ロックダウンの壁を超え世界中の人々と一つの映像をつくるプロジェクト

宇佐美雅浩|写真家

私たち(宇佐美雅浩、倉増和真)は、COVID-19をテーマにした映像作品を制作した。映像の中では、非常事態宣言が出された東京のシーンと、世界中の友人や知人に依頼した封鎖されているさまざまな外国の都市のシーンをつなぎ、コロナ禍では、男性も女性も、老いも若きも、社会的な・経済的な立場に関係なく、誰もが等しく同じ状況にあるということを表現した。

宇佐美は、「Manda-la」という作品を四半世紀にわたって作り続けている。「Manda-la」とは仏教絵画の「曼荼羅」に想を得たものである。ある人物を中心として、 その人に関わる物や人々を周囲に配置し、一枚の写真におさめることで、その人物の人生やそこに映り込む様々な関係を一つの世界として凝縮して表すシリーズである。 制作では、その土地を何度もリサーチし、現地の人と対話を重ねる。始めた当初は、身近な人々を巻き込んだ個人的なものだったが、次第にテーマやスケールが大きくなり、今では写真に登場する人物とともに、背景となる土地の歴史や文化、現在をも浮かび上がらせる表現へと変化している。 このシリーズでこだわり続けていることの一つとして、画像上の合成は行わず、映るものは全て実際に準備し、舞台を作りあげた上で撮影をすることがある。

2020年、宇佐美は東京オリンピックをテーマに長年制作してきた作品「Manda-la」を撮影する予定だった。しかし、コロナウイルスによるパンデミックで世界中が一変しすべてが延期になった。曼荼羅は、宇宙の中に存在するすべては繋がり、めぐりめぐって共に影響しあっているという意味を含んでいる。COVID-19は、世界中に蔓延し地位も名誉も無関係に平等に感染していく。それならば、コロナを中心に添えたManda-laの映像作品を制作しようと思うに至った。

Tokyo©︎Masahiro Usami

宇佐美は、すべての便がキャンセルになった閑散とした羽田空港を訪れた際に、動画を撮った。そのとき、この歴史的な状況を記録する一つの手段とした動画作成に興味が湧いた。世界中の誰もがスマートフォンを持っている時代となり、気軽に動画を撮影をできるため、撮影した動画を一つにつなぎ合わせることで、全世界共通のコロナ禍を映像として表現できるのではないかと考えた。

宇佐美は、映像作家である倉増を誘い、二人は東京で撮影を始めた。また、映像クリエイターの岡本氏に声をかけ、映像制作に取り組むに至った。

Project Document©︎Kazuma Kuramasu

新型コロナウイルスの影響下、世界の多くの都市はロックダウンされた。それらの都市では法律により外出が規制され違反者に罰則が与えられた。
東京でも緊急事態宣言が発令されたが、法的拘束力はなくあくまでも自主規制を求めるものだった。都は経済活動にも自粛要請を行った。同様に法的拘束力はなかったものの、様々な店舗が店を閉め、リモートワークに切り替える企業も増加した。その効果もあってか、約2ヶ月後緊急事態宣言が解かれたが、特異な国民性が世界中から注目された。

宇佐美が個人的にショックだったのは、緊急事態宣言の発令前、東京に住む私が千葉(東京に隣接する県)の実家に帰省しようと母に連絡した際に、感染者数の多い東京から「品川ナンバー」の車が来たら、近所の人の目が怖いから帰って来るなと言われたことだ。いつも息子が戻ってくるとあんなに喜んでいた母の口から出てくる言葉とは思えなかった。
巷では自粛警察なる輩が生まれ、営業している店舗への批判的な電話や、SNSでの攻撃といった匿名で正義を振りかざす行為など、相互監視社会の窮屈さが目に付いた。

撮影した緊急事態宣言下の人影まばらな東京。
その光景は経済的なリスクを伴いながら、自らを律し、協調する、良くも悪くも従順な日本人の国民性を表現しているようだった。
緊急事態宣言の解除後、街へ出た。
しかし、どんなに早朝であっても、もはやあの光景は再現できないとその時わかった。

2021年7月には、無観客の東京オリンピックが行われたが、その裏ではコロナは猛威を振るい続けた。

私たちはそのような状況下の東京でも撮影を続けた。そして、同時に、東京から一歩も出ずに世界中の人々に、コロナ禍にある街の様子を撮影してもらい約60都市の映像を集めた。

個々の事情を抱えながらも世界各地の人々が協力をしてくれ、この特殊な時間を撮影し、日本に住む私達に映像を届けてくれた。香港の友人は中国との複雑な政治状況の中撮影をしてくれた。ミャンマーはその後内戦状態になった。ウクライナも戦場になり、ロシアのモスクワの広場もまた、今は撮影を依頼できない状態になっている。

Lviv©︎Yuliana Romaniv

声をかけた友人の中には数十年ぶりに声を聞いたものもいた。懐かしい話に花がさき、お互いの国でのコロナの状況を確かめあい、同じ状況に置かれていることを確認した。その間にも世界情勢は変わったが、コロナだけは淡々と、機械的に、人間の意思に関係なく、宇宙の法則のようにそこに存在している。

COVID-19の影響を受けた世界中のシーンをつなぎ合わせることで、世界中の人々がCOVID-19によって、つながっているという事実を擬似的に再現できたと感じる。星の軌道、人間の中にある原子核の動きは共通しており、全てのものはいくつかの同じ要素でできている。それらの中を淡々とウイルスは駆け巡り、増殖し、世界を繋げていく。そんなイメージの制作となった。コロナが長期化するなか、着地点を探りながら制作は進んでいる。