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[Vol.238] 物理的制約を超克する

ネリ・ミッテワ

IVAN ASEN 22芸術監督

パンデミックによってもたらされた身体的距離の時世において、芸術やデザインは、こうした孤立状態に相対し、人々の心をひとつにする可能性を秘めています。

欧州文化首都プロヴディフ2019の主要イベントのひとつとなった私達のプロジェクト「+7 HOURS」は、日本人とブルガリア人のデザイナーおよびアーティストが織り成す深遠かつ有意義な創造的コラボレーションとなりました。その第一弾となった「+7 HOURS」展は、伝統的な日本の着物と、ブルガリア人デザイナーならびに文化学園大学の日本人学生らの制作による着物の現代的解釈から生まれたコンセプチュアルファッション作品、そして女優イルメナ・チチコヴァ氏を主演に起用し、日本人作家がブルガリア人の仲間達とともに撮影を行い、日本人ミュージシャンによる楽曲が添えられた映画で構成され、欧州文化首都プロヴディフ2019の日本文化に焦点を当てた公式プログラムの一環として披露されました。受賞歴を誇るコンセプチュアルファッションのデザイン衣装とファッション映画「+7 HOURS」はいずれも、プロの作家同士の文化的邂逅と有意義な交流に基づいて実現した真のブルガリア人と日本人のコラボレーションといえます。この映画の大部分が東京で撮影されました。この映画において最も重要なクレジットの一部は、小林綾子氏、水野亮平氏(カメラ、映像)、上本巨志氏(作曲)に帰属します。東京の文化学園大学で服装デザインを学ぶ四名の日本の学生、須藤真愛さん、尾久樹さん、川部竜雅さん、周予誠さんは、デザイナーチームに参加しました。

 

コンセプチュアル・デザイナーズのプラットフォームであり、現代デザイナーの発表の場および支援のための基盤である「IVAN ASEN 22」は、2007年にファッションデザイナーのネリ・ミッテワによりブルガリアのソフィアで創設されました。これはデザイナーによるコンセプトの創案、発展、発表のための他に類を見ないイニシアチブとして、専門教育を受けた新世代の若手ファッションデザイナーを巻き込み、コンセプチュアルデザイナーズのプロジェクトの数々に参加してもらうというものです。 

過去二年にわたり、ターゲット層に到達するにあたっての主な問題が、助成金の欠如あるいは不足と、さまざまなプログラムで応募可能な助成金額に限りがあったことに関連していました。私達のプロジェクトでは、しばしば海外からの参加者が関与し、また日本や南アフリカといった他の大陸の国々で開催される展覧会やフェスティバルへの訪問に招待されることから、私達は主に民間のスポンサー企業あるいは国外機関からの資金援助を頼ることができました。しかし残念なことに、世界的パンデミックにより引き起こされた現在の状況において、多数の民間スポンサーが、マーケティング予算の削減を理由に芸術プロジェクト支援から撤退してしまったのです。プラス面としては、国家機関の活性化で、文化省のような極めて重要な機関が予算を増強したことです。移動が制限されていることにより、プロジェクトや展覧会に物理的に来場することが不可能な状況となっています。

そこで解決の糸口となったのが、3Dデジタル化した展示作品を披露するモバイルアプリケーション「コンセプチュアルデザイナーズ・ガーメンツ」の制作でした。 

作品コレクションのうちの20点のファッション衣服をデジタル化するプロセスの最初のステップは、撮影から始まりました。モデルごとに8ヵ所の異なる位置から衣服の写真撮影を行い、さまざまな角度から衣服のあらゆるディテールを捉えました。その後、元の写真から背景をていねいに取り除き、透明にしました。さらに360度の全体像を実現するため、各モデルの連続画像がループ動画に変換されました。 

このアプリでは、これらのモデルの動画を使用し、利用者のスマートフォンのライブカメラフィードに重ね合わせます。画面上に現れるモデルのビジュアライゼーションは、ギャラリーあるいは市内各地の実空間に設置されたQRコード形式の案内板に反応して作動します。

このプロセスのなかで、私達はさまざまな試練に遭遇しました。それはいかにベストなかたちでこの複雑なオートクチュールの構造や衣服の持つ特徴を極めて高い精度で描き出しながら、この新しいデジタル化した身体が身に纏ったときに、衣服の放つ鮮烈なエネルギーを活き活きと保てるかという問題に関わるものでした。

私達は、女優イルメナ・チチコヴァ氏がソフィア市内各地の野外ロケーションを舞台に、タブレットを用いて自らのデジタル版の「もう一人の自分」を創り出す光景を紹介した映像を通じて、このアプリの機能の実演を行いました。(https://vimeo.com/577545617)

私達は、展覧会作品のデジタル化とモバイルアプリケーションの開発を通じて、物理的制約から自立し、現代技術の視覚的言語でコミュニケーションをとる国際的な観客を新たに獲得しました。

観客がその場に実在しなくても、展覧会の作品をその3D版という形式で披露することが可能になったことにより、物理的制約が超克され、私達のコンセプチュアルファッション芸術への捉えられ方や消費のされ方が変容し、新たな次元へと達したのです。

本プロジェクトの今後の計画としては、2019年の欧州文化首都開催地であるプロヴディフで展開される特殊な屋外サイトスペシフィックコンセプトでの本アプリのプレゼンテーションのほか、文化学園大学の展示ホールで開催される大規模な展覧会でのアプリの導入が、ファッションデザイナーによるオリジナル作品の展示と映画の上映と並行して実施される予定です。

国際的な仲間達と協働するブルガリア人アーティストとして、デジタル手法を巧みに利用し、新たなアプローチや知識、スキルを駆使しながら、私達はこれまでの経験や技量をアップグレードするに至りました。このようなかたちで自分達のプロジェクトの国際的認知度を高めることにより、私達は新たな人脈や新パートナーシップに辿り着くことができ、また私達の創造活動に参加する国内外の新しい人材を呼び込むことが可能となるのです。

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