道への一歩

アネット・ダムガード|Association Hidden Places

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ランダムな体験

東京は、1300万人の住民と80キロメートル以上におよぶ世界最大の都市圏を構える世界最大都市の一つです。東京では「ハイウェイ」という言葉が意味をなします。というのも、主要幹線道路が都市の一般街路や道路の上に高架式に構築されており、一方で地下には複雑な地下鉄網が張り巡らされているためです。すべてが重なり合っている、つまり隠れた場所とは何か、そしてメインストリームとして広く知られているものは何かを定義するのがより困難であるということを意味します。巨大な灰色をした超高層ビルのコンクリートの塊の裏側に回れば、お店やレストランがひしめく密集した狭い路地が出現し、さらに歩を進めると、そそり立つコンクリートのビル群の陰にひっそりと佇む神社が運良く見つかることもあります。

予定がまだ空いていた頃、気の向くままに散策していると、東京で最も賑わう地区の一つである渋谷で、小さな安らぎスポットを見つけました。この上なく素晴らしい体験との出逢いは、このような何にもとらわれない瞬間に往々にして起こり得るものです。そんなときは任務はそっちのけにして、そのひとときの体験を噛みしめるべきです。こうした瞬間こそ、予想もしなかった物事が発見できるからです。

神社の傍らには、亀の群がる池の浮かぶ優美な風景式庭園が置かれています。静寂で平穏な場所には、渋谷の中心を往来する膨大な人波や交通、やかましい看板とは全く異なる美学があります。日本は庭園で広く知られていますが、ほんの小さな細部の一つ一つにたいてい禅や他の伝統に根付いた象徴的意味が込められています。神社と庭園、そして東京の殺伐さの真っ只中に息づく静けさとの無作為な出逢いが、この視察旅行における最も重要なひとときとなり、このことが自分が正しい道を歩んでいることを教えてくれました。

東京への視察旅行の第一の目的は、オーフスの屋上に展開する禅に触発された内省の空間に向けたアプローチを突き止めることでした。都市生活者が喧騒や日々の責務に追われるなかで、束の間の安らぎが得られる静寂の場所。ひっそりと佇むその小さな庭園や神社の存在が、たとえ世界最大の都市でも静かなオアシスを創出することが可能であることを物語っていたのです。

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神道神社 – 日本古来の宗教

神道(「神の道」と書く)は、日本古来の宗教です。日本人のうち約1億1740万人が神道の信者で、約8900万人が仏教徒、約150万人がキリスト教徒、さらに約1110万人が他の宗教を信仰しています。神道信者と仏教徒が日本人の過半数を占めていることになります。

神道では、人々が信仰するのは自然の要素であり、預言者や神様ではありません。神道は豊穣儀礼、自然崇拝、祖先崇拝であり、聖なる樹木、山、滝、そして自然界の他の現象に宿る神(かみ)と呼ばれる八百万の神々が祀られ、また崇高な生物や人物も畏敬の存在となっています。 最も偉大とされる神が太陽の女神、天照大神です。この信仰では、信者はキリスト、釈迦、ムハンマドに挙げられる異宗教を対峙の対象としてみなさないということになります。彼らも森羅万象の一部だからです。

オーフスで展開する「内省のテラス」は、神社庭園そのものに変身するわけではもちろんありませんが、静思の空間を備える禅から発想を得た場所となる模様です。一つの都市に多数の宗教が混在するこの世界において、神道の思想は模範的です。人々が望むなら、いかなる宗教や伝統の出身を問わず、安らぎや静けさが得られる公共の場こそが私達が分かち合えるものの一つであるといえるでしょう。屋上庭園を設置するアイディアは、屋上の活用法を考える際に基本的に誰もが思い浮かべる発想であることから選択肢から外していたのですが、この場所との遭遇に心を動かされ、シンプルかつ象徴的な中心街に位置する盆栽園の構想を蘇らせるに至りました。そこでは内省のためのフレームワークを用意するとともに、「瞑想と内観」あるいはその他の「手法」で意識に集中し、身体と精神のバランスを生み出す空間を提供するのが狙いです。

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「ドー」または「ドウ」

日本への出発前、私は精神および意識と身体のバランスに重点を置いたスポーツ行事を盛り込むアプローチの有無を探究する計画でした。その起点となったのが相撲で、屋上のイベントとして再考に値するものと思われました。相撲は多様な伝統や儀式を有する大規模な業界で、屋上が伝統的な土俵に変身すれば壮観となること間違いありません。しかしこれにはとてつもない費用がかかります。EU・ジャパンフェスト日本委員会事務局を通じて生観戦する機会に恵まれましたが、こうした複雑な商業的興行を実施することの大変さを思い知らされました。また東京の大学にはアマチュア相撲部がありますが、こちらも屋上に重い土を盛る難しさがあります。オーフスに向けては、正統に機能する剣道と合気道のクラブの存在が目に留まりました。

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日本の武道は、柔道、空手道、剣道、合気道に挙げられるように、「道(どう)」という語尾で終わります。この短い言葉「ドウまたはドー」は、「道(みち)」あるいは「方法」といった意味を表します。これらの異なる「道」は禅宗に基づき、能動的に集中あるいは意識に焦点を定める修行を通じて人間の精神を培う試みで、究極的には奥深くに実存する静けさに到達できるというものです。そのゴールへは数多くの異なる道のりを経て辿り着くことができます。茶道ももう一つの道で、これは日本人のあいだで茶の湯、さどう、ちゃどうと呼ばれています。素晴らしい案内役を努めてくださったEU・ジャパンフェスト日本委員会事務局の方々を通じて得た「道」に関するの知識と、ご手配いただいた訪問先で剣道や茶道を経験したことにより、物事を大局的に見ることができ、こじんまりとした盆栽園や茶道の夕べや、剣道、合気道の実演が瞑想的な内省と通じていることが一目瞭然です。

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都市型農業

世界の多数の地域で農村人口の減少と都市部の過密化の傾向が見られます。それが都市型農業のコンセプトへの関心を集めるきっかけとなっています。こうした密集した地域では、人々が作物や花を育てる空間に不足しているのが実情です。このことが日本で複数の鉄道駅の屋上が現在小さな菜園に変身している要因の一つとなっており、貸し出し可能で、なすや米、豆類、花などが栽培できるようになっています。このソラドファームは、東日本旅客鉄道株式会社により立ち上げられたもので、現時点で少なくとも5ヶ所のソラドファームが東京をはじめ日本の他の都市に点在しています。その他の屋上では、慌ただしい路上から離れた小さなスペースが、公園や運動施設、カフェなどに生まれ変わっています。

こうした小さな農耕地は、都市の屋上に秘められた可能性を活用する方法を示しています。禅にインスパイアされた屋上に佇む内省の場に加え、アソシエーション・ヒドゥン・プレイシズで豚や鶏といった動物の飼育が実現可能であるかどうか実験的に試行することも考えています。日本のソラドファームは、2017年に屋上で作物栽培と畜産を組み合わせた一週間の試みを実施するにあたり、明らかに発想源となりました。

東京はAssociation Hidden Placesにとって、紛れもなく大いなるインスピレーションの源泉であるといえます。

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