• shareshare
  • shareshare

欧州文化首都における日本関連プログラムを支援しています

HOME > コラム > アイルランドの沼鉄鉱から日本の玉鋼へ

[Vol.217] アイルランドの沼鉄鉱から日本の玉鋼へ

ポール・ロンドレーズ

ウッドフォード製鉄フェスティバル、イベント主催者

2020年ウッドフォード製鉄フェスティバルに向けた準備は、良好に進展していました。およそ12組もの製鉄職人達がアイルランド産の製鉄に取り組むため再びアイルランドのウッドフォード村へと到来し、鍛冶職人達がその鉄を使い芸術作品や実用品へと変身させる準備を整えているところでした。そして3月になり、すべてが一転しました。新型コロナウィルスが世界に蔓延したのです。イベントは中止となり、隔離規制が敷かれ、フライトはキャンセルとなりました。私達は一体どうしたら良いのでしょうか??? 

もちろん逆転の発想です!製鉄職人がアイルランドに赴いてアイルランド産鉄鉱石を製鉄する代わりに、私達が鉄鉱石を各チームに送り、それぞれの住む場所でそれを用いて安全に製鉄してもらう運びとなったのです。アイルランドの鉄鉱石の形成は非常に歴史が浅いことから、国内に存在する多くの沼鉄鉱の鉱床が現在もなお成長を続けています。

最大の難題となったのが日本人チームで、彼らは最大量となる130キロもの鉄鉱石を要したことに加え、また事情により生中継イベントの数週間前に製鉄が行われることになったのです。そして大惨事が起こりました!私達がかねてから鉄鉱石を採掘させていただいていた敷地の地主から、今後の立ち入りを断られたのです…。慌てて方々に電話で問い合せた末、別の地主からの許可が得られました。しかも自分の土地にある見苦しい「茶色い物体」が日本で高品位鋼に生まれ変わるという話を聞いて、とりわけ困惑していた地主だったのです! 

鉄鉱石は、洗浄と乾燥(アイルランドの気候では容易ではありません)を経て、最終的に村下(むらげ:たたら製鉄操業の技術責任者)である国選定保存技術保持者の木原明氏が営むたたら工場の所在する島根県奥出雲町鳥上地区へと送られました。鉄鉱石は7月17日に受領され、7月31日に村上恭通氏(愛媛大学教授)が車で鳥上地区へと向かいました。製鉄は8月2日日曜日に予定され、村上教授は終了後まもなく、インターネットが非常につながりにくい場所での発掘調査のため、現場を後にしました。

月曜日、火曜日、水曜日が過ぎても音沙汰がありません…。8月6日木曜日になって製鉄の際の写真が一式送られてきたのですが、進捗状況についての知らせはありませんでした。当然のことながら、多孔質のアイルランド産鉄鉱石が、地球上で最も硬質な鉄鉱石を製鉄するために設計された炉でうまくいくわけがない。我々は何を考えていたのか…。

ところがその後しばらくして、それに続くメールが届きました。「ポール様、7時間にわたる操業の末、49キロの鉄鉱石から18キロのケラ(鉧:鉄鋼の塊)が取り出せました。木原村下による伝統製法に則って炉内で生成されたケラは、いったん水に浸され冷却されます。これによりケラが一塊のまま保たれるのです。ブロック状のケラは砕かれ、木原村下がその断面を確認すると、それは日本刀にそのまま使えるほどの美しい鋼だとおっしゃっていました。」やりました!!

その後、さらに他のチームへの鉄鉱石の発送作業に追われ、様々な準備が完了しました。私達の単純な発想が、8月23日の7時間半を予定した生中継イベントへと発展を遂げ、私達は東から西へと地球を旅しながら、日本人チームならびにニュージーランド、シベリアのサハ共和国からの6チーム、ポーランド、ドイツ、フランス、オランダ、ルクセンブルク、スペイン、デンマーク、英国、米国の各チームの映像を披露したのです。

その一方で、日本でのアイルランド産鉄鉱石の製鉄を伝えたフェイスブックの投稿が、リーチ数およそ2万5000人、エンゲージメント数4,950件、「いいね!」の数が184件、シェア数120件というように、私達にとって過去最高の反響を博しました!

日本人チームを含む複数のチームが生中継イベント当日に参加することができず、その代わりに当日のストリーミング用の映像を送ってくれることになりました。そして生中継イベント前日の8月22日に、その映像が届きました…。私は面食らいました。そのクオリティは驚嘆に値するまさしくドキュメンタリー級で、製鉄の全工程のみならず、鉄鉱石の粉砕から、製炭、一からの築炉の作業まで、あらゆる工程が克明に映し出されていたのです。これは極めて重要な歴史資料であり、日本のたたら炉の操業を捉えた最高の記録であるとともに、木原村下からアイルランド産鉄鉱石がどのように異なり、彼が克服しなければならなかった難題や今回のプロセスで得た学びについての解説がなされていました。

そして村上教授が、「最後までご覧になってください。」とおっしゃっていました。映像の最後で、私自身このようなことが行われていたとはつゆ知らずだったのですが、なんと完全に高品位鋼で造られた、日本の歴史的な鉄刀のレプリカが5本も鍛造されていたのです!

それでは、次なるステップは何でしょうか?日本の玉鋼(たまはがね)は伝説的存在で、多数の製鉄職人達が自国の鉄鉱石を使って日本国外でこれに類似した鋼を作ることが可能かについて現在思案しています。まだまだ学ぶべきことたくさんあります。日本の製鉄技法は、知られている限り群を抜く複雑さを極めていますが、私達は日本の製鉄職人チームの皆さんに来年アイルランドにお越しいただき、鉄鉱石のみならず、粘土、木炭、さらには人員も含めて純粋にアイルランドの素材だけを使いながら、その製法の実態をご教授いただきたいと切に望んでいます。

この道のりを可能にしてくださったEU・ジャパンフェスト日本委員会に感謝いたします!

▲Page Top