ハンド・シャドウズ・アニマーレ in EUツアー 2022

飯田 周一|俳優、企画制作

劇団かかし座は2022年創立70周年を迎える影絵劇団。2009年にドイツプレミアを飾った手影絵のみを用いた斬新なパフォーマンス『Hand Shadows ANIMARE』が注目を浴び、2019年まで海外公演を続けてきました。
2020年パンデミックにより海外事業は中断、Keepgoing TOGETHERのオンライン公演等、オンラインにて海外アプローチは継続していました。

2021年6月、2022年の欧州文化首都であるエッシュ、カウナス両地と交渉するチャンスを得ました。そこで私は、その2カ国に加え、2021年リモート公演とWSを実施したフランクフルトの計3カ国のツアーコーディネートを計画しました。しかし各地の日程調整に加え、パンデミックの状況を注視しつつのプランニングは難航。さらにロシアによるウクライナへの侵攻。カウナスのあるリトアニアはロシアと国境を接し、戦争当事国の隣国にアーティストを連れて行けるのかと悩んでいました。

しかし、そこで心強い声をかけてくださったのはEUジャパンフェストの古木氏、そしてカウナス国立人形劇場のKristina Baguckaitėさんでした。正確な国際情勢、COVID19の状況、その中で活動している当地のアーティストの思いを紹介して下さいました。そして何よりも日本の影絵のパフォーマンスを是非楽しみたい、という熱烈なコール! 3月には渡航条件も大幅に解除、気持ちは徐々に決まりつつありました。

Vilnius, Lithuania. at the Ukraine support performance. After the show, a mini-exchange with Ukrainian children.. Venue is Keistuolių teatras. ©KAKASHIZA

そんな折、リトアニアの首都ヴィリニュスにウクライナから避難をされている方が4万人いる、ということを聞きました。
「こんなにたくさんの子供たちが戦禍を受けている。何か私達に出来ないものか」
そう思い、ツアーの移動日程を使って、プロジェクト”Hand Shadows ANIMARE Aid of Ukraine”を立ち上げたのです。既に渡航まで40日。今から主催公演を海外で企画することなど不可能だ、と誰もが言いました。しかし私は諦めませんでした。ASSITEJ(国際児童青少年舞台芸術協会)Lithuaniaへ連絡をとり、交渉の結果、keistuolių teatrasというシアターが私たちの想いを汲んでくださり、広報宣伝、また、ウクライナ避難された方々向けの招待システム等も用意してくれました。そのシアターからは、2回公演を提案されました! 450席を2回、900人、しかも平日で上演まで3週間…集客出来るのか…悩みは絶えませんでした。

一方ではエッシュ、カウナス、フランクフルトの打ち合わせ。私は今回、オーガナイザー、ツアーコーディネーター、そしてパフォーマーと1人3役で奔走。渡航ギリギリまで、渡航中も多忙な日々でした。

閑散とした羽田第3ターミナルから出国。

初日の地エッシュ、ルクセンブルグへ。かかし座としては初上陸。会場は中高等学校の講堂。通常のホール機材がないため、設営が困難なこともありましたが、無事完了。会場はほぼ満席の盛況で、ご視察された奥山大使ご夫妻にも大変お喜び頂けました。アテンドしてくださった大使館の田中さまも、初めての舞台芸術の取り組みが大成功だったということで、今後も機会があればぜひとお声がけを頂きました。

次はいよいよリトアニア初上陸。初日が首都ヴィリニュスでの公演。かかし座としては初の海外主催公演の上、チケット売上を全額寄付するチャリティ公演です。
ギリギリの提案の結果は、驚くべきことに、満席でした。上演は割れんばかりの拍手とスタンディングオベーション! 舞台には会場側の提案でウクライナ国旗を掲揚。ウクライナから避難されたご家族もご来場され、子どもたちには手影絵の作り方が絵入りで記載されている弊社の本「おもしろ影絵ブック」をプレゼントしました。子どもたちが見せてくれた笑顔がとても嬉しかった反面、ご来場されたウクライナの方は母親と子どものみ。男性はゼロ。とても複雑な心境にならざるを得ませんでした。

チケットの売上は€2,883。全額ASSITEJ LithuaniaからASSITEJ Ukraineへ寄付されました。これは、ウクライナの児童青少年舞台芸術のために使われます。

Small post-show interaction. ©KAKASHIZA

そして、カウナスへ。
KAUNAS PUPPET 22。INTERNATIONAL PUPPET THEATRE FESTIVAL。
バルト三国を始め、ウクライナを含めた10数劇団が参加。カウナスは欧州文化首都として既に様々なイベントも同時進行されており、至る所にアーティスティックな景観があります。

かかし座はフェスティバルの最初から最後まで参加する唯一の劇団でした。各国の作品を観劇し、アーティストとの交流も出来、大変貴重かつ濃厚な5日間となりました。その中で、ウクライナ首都キーウを拠点に活動する影絵劇団”PAPASONY”のパフォーマンスを観る機会があり、パフォーマンスには大変心打たれました。終演後の観客のリスペクト溢れる熱いスタンディングは生涯忘れられないでしょう。
私たちのパフォーマンスも大成功でした。2回公演とも満席の上、客席通路階段にもお客様が座って観るという、日本では考えられない観劇スタイル。当日は尾崎大使ご夫妻もご観劇下さいました。ワークショップは、フェスティバルのアーティスト向けとして設定されており、楽しみながらも充実したワークとなりました。最終日にはフェアウェルパーティもあり、別れを惜しみつつも次の国へ向かいました。

最終目的地フランクフルトへ。世界最大の日本映画フェスティバルである”NIPPON CONNECTION”に2年連続で招聘され、昨年はリモートでしたが今年は現地での出演に。かかし座はJapan Cultureという出演枠でパフォーマンスとWSにて参加。沢山のお客様に楽しんで頂きました。

此度の経験は確実に次へ繋がると確信を持っています。文化芸術は実に多様かつ普遍的で、あらゆる壁を越え人々に語りかけることが出来ると改めて感じました。早く欧州に平和が訪れることを願ってやみません。