コロナ禍の欧州へ 事務局・古木の訪問記(その17)

古木修治|EU・ジャパンフェスト日本委員会 事務局

14日間の欧州を終え胸に迫ること

ベオグラード空港で搭乗拒否され、新たなフライト確保まで市内で2日間の追加滞在となった。この間、ホテル界隈やドナウ川畔を散策して過ごしたが、この旅を静かに振り返る珠玉の時間を過ごした。近くの公園で目に留まった薔薇の美しさに心を奪われた。毎年、変わらずに咲き誇っているに違いないのに、何故か特別に美しく感じた。同時に薔薇の美しさやそれを見て感動することを長い間忘れていた自分に気づき少し恥ずかしくなった。

左:ベオグラードのドナウ川。ノヴィ・サドより100㎞下流へ。川幅はさらに広くなった。
右:私のハートを鷲掴みした薔薇たち。

さて、コロナ禍の不安の中、意を決しての欧州行きだったが、結果として一言では言い表せない程の心豊かな経験となり、まさに実り多い旅となった。

2日待ってベオグラードからフランクフルトへセルビア航空の直行便、フランクフルトから羽田行きも確保できた。空港のロビーからセルビア航空の機体を見つけた時には、安堵感がわいた。乗り継ぎのフランクフルト空港は相変わらず人影が少なく多くの免税店も閉鎖されたままであった。いよいよ、羽田行きの機体が離陸、上昇を続けやがて水平飛行となった。窓からは、見渡す限り雲が広がっていた。恐らく雲の下はドイツの深い森が続いているに違いない。さらに南はその緑の濃さから黒い森(シュバルツバルト)が広がっていることを想像した。

待ちに待った帰国の便、セルビア航空フランクフルト行き

今回、ノヴィ・サド、そしてベオグラードで毎日眺めていた雄大なドナウの流れも上流に遡ると黒い森(シュバルツバルト)に至る。全長2,860kmのドナウ川はドイツに始まり、オーストリア、ハンガリー、クロアチア、セルビア、ブルガリアを流れ、そして、ルーマニアのコンスタンツァの北に位置する河口のドナウデルタで黒海に出会う。ドナウ川は、これまで民族の大移動、大国の興亡、戦争、そして平和を目撃してきたはずだが、今なお、ただ悠然と流れているだけだ。長い歴史から見れば、今回のコロナ禍も瞬くほどの短い間の出来事の1つでしかないであろう。ヨーロッパ有数の大河ドナウもドイツの黒い森(シュバルツバルト)の高台の1滴から始まる。まさに「大河の一滴」である。

高度1万メートルから眺める地球は格別だ。日常的な雑事から解放される。私の頭の中はタイムトンネルに突入し南米の先住民の話が現れた。「ハチドリの一滴」だ。話はこうだ。

森が火事になり、動物たちが我先に逃げてゆく中、1羽のハチドリだけは残り、水の雫を1滴ずつ運んで、火の上に落としてゆきます。「そんなことして、いったい何になるんだ。」と笑われますが、「私は私にできることをしているだけ」と答えます。

話はこれで終わるが、環境ジャーナリストの枝廣さんはこんな続きを書いた。

森が燃えているのを見たハチドリは、仲間を増やそうと思いました。「それぞれが1羽ずつ仲間を増やすよう伝えて!」2回伝わると4羽が、3回伝わると8羽が、10回伝わると1,024羽が、20回伝わると100万羽以上が、そして40回伝わると1兆羽以上のハチドリがやってきて、あっという間に火事を消してしまいましたとさ。

高度1万メートルで気圧が低くなったせいか、私の妄想は止まらない。数年前、国連が世界の人口は66億人で、それぞれ44人の知り合いがいると発表した。44人がそれぞれ44人の知り合いに何かを伝えたとする。1,936人がつながる。それを6回繰り返すと世界の全人口の66億人につながるのである。妄想ばかりしていると、「妄想している人間は、それが妄想であることに気づかないのだ」と笑われてしまいそうだ。

この2週間、欧州で出会った殆どの人たちが笑顔を絶やさなかった。笑顔が笑顔を呼んでいた。笑顔の連鎖である。日本よりはるかに酷い感染が広がっているのに拘わらず、誰1人コロナ禍の話題を持ち出さなかった。夢を語り、そして、今後の具体的な目標を掲げ、どのように実行してゆくかを話し合った。私達ひとりひとりの力は僅かかもしれないが、少なくとも「大河の一滴」「ハチドリの一滴」である。そう思えたことが、コロナ禍の欧州訪問で得た一番大事なことだった。次回は最終回、羽田空港で日本入国の状況について触れる。

※最終回は10月18日