手によって繰り広げられる影絵の世界

クリスティナ・バグツカイテ|広報およびプロジェクト・コーディネーター

この春、7年間の休止期間を経て、リトアニアのカウナス州立人形劇場主催による国際人形劇フェスティバル KAUNAS PUPPET 22が、第22回目の開催を迎えました。本プログラムで最も高い関心を集めたハイライトのひとつが、日本の手影絵を専門とする劇団かかし座によるパフォーマンス作品『Hand Shadows ANIMARE(ハンドシャドウズアニマーレ)』で、こうしたシンプルな手法がいかに多彩な動物や物体を生み出し得るかを知らしめました。

A moment from the performance ANIMARE in the festival KAUNAS PUPPET 22 ©Viktorija Kajokaitė

本フェスティバル開始の一年弱前、欧州文化首都カウナス2022の代表者より、劇団かかし座という日本の影絵劇団とコンタクトを取り、協力関係を築いてみてはどうかとのご提案をいただきました。

 

私達は喜んで連絡を取り、同劇団のパフォーマンス作品『Hand Shadows ANIMARE』を本フェスティバルのプログラムに盛り込むことで合意に至りました。何と言っても未知の文化形態や演劇様式を特徴とする劇団は、演劇専門家やフェスティバルの観客のあいだでいつも大いに歓迎されるからです。交渉期間の道のりは容易ではなく、新型コロナウイルス感染症による規制やウクライナ戦争の勃発などにより、劇団かかし座の欧州ツアーが実現しない可能性もありました。しかしおかげさまで状況が整い、劇団かかし座は無事にリトアニア入りを果たし、欧州文化首都カウナス2022の公式プログラムのイベントのひとつに異国的な趣向と独特な雰囲気をもたらしたのです。

劇団の企画営業部責任者であり俳優でもある飯田周一氏とのやりとりが非常に生産的で迅速かつ綿密に進められたおかげで、劇団の公演を準備していくなかで技術的な問題に見舞われなかったことを特筆しておきたいと思います。

A moment from the performance ANIMARE in the festival KAUNAS PUPPET 22 ©Viktorija Kajokaitė

劇団かかし座の中核を成す好村龍一氏、飯田周一氏、菊本香代氏、櫻本なつみ氏の4名の俳優と、劇団かかし座の代表であり演出家の後藤圭氏、舞台監督の杉村向陽氏、そして通訳兼ツアーガイドの並河咲耶氏が、フェスティバルKAUNAS PUPPET 22開幕前夜の5月19日にカウナスに到着しました。一番肝心な道具が俳優自身の身体なので、小さなスーツケースをたった何個か持ってくるだけで済むのです、と劇団のメンバーが冗談交じりに話していました。劇団員の身体つきは各自大変異なることから、個々の能力に合わせて新しい解決法やアイディアをチーム全体でともに探索しながらパフォーマンスの素材を創り上げています。劇団かかし座代表の後藤圭氏いわく、影絵劇の制作には、その完成形によって多種多様な手法が用いられますが、最も興味深いのが、つながりや新しい技法を模索していくうちに、現代演劇と伝統的な影絵劇のバランスが見えてくることです、とのことでした。

フェスティバルKAUNAS PUPPET 22の二日目となった5月21日、劇団かかし座の一座は、カウナス州立人形劇場の大ステージで本フェスティバルの観客と参加者を迎え、『Hand Shadows ANIMARE』の舞台を2度上演しました。光と影の力を借りながら、パフォーマンスのなかでこの上なく見事な光景が生まれ、プロの俳優達の手によってさまざまな動物達のシルエットが巧みに繰り広げられました。本公演は8つの短い場面で構成され、それらが影絵劇に秘められた独特の可能性を顕わにしました。観客は、影絵による『動物たちのダンス』やゴリラのラブストーリー『ゴリラの恋』、日本の昔話劇、アンデルセン童話『みにくいアヒルの子』、ペンギンの物語『ペンタとペン子』などを鑑賞しました。そのパフォーマンスは、生命力、情緒深さ、そして観客との親密な関係が特徴的でした。この舞台のチケットは公演一週間前に完売し、終演時には、観客から影絵劇団かかし座の俳優に、惜しみない拍手喝采と大きな反響が送られました。

 

本イベントの主催者と劇団員達は、尾崎哲駐リトアニア大使閣下ご夫妻がフェスティバルKAUNAS PUPPET 22に来訪し、同国人の活躍にご注目くださったことを、大変喜びました。公演後、尾崎哲大使は、劇団員とフェスティバルディレクターのラサ・バルトニンカイテと歓談し、一緒に記念写真を撮りました。

「日本人の観客は、おとなしく着席し、始終とても真面目な顔をしています。滑稽な場面でさえも、その反応は控えめです。それに対して欧州、そしてリトアニアも同様ですが、観客は参加したり、感情を表現する機会があるごとに、非常にオープンに気持ちを表に出します。こうした傾向が、私達の文化的な違いを浮き彫りにしていると私は思います。」と劇団かかし座の代表で演出家の後藤圭氏が、欧州と日本の観客の違いについて尋ねられた際にこう述べていました。 

 

同劇団は、母国の日本で年間数百回もの公演を開催していますが、欧州各国の観客は、ほとばしる情熱と開放的な気質、そして大胆に分かち合うエネルギーを持ち合わせていることから、役者との距離がより近い印象を受けます。

A moment from the performance ANIMARE in the festival KAUNAS PUPPET 22 ©Viktorija Kajokaitė

劇団かかし座の俳優達は、本イベントで2回の公演を披露したほか、フェスティバル参加者に向けた影絵劇の創作ワークショップを開催しました。このワークショップには、人形遣いのみならず、他のフェスティバル参加者も集まり、また当初この創作プロセスに参加することに乗り気でなかった人達までが、アクティビティの中盤には夢中になっていました!この創作ワークショップの参加者は、実際に自分の手で、劇団かかし座の俳優達が公演のなかで見せた影絵を作ってみてはじめて、この演劇ジャンルにいかに多大なスキルや労力や熟練が求められるかが明確に実感できる、と語っていました!

 

フェスティバル最終日の晩、日本の同劇団は、フェスティバルの参加者や主催者との交流に快く参加し、各自の感想や新たな経験を共有し合いました。フェスティバル会期中、劇団かかし座の俳優達は、仲間の公演を観劇したり、欧州文化首都カウナス2022のイベントに参加したり、カウナスの建築や観光名所に親しんだほか、日本人外交官杉原千畝氏とユダヤ民族を救った氏の功績を称えるスギハラハウス(杉原記念館)を訪問しました。カウナス州立人形劇場と劇団かかし座の一行の今回のパートナーシップが、今後の共同プロジェクトや視察交流の機会を見出すきっかけとなることが期待できます。