カウナスの日本視察訪問

セルゲイ・グリゴリエフ|ディレクター

パンデミックが遂に鎮静化し、これを踏まえ、カウナス代表団の日本訪問再開のときがやって参りました。EU・ジャパンフェストからのご支援により、私達は国境が広く再開する数週間前に日本に辿り着きました。

10月24日から28日にかけて、カウナス写真ギャラリー会員で写真家のロムアルダス・ポジャースキス教授、欧州文化首都カウナス2022国際プロジェクトマネージャーのダイヴァ・ジェレミチエネ氏、本イニシアチブの主催者で文化マネージャーの私セルゲイ・グリゴリエフというカウナスのクリエイターで成る小さな代表団が、人的交流を目的に日本を訪れました。他のリトアニア人文化専門家とともに、私達は新たな可能性を探り、多彩な魅力溢れるカウナスを称え、日本との新しい創造的協働を模索しました。

当代表団は、日本交流基金、アーツカウンシル東京、EU・ジャパンフェスト、東芝国際交流財団、日本リトアニア友好協会のリーダーとの実り多い会合の場を持ち、横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)をはじめとする横浜の文化機関や現代アートスペースや、東京写真美術館を視察しました。さらに十数にのぼる著名な舞台芸術、視覚芸術、出版分野の機関やフェスティバル主催者とのミーティングも行われました。

Delegation meets with Yokohama creative community ©︎ Sergej Grigorjev

10月26日、東京の駐日リトアニア共和国大使館で開かれた、日本のクリエイティブ組織、文化財団、美術学校の代表者、アーティスト、翻訳家が参加するカンファレンスで、当代表団が3つの講演を行いました。

ダイヴァ・ジェレミチエネ氏は、自らのプレゼンテーションで、欧州文化首都カウナス2022の都市について幅広い観点を呈しました。欧州文化首都のタイトルがもたらした都市とコミュニティの再生への功績は絶大で、また国際的に称賛されるアーティスト達により、カウナスに世界の注目が集まりました。文化は都市を変革すると私達は断言します。カウナスは日本と強い絆で結ばれており、EU・ジャパンフェストのご支援により、2022年には「日本文化週間 in カウナス WA」という日本フェスティバルが新たに誕生し、その文化的関係を次のレベルに高める一助となりました。

ダイヴァ氏は、カウナスをくまなく熟知しています。カウナス市政府の国際関係の分野でキャリアを開始した同氏の経歴は、ルクセンブルグの欧州連合欧州委員会やブリュッセルの欧州経済社会委員会での数年間の勤務を含みます。2019 年より「欧州文化首都カウナス2022」のプロジェクトのチームの一員となりました。海外アーティストやクリエイター、文化機関、外交使節団、財団との国際的な文化パートナーシップおよびプロジェクトの調整を担当する彼女は、長期的な国際的連携やイニシアチブを確立する上で、地元の文化コミュニティの代表者への支援に注力しています。

Presentation by prof. Romualdas Požerskis at the conference ©︎ Tatsuya Yukihira

ロムアルダス・ポジャースキス氏(1951年生)は、1974年から1984年に制作された自らの写真作品を披露しました。本作は、カウナスの街の暮らしを捉え、もはや存在しない都市、すなわち過去のカウナスを物語っています。ロムアルダス氏は、中庭の現象に日本の観客の関心を集めました。通常、4軒の住宅が長方形に連結して配置され、建物の正面は通りに面し、背面が中庭を構成する造りとなっています。中庭の空間は、公共であると同時に私的で、オープンでありながら人目につかず、子供達が安全に遊ぶ傍らで人々が足早に通り過ぎます。こうして生じた現象が、作家の独特な視点で撮影されています。

ヴィータウタス・ マグヌス大学(VMU) 現代美術学部名誉教授を務めるロムアルダス氏は、1975年より写真家として活動を開始。1980年にフリーの写真家となり、リトアニアおよび海外の報道機関に写真を提供。1993年よりVMUに勤務。同氏は、1970 年代に台頭したリトアニアのヒューマニズム写真の流れを汲む最も重要な継承者のひとりで、年長の同志らが形成した写真様式を独自に発展させました。これまでに17冊の写真集を出版。1975年に東京の第35回サロン・オブ・ジャパン、2002年に東京写真祭に参加。ロムアルダス氏の写真芸術は、東京発のアートジャーナル2003年7月に掲載されています。2003年には、東京のアートギャラリーKIで個展が開かれました。

最後に、歌手で翻訳家のエコツミ氏が、杉浦千畝とヤン・ズヴァルテンディクの善行を描いた『Noble Rogues(気高き無法者)』という興味深い題名の双方向型電子書籍を公開しました。リトアニア人著作家のアグネ・ジャクラカリーテ氏と日本人イラストレーターのイケハタコウヨウ氏と共同制作されたこの本は、イラストで綴られた10代若者向けの探偵物語です。ストーリー展開は読者の選択によって左右され、それが本書との対話的要素をもたらしています。この双方向型電子書籍は、2023年に日本での公開が予定されており、誰でも無料で読むことできます。またエコツミ氏は、本作からの抜粋を熱情込めて朗読しました。

日本神話や民話のシンガーソングライター、パフォーマー、小説家であるエコツミ氏は、早稲田大学卒業、神道文化検定(神社検定)1級(最高)の保有者です。歌と舞を用いて、日本神話に独自の解釈を加えた現代和風歌劇「新訳古事記シリーズ」を展開。2015年以来、ヨーロッパをはじめとした世界各国でコンサートを行っています。また歌手活動の傍らで、日本神話の長編小説も執筆しています。

12月5日から11日にかけて、東京のヒルサイドテラスアネックスA棟でギンタラス・チェソニス氏の写真展「The Modernity of Rare Façades(稀少ファサードにみる近代性)」が開かれました。 

Exhibition “The Modernity of Rare Facades” by Gintaras Česonis ©︎ Tatsuya Yukihira

この写真展は、日本リトアニア友好100周年記念イベント「リトアニアのひととき」の一環で開催されました。この記念行事は現在も開催中です。本展で、リトアニア写真家協会の会長であるチェソニス氏は、リトアニア第二の都市カウナスが臨時首都となった1920年から1930年代の戦間期に建てられたリトアニアのモダニズム建築を撮影した写真を発表しています。本作は、日本での初出展となりました。

本展は、ある意味カウナスの中庭の発想の延長上にあり、鑑賞者にこれらの建物の珍しい外観への関心を促しています。

一週間にわたるこの日本訪問は、参加者に新たな展望をもたらしました。ロムアルダス氏は東京写真美術館と密に連絡を取り合い、同館内の図書館に彼の作品が収蔵される計画が上がっています。ダイヴァ氏は、2023年の「日本文化週間 in カウナス WA」に加わる新たな文化的な人脈を築きました。ギンタラス氏は、今後の可能性として、東京のアートフロントギャラリーより同氏の展覧会への関心が寄せられました。日本を出発する前、私達代表団は簡単な話し合いをしました。ある参加者が、「この視察交流を、一年または数年前にできたら、どんなによかったことか。人々が直接出会うことで、これほど沢山の可能性が生まれるのです。」と述べました。日本滞在中、やや出遅れてしまった感覚が常にありましたが、今回の出会いが別の機会に間に合うことを、代表団一堂嬉しく感じています。