激動の1年を振り返って

福岡聡|プロデューサー

誰も想像できなかった事態になり、早1年あまり。改めて振り返る事で、このプロジェクトが辿ってきた道程を残したいと思う。


2020年2月、横浜港に停泊するクルーズ船での感染が伝えられ連日ニュースを賑わせはじめたちょうどその頃、「Echoes of Calling」のキックオフイベントを浜松町にあるSHIBAURA HOUSEで行った。このプロジェクトはコンテンポラリーダンス振付家である北村明子が行う複数年にわたる国際共同プロジェクトである。北村は、これまでアジアのアーティストとのプロジェクトを2つ行い、いずれも現地での丁寧なリサーチを行ったものから日本との異なる点や共通点を俯瞰して作品化してきた。複数年かけることによって、はじめには見えなかった事が、稽古期間を含めて作品制作という時間を協働することで見えてくるものがある。それは異なるバックボーンを持つ人と人がお互いをリスペクトし、学ぶこと、まさに長期間に及ぶ国際交流だからこそなし得るものである。
今回の「Echoes of Calling」は、2019年にヨーロッパの西端に位置するアイルランドとアジアの東端にある日本に共通する文化が、いかにして長い距離を長い時間をかけて伝わってきたかを探る旅である。北村は、2019年夏にアイルランドにリサーチに行き、アイリッシュダンスばかりがアイルランドの文化として受け取られている日本に、いにしえの昔から現代まで脈々と口伝で伝承されているシャン・ノースという歌に出会った。アイルランドのパブという酒場が、市民にとって音楽に触れ、踊りに触れる文化の発信地であること、そこで歌われ踊られるものは、日本の民謡や神楽にも通じる芸能であると強く感じたという。


当初の計画では、2月のキックオフイベントのあと9月にアイルランドゴールウェイの沖ある人口わずか200名あまりの小さな島にあるアラン島アートセンターに滞在して作品を制作しゴールウェイで行われている欧州文化首都ゴールウェイ2020にて世界初演を迎える予定であった。しかし渡航する事ができる状況になる事はなく、この計画は見直しを余儀なくされ、11月から東京での作品制作を開始し、1月に東京で公演を行う事となった。
今回の東京公演に参加してくれたアイルランドの歌手のうちの1人は、北村が2019年のリサーチで出会ったアーティスト、そしてもうひとりは、彼を通じてオンラインコミニケーションツールのミーティングではじめて会話をした歌手である。初来日である日本、それもこのコロナ禍にあって2週間の自主隔離期間を経て初めて自由に出歩く事ができるという状況にも関わらず来日してくれた事に本当に感謝している。
とはいえ、来日までにも通常では考えられない出来事が起きた。まずは、来日の際に必要なアーティストとして活動するためにVISA申請を行うのだが、東京入国管理局が発行した在留資格認定証が現地でのロックダウンの影響で国際荷物サービスで送ったにも関わらず当人たちの手許に配送されない。現地の配送センターで配送待ちの状態が数日間も続き、現地に問い合わせたところ最低限の配送スタッフで運営しているためにいつ配送されるかは定かな事が言えないとの返答。事情を現地日本大使館に相談したところ、特別に書類のスキャンデータでも申請を仮で受け付けて、届き次第本紙を提出すればよいという配慮をしてくれた。在アイルランド大使館領事部の方々には本当に感謝している。さらに日本到着72時間以内の陰性証明書を発行してくれる医療機関を探すこと、日本到着しても空港内で再度の検査、公共交通機関での移動も不可・・・、数々の苦労を乗り越えての来日は忘れる事はないであろう。


慣れない日本での不自由な生活のさなかにあっても、部屋からオンラインで楽曲のクリエイションに精を出してくれた彼らがリハーサルに合流したのはクリスマス直後。すぐに日本側の出演者・スタッフとも打ち解け、共同作業が始まった。今までだったらWelcome Dinnerに招待する事ができたが、それもかなわず次回への持ち越しとなったのはとても残念であった。それでも早くリハーサルが終わった日には、彼らだけで和食や中華料理にもトライしたようで、とてもおいしかったと話してくれたのがせめてもの救いであった。
年があけて、いよいよ公演まで残り僅かになるリハーサルの中にあって、毎日発表される東京の新規感染者数は、はたしてお客様をお招きして公演ができるのかと日々重荷となっていった。それでも全員が作品をお客様の目の前に届けるために変わらず最大限の努力を続けてくれる事が何よりの救いであった。しかし、新規感染者数が都内で二千人を超える状況となり緊急事態宣言が発出、私たちも出演者スタッフそして何よりもお客様の安全を幾晩にもわたって議論し、集客しての公演を断念し映像作品として配信するかたちを取ることとなった。
何よりもお客様の目の前で公演をする事にこだわっている私たちとしては断腸の思いであった。この悔しさは、必ずよりよい作品に進化させて皆さまの目の前で上演することでしか消えることはない・・。そしてそのことを出演者スタッフ一同が共有していることがいまの私の喜びでもある。

※4月23日からの特別編についてはこちら
All photo credits: Hiroyasu Daido