ラブ島ロパール地区のフェリー港に恒久展示される行武治美氏によるインスタレーション作品「Argonaut」

イヴァ・カレントリッチ|Lungomare Artプログラムマネージャー

Lungomare Artの旗艦プログラムのもとで制作される11のアート作品のひとつが、欧州文化首都リエカ2020とチェコ共和国出身のゲストキュレーター、ミハル・コレチェク氏からの招聘を受けた日本人作家、行武治美氏によるインスタレーション作品「Argonaut」です。このインスタレーション作品は、ラブ島にあるロパールという集落、具体的にはカピッチという名の公園内に設置されることになっています。

 

ロパール地区は、近年の2006年に自治体の地位を獲得したばかりの集落です。この集落とその日常生活は、自然と観光産業からの影響を著しく受けています。ここは特に子供連れの家族のあいだで有名で人気の高い観光地です。ロパール地区の観光地としての営みは、あらゆる年齢層に適した人気スポット、パラダイス・ビーチに集中しています。治美氏は、自らのインスタレーション作品に相応しいマイクロロケーションを探し求めていた際に、フェリーで到着した来訪者が皆、すぐそばにある公園に立ち寄ることなく、脇目も振らず有名なパラダイス・ビーチに直行していることに気づきました。整備の行き届いたその公園は、パラダイス・ビーチの真向かいにあり、さらにフェリー埠頭の真隣という地理的立地に位置することから、常設のインスタレーションアート作品に絶好の場所となりました。すべての人々に開放され、アクセスしやすいこの新しい芸術コンテンツは、この場所に新たな活力を吹き込み、文化的コンテンツに寄与するとともに、来訪者にできるだけそこで過ごしてもらい、交流の場を持つ機会を促します。さらに芸術的介入により、カピッチ公園の簡素な建築空間に新たな次元がもたらされ、それが作品にとって欠かすことのできない要素となるのです。新設される建造物もまた、この土地のアイデンティティと文化的魅力に貢献し、またそれらを後押しする存在となることでしょう。

作家はリサーチの過程で、主にこの土地の自然、そしてそこからその一部である砂や石といった素材にインスピレーションを感じていました。地元の伝承によると、その昔、砂がガラス製造向けにヴェネチアへと運ばれていたといわれています。行武治美氏は、多様な素材を組み合わせることにより、それらの形状や郷土の伝統に由来する意味を駆使しながら、地域の暮らし、特に漁業の歴史的起源に関連した産物を披露する機会を得たのです。最終デザインの準備にあたり、治美氏はこの土地固有の自然や景観の特質に加え、当地の環境産業に関連した社会的・経済的発展に重点を置くことを望んでいました。

 

インスタレーション作品「Argonaut」は、その規模およそ150平方メートルで、貝殻の形をした間取りの渦巻き部分には幅広く傾斜の緩やかな階段が配され、中央部分の塔はおよそ4メートルの高さに達する予定です。素材には、白いコンクリートとラブ島で採掘された黄土色の石材が使用されます。インスタレーション作品本体には、これに加えてガラスの要素を取り入れた装飾が施されます。

Argonaut=アオイガイとは、海洋動物の一種で、頭足類に属する浮遊性生物、より正確には遠洋性のタコで、見た目は貝殻に似ていて、珍種とされており、時にロパール地区沖のアドリア海に生息することがあります。

 

行武治美氏が自らの言葉で私達にその想いを語ってくださいました。

「この世の中には『芸術』という言葉の多様な定義が存在します。私が考える芸術とは、調和と異化の新しいバランスを創造することあり、それが論理的な説明を抜きにして感覚的な洞察を誘発するものを意味します。いかなる芸術にもそれぞれ存在理由があり、精神的ないしは物理的に明確な役割を帯びています。芸術は、斬新かつ肯定的な方法で、暮らしのなかに欠如しているものを補完しているのです。

 

それでは、ロパール地区のカピッチ公園にはどのような芸術が相応しいといえるのでしょうか。言い換えるならば、公園の利用者のために何があり何が欠けているのでしょうか。この公園では、大きく二種類の利用者に分かれます。そのひとつめが夏季旅行者です。ラブ島は、その美しい自然を楽しむために世界各国から人々が集まる、人気の休暇旅行目的地であると明らかにいえます。休暇とは、非日常的体験を享受するために、日常生活から逃避する行為を意味します。これには芸術がもたらすものに相通じるところがあります。こうした旅行者にとって、休暇体験を芸術作品で再変換するのでは意味がありません。むしろロパールに秘められた魅力をより高めることによって、鮮明な芸術的記憶を提供することができるのです。もうひとつめの主な利用者が、住民です。ロパールの美しい静謐な風景が、住民達にとっての普段の佇まいです。旅行者とは対照的に、求められているのは、ある種の祝祭的な要素なのかもしれません。パブリックアートとは、こうした相反する目に見えない期待に応えながら、季節ごとのみに限らず、年間を通じて新たな特色を提示すべきものなのです。

私がロパール地区で展開する作品は、アートと建築と造景の中間といったものになるだろうと想定しています。空間芸術は、来場者に楽しんでいただくことが不可欠で、そうでなければ作品体験を満喫してもらうことができません。またこの新しく創り出された空間の存在により、本作品により交流の促進が図られることを望んでいます。グローバリズムと情報技術の時代に生きる私達は、文化的基盤や真の物事への関心が喪失した感覚に取りつかれています。そのことが、私が石やロパールの砂で造られたガラス、原生植物、そしてこの島特有の地域の文化的人工物に注目している理由のひとつなっているのです。」

 

新型コロナウイルス感染症の流行により、インスタレーション作品「Argonaut」の完成は、2021年に延期となりました。行武治美氏とリエカ2020は、今後の実現に向けて最終デザインとそれに伴う関連書類の一式をロパールの自治体に提出しました。私達一同、疫学的状況が改善され、この美しいアートプロジェクトの物理的な制作が可能となることを願っております。