感動をありがとう

半沢政人|奥会津アートサポート

その時、会場にいるすべての人々がダンスを通じて一つになった。私の中に、言いようもない満足感と幸福感が溢れだした。「やってよかった」それは、すばらしい瞬間だった。

2011年3月11日 午後2時46分 東北地方太平洋沖でM9.0の大地震が起きた。私はこの福島に生きる一人として「自分に何かできることはないか」と自問自答。3月下旬に隣町の柳津に原発事故の為、全村避難してきた葛尾村の支援を始める。子供たちを対象にした「アート教室」、琴と笛を演奏する日本在住のアメリカ人二人組「カート&ブルースふれあいコンサート」をサポート、前座として葛尾村の小学生「うたちゃん」を交えた柳津町のよさこいチーム「あかべこ演舞隊」の踊りを組み合わせ、葛尾と柳津の交流イベントとした。「柳津・葛尾 心のふれあい展」では、避難に対するそれぞれの思い、柳津への感謝を表現した俳句や絵手紙などを募集し展示した。葛尾村の方々への活動は、村が三春町に建設された仮設住宅に全村移住する8月下旬までつづく。

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そんな矢先、奥会津書房の遠藤由美子さんから連絡を頂き、「UNIK」ダンス公演のコーディネートをすることになった。EUジャパンの古木さん、ベルギーフランダースセンターのカトリッセさんとの打ち合わせの中で、葛尾村を支援してきた私は、「三春町を会場として実施できないか」と提案、「あかべこ演舞隊」と三春に行き葛尾村や三春町の方たちと共に踊れたらと考えた。公演予定は2カ月後の10月中旬、全く縁も知人もいない三春の地で、しかもこの短期間で実現できるのか。不安を抱えつつも「チャレンジする価値のあるダンス公演になる」との熱い思いが私の中で湧いてきた。

v49_02三春町に行き会場となる施設の下見をした後、偶然、会津で参加したアートイベントで三春町在住の陶芸家・安里さんと知り合い、力になってくれる方を紹介して頂く。9月中旬、カトリッセさんが福島に下見に来られるとの連絡を受け、一緒に三春町を訪ねることになった。紹介されていた三春町観光協会の渡辺安博さんと三人で打ち合わせ、会場の下見、次に、葛尾村の仮役場にてダンス企画の紹介、その後、柳津に移動して「あかべこ演舞隊」代表の矢部さんとも打ち合わせることができた。この日を境に一挙に話が進む。安博さんのおかげで当初会場として予定していた町民体育館から町の中心に立つ「まほらホール」での開催が決まる。葛尾村とともに三春の仮設住宅にいる富岡町とも連絡をとり、葛尾村・富岡町、両仮設住宅へのダンス訪問も決まった。公演3週間前に広報の為のチラシを作成し方々に配布する。しかし、あまりにも、急な公演決定で十分な告知ができたとは言えなかった。「一体何人集まっていただけるのか」不安を抱きつつ各団体へ「ダンス公演」の参加を呼び掛けた。

そして公演当日、世界トップクラスのダンス王国ベルギーからやってきた「UNIK」メンバー4人と初対面、皆、個性的で素敵な女性ダンサーだった。会場に移動してから、開始直前まで簡単なリハーサル。さて、どんな公演となるやら、ドキドキの時間が流れた。そしてついに本番、「UNIK」による素晴らしいダンス披露が始まった。彼女達のプロフェッショナルなダンスはのびやかで美しい。観客は初めて見る外人女性の素敵な踊りに魅了された。次に、柳津の「あかべこ演舞隊」10名と葛尾村の小学2年生うたちゃんのアットホームで一生懸命な「よさこい演舞」が披露され会場があたたかい拍手でわいた。最後に、メインイベント「UNIK」ダンスワークショップ。それまで観客として椅子に座って見ていた方々を交え、全員参加による楽しいダンスが始まった。「UNIK」ダンサーたちの上手な導きで子供から年配の方までダンスに参加、踊れるスペースは人でいっぱいになる。公演が始まった時は観客が少ないと感じていた、しかしこれでよかったのだ。その時、会場にいるすべての人々がダンスを通じて一つになっていた。その光景を見て、私の中に、言いようもない満足感と幸福感が溢れだした。三春の人、葛尾の人、柳津の人、皆一緒に笑顔で汗をかきながら踊っている。「やってよかった」それは、すばらしい瞬間だった。

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次の日、カトリッセさん、「UNIK」ダンサー、三春町の渡辺安博さん、昨日から応援に来てくれている郡山市在住のダンサー、叶みち子先生、高校生の八重樫琴美さんと葛尾村、富岡町の仮設住宅にある集会所を会場としたダンス訪問を実施。被災された方々の大勢の参加があり、皆、笑顔でダンスしてくれた。別れ際に「来てくれてありがとう。」とあたたかい声をかけられる。仮設住宅の風景を見て、さまざまな思いを感じた。私達全員にとっても貴重な体験となった。

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11月5日 再び、カトリッセさん、古木さんと三島町で再会。ベルギーの有名ギタリスト、 ヤン・デプレーテルによる「鎮魂と祈りのコンサート」公演が三島町西方にある奥会津書房を主宰する遠藤由美子さんの住む西隆寺にて行われた。会場となる寺の中に、南相馬市を応援するために企画した展覧会「応援アート~奥会津から南相馬へ送ります~」で展示する作品「花葬」を飾らせて頂く。ヤンさんのギターの音色に込められた鎮魂を絵に託し、南相馬に届けたい・・・との思いからだった。緊張感のある透明な祈りが境内に響きわたり心地良かった。その夜、このイベントに携わってこられた気持ちのいい仲間達で宴会を開く。ヤンさんのギター演奏と遠藤さんの見事な手料理のおかげで楽しい時を過ごした。

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3月から始まった私の支援活動はさらに広がり、大勢の方々とのつながりの輪が膨らみ続けている。「わたしにできる事を、できる時に、できるだけやろう。」そして「自分だけで出来ないことは、仲間に呼びかけ新たな縁を結んで実現しよう。」
ベルギー「UNIK」ダンス公演は特別な経験を私に与えてくれた。人生の中でも最も有意義な時を過ごすことができた2カ月間だったと思う。このダンス公演の為に協力してくれた数多くの方々に、心から感謝したい。

「感動をありがとう」 そしてこれからも、力強い未来のために共に努力し、繋がっていきましょう。

◎第19回EU・ジャパンフェスト:「ダンスグループ・ユニック:東北公演・ワークショップ」プログラムページは コチラ

◎第19回EU・ジャパンフェスト:「国際青少年音楽祭 in JAPAN:ヤン・デプレーテル公演」プログラムページは コチラ