日本伝統文化の内なる力

ヒーブル・オンジェイ

なごみ狂言会チェコは、これまでにEU・ジャパンフェスト日本委員会の御支援により、2007年のドイツのライプチヒをはじめ、2008年秋篠妃殿下様に御臨席を賜わった東京公演、コシツエの国立劇場、またリトアニア、京都、プラハ、ブルノなどで、700回以上の公演を実現してきたが、今回の欧州文化首都プルゼニでの公演及びブルノでの関連プログラムは、私たちにとって非常に特別な機会となった。ここで、感謝の気持ちを込めて振り返ってみたい。

私たちの「ホームグラウンド」であるチェコにおいて、四回連続で公演を行うことができた。

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プルゼニでは、師匠 茂山七五三と共に演じるチェコ語・日本語による二ヶ国語狂言、そしてなごみ狂言会メンバーが演じるチェコ語による狂言を、はるばる日本から訪れたお客様の前で上演し、大変な好評をいただいた。またブルノでは、我々の指導のもとで根気よく練習に励んできた6歳から9歳のチェコ人の児童によるこども狂言に、会場は多くの暖かい拍手に包まれた。

今回、ホームグラウンドであるチェコでの四回の公演をとおして、少しずつではあるが、現地で着実に成果を上げている「なごみ狂言会チェコ」の活動を、師匠および長く我々を見守ってくださっているEU・ジャパンフェスト日本委員会に紹介できたのではないだろうか。同時に、日本の方々の前で「なごみ狂言会チェコ」の存在意義を証明する大きな機会をいただいたと確信している。

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「ホラ、外国人が日本生まれの伝統芸能 狂言を上演して、外国人の観客がとても楽しそうに反応しているよ」「狂言とチェコ人の狂言劇団は、実際、ヨーロッパで認められているようだ」「日本人がバイオリンの弓を扱うように、外国人も稽古すれば、扇をもって、舞を舞えないことはないんだな」。このような感想が公演後に日本人の観客の心に浮かべば、今回の公演は本当に成功したと思う。

さて、日本人が海外で日本文化のポテンシャルを発見しているのと同じように、我々も、チェコ人観客も、狂言についての意識が変わってきている。その「奥行き」や「華麗さ」が少しずつ見えてくるのだ。狂言は、単なる「異文化」として一時的に興味を惹かれて終わるものではない。動作、型、台詞、装束の扱い、すべてに「意味」が内包されている。世界文化遺産となった和食において、「料理人は強い調味料を使って興味を引くのではなく、細かなディテールに集中することで、食べる人の喜びを引き出す」。狂言も舞や謡により繊細に雰囲気を描きながら、優れた台本を生かすことで、観客を笑いでなごませる。とても綺麗だが、決して簡単にできることではない。

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数年前、茂山千之丞師に楽屋でいただいた言葉:「狂言って、すごいもんですよ。装束をつけ、台詞をちゃんと言うだけで、素人でも、子供でも、外国人でも面白くなる。ただ、そこから次の段階にもっていくのは難しいですよ…」

明治維新以降、外国人は日本の文化の奥深さ、完璧さ、長年培われてきた美意識の高さに注目し、歌麿や北斎の浮世絵に魅了されるなど、様々な面から日本文化への高い評価を寄せてきた。しかし残念ながら、能狂言に同じことが起こることはなかった。はじめに言葉の壁があったため、外国人が能楽の良さを理解する「感覚」を得るためのきっかけを得られなかったのだ。まるで目の見えない人が絵を見ようとする歯がゆさ。しかし、日本文化の架け橋となることに情熱を傾け、日本人師匠のもとで修行し、台本を翻訳し、装束や舞台等様々なことを研究し続けることで、ようやく目が見えるようになって来たように感じている。

千之丞師がおっしゃった、狂言の「すごい」ところは、徐々に見えつつある。今後は2015年欧州文化首都にて狂言を上演できたことに対する心からの感謝の気持ちを胸に、「そこから次へ」の難しい道を一歩一歩着実に進み、狂言の内なる力を発見してゆくべく、一層の努力を重ねたい。

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