MITSUMEが修復された古いピアニーノ(小型のアップライトピアノ)に自身の代表的なイメージを描きだし、それを公開パフォーマンスへと発展させました。パフォーマンスには日本人ダンサーの西原瑛里氏が参加し、その繊細な動きがMITSUMEの筆致と調和し、音と動きとイメージの対話を創り出しました。観客はビジュアルアートとダンスが自然に融合した独自のアートパフォーマンスを体験し、その感動は来場者全員の心に深く刻まれました。現在も「PianinoX」はXセンターのメインホールに置かれており、演奏を希望する誰もが自由に弾くことができる機能的なピアノとして、日本とスロヴェニアの出会いを生き生きと伝える証となっています。

主催者の視点から見ると、今回のコラボレーションは、アーティストによる滞在制作が持続的な関係を築き、具体的な文化面での成果を生み出す可能性を実証するものとなりました。MITSUMEと西原瑛里氏との緊密な連携には、文化的な期待、芸術的なニーズ、そして、資材やスペースの準備から翻訳、メディア対応、技術サポートに至るまでの調整業務のバランスが求められました。なかでも私が最も感銘を受けたのは、アーティストの規律正しさ、開放性、謙虚さ、そしてMITSUMEの、自身のアーティストとしてのアイデンティティを保ちつつ新たな環境に適応する能力でした。
このプロジェクトを通じて、私は個人的に日本の芸術的な感性を深く理解するようになりました。そこには簡素さと精密さが、情緒的な深みと共存しているのです。また、国際的なアーティストが自分自身をありのままに表現できる環境を整えることの重要性も実感しました。私たちのチーム、参加者、そして招かれたアーティストたちの間に育まれた協働の精神は、アートが距離を縮め人々を結びつける力を持つという、まさにひとつの実例となったのです。

将来を見据えると、今回のMITSUME滞在制作プロジェクトは、Xセンター GO! 2025と日本のアーティストおよび各関係機関とのさらなる協力の扉を開いたと評価できます。本プロジェクトの成功は、特に若者を直接巻き込んで実施する場合、クロスカルチャーなアーティストによる滞在制作が教育面や社会面で強い影響力を発揮し得ることを示しました。
ノヴァ・ゴリツァのXセンターで行われたMITSUME滞在制作プロジェクトは、結果として、壁画を描いたりキャラクターを創作したりするだけのものではありませんでした。それは二つの文化の間に信頼と好奇心を築き、想像力が国境を越えて自由に行き交うことを可能にする取り組みとなりました。壁画、ワークショップ、そしてPianinoXのパフォーマンスは、そうしたつながりの象徴として存在しているのです。
