友情は時に自分以外の文化の入り口になる。

伊藤知宏|Atelier ITOアーティスト

今回、僕は二回目のセルビアのノヴィ・サドを訪問した。この場所は昨年、欧州文化首都が行われた場所でもある。

昨年に僕が欧州文化首都に参加する為、ノヴィ・サドに訪れた際に、地元の行きつけのコーヒー・ショップで今回受け入れ先となったSokolski Domのアート・ディレクター、サージェン・スタンコビッチさんに出会った。僕が日本語を話していたので、興味を持って向こうから話しかけてきたのだ。彼は僕と同じ世代で90年代に日本に数年間、武道を習いに滞在し、その後何度も日本を訪れる親日家だ。

彼は昨年、また、僕がこの場所に来て何かしたいというと、ノヴィ・サドのローカル・カルチャーと伝えたいと、地元の人しか知らないようなレストランや、コンサート・ホールやセルビアの地酒、ラキアの酒蔵など、様々な場所に僕を連れて行ってくれた。

また、様々な地元のアーティストや音楽家、文化施設などと紹介してくれて、次回の滞在にどんなことをしたら良いのかという僕のビジョンはとても具体的になった。

おおよそあれから1年が経過したが、今回の渡航前に幾度となくテキスト・メッセージでイベントのコンセプトや場所、ポスターのデザインに至るまで詳細に打ち合わせたが、実際に今回訪れると僕の行う活動に大きな変更がかなりあった。

どうやら、施設として昨年予想していたようなスムーズな進歩が様々な面でうまくいかなかっという。少し心配になったが、彼と彼の家族のサポートのもと、全力で僕の滞在をサポートしてくれたので、ほとんど不便はなかった。

滞在中のある日、彼は、知宏はせっかくだから「バルカン・スタイルを学ぶべきだ」と言った。「バルカン・スタイルとはなんだい?」と聞くと、その場で物事をささっと決めてしまうということだ。一聴すると売りことばに買いことばのようだが、よくよく話を聞いて見ると、どうも日本にはないバルカンの人々のおおらかさと彼らの複雑な歴史背景が関係しているようだ。

僕が訪れたノヴィ・サドはNATOからのセルビアへの空爆が初めて行われた街だというサージェンさんも他国に避難することができず、空爆の中、日常生活を送ったそうだ。まだ今でも至る所に空爆用のシェルターがあり、いくつかは文化施設として再利用されているようだが、政府は今後の戦争の可能性が否めず、取り壊さずに残しているそうだ。

彼はそんな空爆以前はノヴィ・サドはもっと多国籍で文化的な街だったという。そんな昔を懐かしむ彼からは、新しいノヴィ・サドの文化をこれから若者と作っていこうという気概を強く感じた。

とにかく彼との友情から始まった今回の滞在は、結果的には地球の反対側で全く違う文化、戦争のない日本という国に育った僕の既成概念を何度も打ち砕いた。

今回の僕が行った「NEW ART for NEW PEOPLE」のワーク・ショップでは、日本のオーソドックスな文化に興味のある人々、昨年僕が教えた生徒、戦争が嫌でロシアからの移民してきた人々、地元の日本のアニメなどの文化に興味があるが、どうやって関わったらいいのかよくわからないので来た人々、ノヴィ・サドの日本語クラスの生徒達など、様々な人々が参加した。

NEW ART for NEW PEOPLE workshop day 1 in Novi sad in Nov 6, 2023 ©️ Chihiro ITO

ワークショップの名前はもともと「NEW FLAG for NEW PEOPLE」だったが今行っているコソボとセルビアとの関係性や、Sokolski Domが国立の施設というのも関係し、「NEW ART for NEW PEOPLE」に改名した。内容は日本語を書く日、フラッグペインティングをデザインし、作成する日などとした。

最初は2日のみのワーク・ショップの予定だったが、イベントを行う部屋が生徒でいっぱいで、筆などの道具が足りず、部屋の外にも20人ほどワークショップを受けたい人々が並んでしまい。そこで急遽バルカン・スタイルとして1日追加してイベントを行った。この追加の日の生徒はすでに基本的な日本語に触れたことがあると知っていたから、少し複雑にし、出来る人は日本の俳句にも触れてもらった。

また、僕がよくNYで訪れたりするようなポエトリー・リーディング・イベントを今回はノヴィ・サドの地元の若者が集う地元のコミュニティー・バー、Crin Ovanで行った。この場所は引き取り手のない野良犬を受け取り育てていくという非営利団体として機能していて、僕は今回特に感銘を受けた場所の一つだ。

NEW POETRY for NEW PEOPLE in Novi sad in Nov 11, 2023. ©️ Chihiro ITO

地元の詩人、Panonski Brodolomacさんと僕のパートナー、Mica Scalinさん(OnlineでNYから参加)と僕、サージェンさんらがおよそ30分近くの詩のパフォーマンスを行った。

最初は勝手がわからず少し困惑したが、最終的には面白いイベントになったと思う。ノヴィ・サドでのこのようなポエトリー・リーディング・イベントは行われたことがないらしく、様々な人々からパフォーマンスの後に様々な世代から質問を受けた。

そんな文化活動の中で、個人的に連絡先を交換した生徒や、SNSなどをフォローしあったりした生徒。また来年に来てねと別れを告げただけの生徒まで様々だったが、日本にはない素朴な親切心に満ちていた。

NEW ART for NEW PEOPLE workshop day 2 in Novi sad in Nov 7, 2023. photo by Aleksandra Borojev ©️ Chihiro ITO

今回の参加人数はワークショップ150人ほど、詩の朗読のイベントは50人ほどで、個人が行う文化イベントとしては、大人数。ノヴィ・サド全体としては小さな変化だが、これらが、作る出会いや友情がお互いの文化を知る入り口となり、真の意味で世界が平和になることを願っている。