中央ヨーロッパ、共通言語”音楽とジャズ”を東京で紹介

ミハル・コットマン|駐日スロヴァキア共和国大使

「(共通する文化として紹介するのに)なぜジャズなのですか?」今年の11月4日、東京で開かれたコンサートの来場者の1人からこのように聞かれた。 この質問自体が、その問いに対する答えとなりうるだろう。

ヴィシェグラード・グループ(「ヴィジェグラード4カ国」あるいは単に「V4」とも呼ばれている)では、中央ヨーロッパの4カ国が共通の関心を持つ分野において、あらゆるレベルで協働を行っている。 チェコ共和国、ハンガリー、ポーランドそしてスロヴァキアはその根源を同じくし、各国の特有性や多様性を保ちながらも、文化や知的価値を共有しながら同様に近代化を遂げてきた。

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トランペット奏者コルネル・フェケテ-コヴァーチュのソロ

日本では、これら4つの国はクラシック音楽というジャンルで広く知られていると言った方が正しいだろう。文化シーンにおいて確固とした地位を築いているジャズや、 その他の近代音楽という観点を通して、これらの国々が語られることは格段に少ない。フェスティバル、イベント、コンサート、そしてジャズの協働プロジェクトの数々を見れば、 V4各国で発展してきたジャズの素晴らしさが詳しく伝わるとは思うが、私はここで1つ具体的に触れたい。まもなく、「ヴィシェグラードの日々」という文化イベントの一環で、 欧州文化首都コシツェ2013において、ジャズ・フォー・セール・フェスティバルというプログラムの開催が予定されている。

東京で行われた「ヴィシェグラード・ジャズ四重奏」は、V4(ヴィシェグラード)における文化と芸術のコラボレーションの好事例である。参加国のアーティストたちは皆、同様の興味を持ち、 それにより彼らはつながっていた。ジャズ・ミュージシャンは、言語を共有している。それはジャズの言語だ。それは国を問わない。このジャズの言語は、個人のアイデンティティを超え、 もっとも高いレベルにおいて、お互いのコミュニケーションを可能にする。すべての音楽家たちをつなぎあわせるものは、同時に彼らの多様性をも保つことができる。 その多様性こそが、この四重奏を面白くし、そして新たな勢いを生み出すきっかけとなるのである。

客席

ポーランドのピアニストであるクバ・スタンケヴィッチ氏が、中央ヨーロッパ・ジャズ・コネクション(CEJC)というジャズのプラットフォームを立ち上げた2002年から、 V4四重奏団のメンバーは協働の取り組みを開始した。このプラットフォームは、オーストリア、そして新たにEU加盟国となったポーランド、スロヴァキア、スロヴェニア、チェコ共和国、 そしてハンガリーを結びつけ、これらの国が抱える多様性と同時に、共通する文化的背景を人々に伝えることを目的としたものである。このCEJC初のコンサートは、2002年2月、ワルシャワで開催され、 ポーランドのラジオで生放送された。2002年から2011年の間、CEJCはヨーロッパ各地、さらにイスラエルにおいても、フェスティバルやイベントを多数開催した。これらの期間にパフォーマンスに出演したミュージシャンは非常に多いのだが、中でもトランペットとフリューゲンホルン奏者であるコルネル・フェケテ-コヴァーチュ氏、ピアノ奏者のクバ・スタンケヴィッチ氏、ギターのマトゥーシュ・ヤカブチツ氏、コントラバスのトマーシュ・バロシュ氏は、 コアのメンバーとしてグループを引っ張り、すべてのコンサートに出演してきた。この4人の存在、そしてヴィシェグラード各国から4人の音楽家が集まり演奏するというアイディアが、後にV4四重奏団を生み出すきっかけとなった。 そして、ヴィジェグラード4の20周年記念である2011年に、その設立にこぎつけた。それからというもの、V4四重奏団はプラハ(チェコ共和国)、ブラティスラヴァ(スロヴァキア)、ブカレスト(ルーマニア)、 ブリュッセル(ベルギー)で演奏を披露している。直近のものでは、今年の6月、モスクワ及びオーストリア・ウィーンのポーギィアンドベス・ジャズクラブの2カ所で公演を行った。

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コットマン大使によるスピーチ

四重奏団のメンバーたちは、世界で活躍するジャズバンドやジャズ・ミュージシャンとのコラボレーションを多数実現させ、中央ヨーロッパのジャズ界を率いるものとして名声を得ている。 強力な個性は、高度なパフォーマンスに現れているだけでなく、ジャズの作曲やアレンジにも表現されている。(東京でのパフォーマンスは、彼ら自身が作曲した演目がレパートリーとなっている)。 メンバーたちはお互いに似たような音楽感覚を持ち、それらでつながっているのだ。この「ジャズの言語」を通して彼らは会話をし、そしてその言語は日本でも十分理解されていた。 (実際、東京でのコンサートの最中にそれは強く感じられた。)

四重奏団のメンバーたちにとって、東京で公演を行うのは初めての機会だった。この11月の公演以前に、日本人の聴衆に対して演奏を披露したことは、個人的にもグループとしても一度もなかった。 そして、私が知る限り、4つのヴィジェグラードの国々から来たジャズ「特使」が、日本のステージで一緒に公演するというのもまた、初の試みでもあった。

したがって、V4ジャズコンサートを開催することによって、人々が異なる観点から、V4の国々について、またその共通性や協働について、知ってもらうことが出来る機会を提供できればと、私たちは期待していた。 コンサートの来場者からの反応を見ると、彼らはこの新しい経験を非常に楽しんでくれていたようだ。さらにこのV4ジャズプロジェクトが、 将来的には日本のジャズ・ミュージシャンとのコラボレーションによってさらに魅力あふれるものになることを楽しみにしている。これは単に実現可能というだけでなく、そうなることが極めて自然だと私は思っている。

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これは、日本のパートナーからの支援、特にEU・ジャパンフェスト日本委員会からの協力がなければなし得ないことである。 本コンサートの実施にあたり寛大なサポートを頂いたことに心から感謝の意をここに示したい。

近年、日本とヴィジェグラードの4カ国との間で行われている交流や協力は、ますます強化され、ダイナミックなものとなっている。しかし、互いをさらに良く知り、自国についての興味をも促進し、 さらなる相互理解を深めるためには、もっといろいろなことが出来るに違いない。これこそが、友好を築く方法であり、そこで築かれた友好関係こそ、順調な時に互いを助け合うだけでなく、 厳しい時代においてもその困難を乗り越え支え合うための、絆となるのである。