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欧州文化首都における日本関連プログラムを支援しています

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[Vol.86] 西洋音楽と日本音楽の出会い

野崎 剛史

日本クラリネット協会副会長 クラリネット奏者

欧州文化首都の一環として、国際クラリッネトフェスティヴァル「クラリマニア」に参加するためにポーランド・ヴロツワフに向かった。4月も下旬だというのに、ヴロツワフの空港を降り立つと夏物のジャケットでは肌寒いくらいだった。空港で待つこと10分、迎えの車にのってホテルに直行。ヴロツワフはこれで3度目の訪問だ。3年前にこのイヴェントに招かれて、“The Clarinet in Japan”というテーマで講演を行い、日本のオーケストラ、吹奏楽、ジャズなどを通して日本ではクラリネットを吹く人たちがどのくらいいるか、あるいは日本クラリネット協会の活動について、またこの講演のメインである日本のクラリネット作品について音源を聴きながらレクチャーをした。そこで感じたことは、ポーランドでは日本の音楽やその状況などが殆ど知られていないということ、そして若い人たちが日本のクラリネットの作品に耳を傾け、たいへん興味を持ってくれたこと。これがきっかけとなり、芸術監督のJ.ボクン氏から “Japan Day”をやらないかと誘いを受けた。日本で活躍している著名なクラリネット奏者に声をかけたところ幸い9名の奏者とピアニストと小鼓奏者合わせて11人が参加することになった。開催期間が3日間ありそのうちの1日Japan dayが与えられた。

プログラムは殆ど日本の作品に絞り、ランチコンサートは松下 功の「東風」を横田瑤子、寺嶋陸也作曲の武満徹の歌「死んだ男の残したものは」の変奏曲を野崎剛史と寺嶋陸也(ピアノ)の演奏。後半は菅生千穂と中秀仁が加わりクラリネット四重奏で天野正道の「日本の歌のメドレー」と「浜辺の歌」を演奏。聴いていた日本の友人が、何故か涙が出たと言っていた。

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午後は私のレクチャーがあり、主に日本音楽と西欧音楽の融合というテーマで話しを進めていった。その後、日本クラリネット協会のクラリネットアンサンブルの演奏。メンバーは磯部周平、四戸世紀、山本正治、中 秀仁、横田瑤子の5人、トリオ、カルテット、クインテットとそれぞれの音楽を聴いてもらった。シューベルトの「舞曲」、磯部周平の「インテルメッチ」、北爪道夫の「レゾナンス」と続く。北爪の曲はこのフェスティヴァルのために、新しく手直しをしてくれた。小クラリネットによるブラームスの「ヴァイオリンソナタ」これは邦人作品ではないが、菅生千穂が小クラリネットで演奏するという珍しさがあった。ロンドンに住む橋本杏奈のリサイタルは、音楽の表現が素晴らしく、大きな拍手喝采を浴びていた。

夕方からのJapan Gala Evening で満員の聴衆の中で日本の作品が披露された。吉松隆の「鳥の形をした4つの小品」を四戸世紀と寺嶋陸也(ピアノ)、磯部周平の自作自演「メタモルフォーシス」、中秀仁も自作自演「六段の調」を、また寺嶋陸也の「クラリネットと小鼓のための舞IIIa」は山本正治と和服を着た麻生花帆の小鼓が眼をひき華やかにステージを飾った。最後に三善晃の「螺旋状の視界」他、亀井良信が演奏。

2. A.Hashimoto5. Kaho Aso

周知のように日本の伝統的な音楽と西洋の音楽は全く異なっている。明治時代以降ヨーロッパの政治、経済、文化を模倣することから近代の日本は始まった。音楽も然りで、全ての分野で西洋化がどんどん進んでいったが、ある意味で西洋に対するコンプレックスは暫くの間続いていた。否、まだブランド指向的な傾向が残っているかも知れない。模倣から始まった西洋の音楽、美術、建築、文学などその手法やテクニックは多くの芸術家に刺激を与えてきたが、それを消化、吸収して日本独自の想像力と文化を作り上げてきた。

私は音楽学生のころ、日本人がなぜ西洋の音楽をするのかという素朴な疑問をもったことがある。日本人と西洋人が決定的に違うのは宗教によるところが大きい。ここで私が言うまでもなく、ヨーロッパの文化あるいは個人主義を語るときに神、或いはキリストの存在は重要な役割を果たす。この世界では神という唯一の存在を心の支えにして、人間は平等であり同じ兄弟であるという教えの下に、個人を尊重し自己を主張するという考え方がある。この自己主張が芸術の表現力に繋がると思う。また、ヨーロッパは日本のような島国ではなく陸続きの国々で民族の寄り集まりである。国を境に同じ顔をした相手が敵か味方かという厳しい状況を前に自分を主張しないと殺されてしまうかも知れない。私はクラリネットを学ぶために、また、ヨーロッパ人の個人主義を理屈ではなく体で経験したくて、パリに留学した。その国で育った文化というのは、それを実際に経験して初めて肌で感じることができる。しかしそこにはどうすることも出来ない壁があったが、真似事ではなく日本人のもっている感性で精一杯やることが一つの表現になることを確信した。

日本の作品とクラリネット奏者を紹介するというテーマで、ヴロツワフ2016での“Japan day”は大成功のうちに終わった。来場の人たちから、初めて聴く日本の作品に暖かい賞賛の声をいただいた。ポーランドは勿論のこと、アメリカやチェコなど外国の参加者も寄ってきてとても良かった、大変興味ある音楽だと言ってくれた。日本の伝統的な狂言や能、文楽などの現代でも生きている芸能、芸術は視覚的にも直接的にも分かりやすいと思うが、西洋音楽が輸入されて模倣、吸収され消化されて作曲された日本の作品、演奏は西洋人にどう聞こえたでしょうか?私が客席で聴いた演奏と音楽は、日本人の持っている独特の音と豊かな表現力のある素晴らしいものだった。これは私が日本人だからというより、もっとグローバルな視点で感じた感想である。私が講演で話した日本音楽と西洋音楽の融合という日本人の感性は、多くの作曲家が試みてきた課題でもある。その中でも世界的な作曲家、武満徹は稀に見る独特な創意と哲学をもっていた芸術家だと思う。彼の西洋と日本音楽の融合を表現したニューヨーク・フィルハーモニーの委嘱作、琵琶と尺八とオーケストラのための「ノヴェンバー・ステップス」は余りにも有名である。本当の芸術というのは国や民族を超えて誰もが持っている共通の感動にあるのではないだろうか。

欧州文化首都ヴロツワフ2016「クラリマニア」に参加して、多くの人々と出会い、いろいろな音楽を聴き、大変貴重な経験をした。

最後になりましたが、今年の欧州文化首都の助成に対して、改めてEUジャパンフェスト日本委員会の支援に改めて心より感謝申しあげます。

 

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