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[Vol.232] 描く道

まさき まゆこ

あにめのいろは ディレクター

タレントブロッサムは、全ての人に存在する「描く才能」を呼び覚ます体験です。年齢や性別を超え、つながりの中で、ものを見る目と表現する腕を磨き、描く幸せを感じ、ちょっとワクワクして生きる体験を共有するために、四国の西南端の大月町で2019年にはじまりました。

 

「大月町でドローイング講座を開こう」と話を持ちかけてきたのは、アニメーション教育において高い評価を受けるデンマークのThe Animation Workshop(TAW)において、The Drawing academy(TDA)を創設した画家のアルチョム・アレクシーヴでした。彼は2018年、3ヶ月ほど大月町に滞在して100号の油絵を10枚描き、その過程の中で大月をとても気に入り、そのアイデアを話してくれました。私は、彼と交わした会話から「描く」という行為の哲学的な側面に興味を抱き、また、町の環境との相性も抜群にいいと思っていたので、そのアイデアを歓迎しました。こうして、人口が5千人に満たない小さな町で、描画の基礎、静物、人物画をTDAから招いた講師に習う3泊4日の合宿が開かれました。段々畑と彩り豊かな山の緑、ソーダ水のようにすきとおる海に囲まれた自遊学校という宿、鳥や虫の声、清らかな空気、元気が出る食べもの、質の高い芸術教育、描くことに没頭する時間、すべてがひとつになった特別な体験でした。

 

今年は、昨年よりもゆっくりと時間を過ごしてほしいと、日程を1日のばした合宿と、ポートフォリオづくりのふたつのプロジェクトを実施しようと考えていましたが、世界中で往来が断たれた状態がいつまでも続いており、講師を招かずに、オンラインで開催することを計画しました。

 

はじめは、TAWの推薦したメス・ピーターを講師に迎えて準備をはじめていました。彼が提案してくれたのは、自画像を描く際に自身を見つめることで心のあり様を分析し、描くことを通じて自分のあり様を肯定できるようなプログラムでした。しかし、彼の労働環境が急激に変化したことなどから時間の工面が困難になり、実際の講師を務めるに至りませんでした。

 

アルチョムに相談すると、イラストレーターのアゲリキー・イヨクが推薦されました。彼女はマンガやアニメをはじめとする日本の文化、言語にまでも親しんでおり、コミュニケーションに花が咲き、初心者からドローイング経験者まで同様に楽しんでもらえるようなプログラムづくりに積極的に関わってくれました。特に、彼女は既に個人でオンラインのラインアートとカラーパレットの講座を企画していたので、仮想空間を十分に生かせるアイデアをいくつも与えてくれました。

 

Webの世界に環境を移したことで、初めての試みとして、3-DAYと1-DAYのふたつのプログラムを考えました。機材、環境、プログラムの進行、役割分担、体験の感触、それらを確かめておくために、3-DAYプログラムのトライアルを行いました。みんながストレスを感じないような運営の流れを掴み、プログラムの内容も大きく見直して本番を迎えました。

3-DAYプログラムでは、私たちは3週間かけて、毎週日曜日の午後に同じ時間を過ごしました。初回の前や各回の間には、個人に合わせた課題に取り組んでもらい、講師からのフィードバックをもらうことで、体験のさらなる充実を図りました。最終日に実施した、ひとりひとりにインタビューしながらお互いを描くプログラムは、自画像を美しく仕上げる技よりも、素早く特徴を捉えるという表現の価値をゲーム感覚で楽しめるので、この体験がうまれたことが主催者としての喜びにつながっています。参加者同士の体験の共有がより高まるのを感じ、締めくくりにふさわしいプログラムだと感じました。

 

今回実施して本当に良かったなぁと思うのは、地元の中学生が受講してくれたことです。彼女の話では、学校には彼女よりも上手に絵を描ける人がいるといいます。でも、マンガが大好きだから、絵がもっとうまく描けるようになりたい、と勇気を出して来てくれました。彼女は3日間のプログラムで、誰の目にも明らかなほどの上達を遂げました。お母さんによれば、いつも口数の少ない彼女が、帰りの車の中で話が止まらず、夜あまり眠れなくなるほど描くことに魅了されていたそうです。「いつも宿題をほったらかすのに、課題の連絡がまだ来ていないか確認を催促され驚いている」と教えてくれました。願っていた以上のことがこの町で起こり、うれしさで満たされました。

1日目の講座を終えた彼女の目には、宇宙まで照らす光が輝いていました。はじめて、描く行為から喜びを感じられたからではないかと思います。体験をともにすることは旅と同じように感じます。旅をして、出会い、一緒に描く中で生まれた彼女の光は、私の心も明るく照らしてくれます。

 

1-DAYは、Wi-Fi環境が不安定だったために滑らかに進みませんでしたが、サテライト会場には、70代と10代の女性が並んでいました。目をつぶり、自分の顔を触りながら自画像を描く演習では、普段は使わない感覚の使い方、ものを描く手がかりを知ることを楽しみながら腕を磨きました。

 

開催にあたり、大月町役場がWi-Fi環境と接続機器を無償で用意してくれ、サテライト会場を設けることができました。オンライン・コミュニケーションの様子を大月町役場で公開できたので、海外とつながることがいかに容易か、タレントブロッサムではどのようなことが起きているのかを伝えることもできました。

 

世界と地域がアートでつながって、ワクワクが広がっています。大月町では、私たちの交流がきっかけとなって、アートセンターが設立されようとしています。これからはさらなるオンライン講座の開催に加え、講師を大月町に呼んでの合宿も開きたいと考えています。

 

芸術は可能性をうみ、技術がみのらせます。この体験を環境にあわせた形に変えながら、まだまだ私たちの周りに眠っているたくさんの才能を見つけていきたいと思います。

 

 

 

 

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