山村浩二氏、アニバー国際アニメーション映画祭にてプレゼンテーション「不可触のものから現実への変容」を披露

クリスティーナ・ジーマイ|アニバー国際アニメーション映画祭、プロジェクト開発コーディネーター

アニバー国際アニメーション映画祭では、世界各地からプロのアーティストを招致し、実施するプレゼンテーションを通じて、作家らにアニメーション業界とその機能についてコソヴォの若者にご教授いただくことを主な目標のひとつとして掲げています。 

今年度も、過去の実施と同様、映画評論家、アニメーター、映像作家、監督などの方々にお越しいただき、コソヴォの青年達にとって世界の他の国々をより身近な存在とする機会をもたらすことができました。

アニメーション映画界における極めて著名な人物として間違いなく挙げられるのが、山村浩二氏です。山村氏には、特別審査員として、本映画祭の全会期週を通してお付き合いいただきました。山村氏は他の審査員とともに、国際コンペティション部門、学生コンペティション部門、長編映画コンペティション部門の映画作品の評価および審査を担当しました。

山村氏は、審査員を務めたほか、本映画祭のメイン会場となった映画館「ユスフ・ゲルヴァラ」にて、『不可触のものから現実への変容』と題した映画プログラムを披露しました。ここで取り上げられた映画作品リストには、『水棲』(1987年)、『トーキョーループ』より『無花果』(2005年)、『カフカ 田舎医者』(2007年)、『マイブリッジの糸』(2011年)、『サティの「バラード」』(2016年)、そしてアカデミー賞ノミネート作品となった『頭山』(2002年)などの映画が含まれています。

プレゼンテーション終了後には、参加者がアニメーション制作において山村氏が究めた技法についてご本人と質疑応答や議論を行う機会が用意されました。このプレゼンテーションには、およそ120名もの観覧参加者が出席しました。参加者のほとんどが映画祭会期中に上映された山村氏の映画を鑑賞済みだったこともあり、作品に関してすでに造詣がありました。なかには他の映画祭で山村氏の作品に触れていた参加者もいました。概して、観客は、講演者自らが映画作品に取り組む際の制作プロセスや、選んだアプローチに深く感銘を受けていました。また、イシュ・パテルのように、山村氏に影響を与えた人物について知ることができたことに、大変歓喜している様子でした。当プレゼンテーションは、観客にもたらしたインパクトとソーシャルメディアを介した情報伝播という両面で、成功と評される結果となりました。 

アニメーション映画業界では、一般的に、アニメーション制作に使用されるテクノロジーに評論家や芸術愛好家の主な注目が向けられがちですが、そのなかで山村浩二氏のアニメーションとは、心物二元論を超えた先のより奥深いスピリチュアルな世界、すなわち山村氏が信じる潜在意識と現実をひとつに結ぶ答えの在り処へと入り込むことである、ということが強調されるべき点として言えます。こうした概念に関する考察については、「私のアニメーション作品における精神レベルでのモチーフの同化」、「アニメーションにおける動きの創造と魂との融合」、「制作における潜在意識の持つ役割」、「アニメーション表現の技法を通じて潜在意識と繋がる方法」といったトピックの流れで述べられました。 

プレゼンテーションに加え、私達は山村浩二氏がアニメーションを手掛けた映画作品で構成された子供向け特別プログラムの上映を実施しました。幼い世代の子供達は、以下の映画『ふしぎなエレベーター』(1991年)、『あめのひ』(1992年)、『サンドイッチ』(1992年)、『おうち』(1992年)、『キッズキャッスル』(1995年)、『キップリングJr.』(1995年)、『どっちにする?』(1999年)、『おまけ』(2002年)、『年をとった鰐』(2005年)、『あめふりくまのこ』(2010年)、『Five Fire Fish』(2013年)、『怪物学抄』(2016年)を鑑賞する機会を得ました。

山村氏をお迎えし、本映画祭の審査員としてご紹介できたことが、アニバー国際アニメーション映画祭の国際的注目度の上昇に繋がりました。また山村氏のように経験豊かな人物にご参加いただいたおかげで、映画作品の審査水準の向上が図られたとともに、山村氏が若手の観客達と向き合ってくださったことにより、多大な制作実績を誇る熟練アニメーターに若手アニメーター達をご紹介するきっかけとなりました。そしてこれを通じて、私達は、日本とコソヴォの文化的絆をより一層深めるに至ったのです。

 

 

本映画祭について

第10回のテーマは、「ARTivism‐希望と恐怖!」でした。

政治的、経済的、環境的変化に対して無関心化が着実に進む社会を背景に、アニバー国際アニメーション映画祭では、第10回を迎える今回の映画祭において、芸術を通じて行動を奮い立たせ、市民運動の推進を図るべく、希望と恐怖をテーマとして取り上げました。

今年度は、当コンペティションプログラムに1223もの映画作品の応募が寄せられました。そのなかから部門ごとに、国際コンペティション部門22作品、学生コンペティション部門36作品、アニメーションミュージックビデオ部門16作品、バルカンコンペティション部門10作品、長編コンペティション部門3作品の作品数が当コンペティションプログラムに入選を果たしました。このほか、パノラマ・アウト・オブ・コンペティションプログラムには5本の作品が、子供とティーン向けプログラムには短編映画65本と長編映画3本が含まれました。

コンペティションプログラム以外にも、一週間にわたる本映画祭のスケジュールには、7つの特別プログラム、4つの国際プレゼンテーション、3つの「バルカン・テイル」プレゼンテーション、「ミート・ザ・フィルムメーカー」と題した7シリーズにわたる討論会、4つのパネルディスカッション、7夜の音楽コンサートが盛り込まれました。その一方で、教育プログラムは、4つのアニメーションワークショップ、2つのマスタークラス、1回の指導者研修と審査員による学生メンター研修で構成されました。

アニバー国際アニメーション映画祭は、コソヴォで唯一のアニメーション映画祭であり、ペーヤ市で最大規模を誇る文化イベントでもあります。当団体では、本映画祭を通じて国際的映画作品を地元の観客にご紹介するとともに、ワークショップやマスタークラスをはじめとした教育活動の実施により、若手世代のアニメーター達の啓発と育成を図ることを目指しています。