コラム
Column光のささやき: 平和を紡ぐパフォーマンスin 広島
2022年末、私たち日本のアートコレクティブはセルビアのノヴィ・サドに作品を送り、“メトロプレックス2022.2122”に参加しました。そこで私たちは、物理的な領域とデジタルの領域を融合させたAR(拡張現実)作品を提供し、バーチャルカルチャーセンターに於いて発表しました。伝統的な展示物が重層的なデジタル体験へと変化していく革新的な空間で、観客が私たちの作品に接するのを見るのは胸が躍りました。こうした初期の交流が、野心的で感情に響く今年のプロジェクトの舞台を整えたと言えます。また、昨年は、“メトロプレックス2023.2122”でも、私たちアートコレクティブは日本とセルビアの芸術的な絆を大きく深めました。セルビアのアーティスト、デヤン・イリッチ氏とマルコ・ヨイッチ氏が、EU・ジャパンフェストによるリサーチのため日本を訪れたことから始まったそのプロジェクトのエネルギーを、私は今でも鮮明に覚えています。この来日の際に私たちの交流が真に深まったのです。
2024年8月2日、本プロジェクトは長者町コットンビルで行われた公開リハーサルから始まりました。密接した空間が、詩、音、映像を継ぎ目なく対話させ、交錯させることでさらに緊張感を高めました。沖啓介氏の作り出すサウンドスケープ(音風景)とイリッチ氏のデジタル映像が重層的で没入感のある体験を作り出すなか、村田仁氏の詩が朗読されました。このリハーサルは、私たちの芸術的な統合を試すもので、これから起こることを力強く紹介するものとなりました。
2024年8月6日、私たちの努力は、旧日本銀行広島支店で最高潮に達しました。その建物は、長い年月の間にその壁の中で繰り広げられた出来事を静かに見守り、まるでタイムマシーンのように私たちの前に立ちはだかっていました。3日間に渡り、多くの作品が展示され、活気あるパフォーマンスや賑やかな雰囲気に包まれていたにもかかわらず、その空間は私たちを静かに包み込み、地に足の着いた存在感を与えてくれたのでした。
パフォーマンスは、鈴木淳子氏が床に横たわり、脆弱性を示すジェスチャーで幕を開けました。徐々に、沖啓介氏のサウンドスケープと村田仁氏の詩が絡み合い、重層的で没入感のある体験を作り出しました。そして、デヤン・イリッチ氏の映像が、これらの動きと音に呼応し、ステージを挟む2つの大型スクリーンに投影されました。彼の作品には、岡川卓詩氏が撮影した被爆樹木の映像や、私が撮影した日本人の手のスローモーション映像が組み込まれ、視覚的な物語にさらなる深みを与えていました。ノヴィ・サド出身の演出家で女優のタティヤナ・マテシャ氏が、コンセプト・アイデアの開発に協力しました。
歴史の証人として、私、山田亘はフィルムカメラを持って儀式的に空間を移動し、出演者、詩人、そして全体の雰囲気を撮影しました。私はステージから客席まで目的を持って、視覚的な証言として写真を撮りながら歩きました。シャッター音はマイクで拾われ、観客の目撃行為を補強する聴覚的な層を作り出したのです。

鈴木淳子氏は、象徴的に両腕を包み込み、敵意を解除することで、観客ひとりひとりに思いやりと静かな抵抗を伝える“Nonviolent Hugs (平和な抱擁)”を捧げました。一方、デヤン氏のメタヒューマン、デジタルアバターは、詩人の村田氏の口の動きを鏡のように映し出し、その言葉を諷誦することで、有機的なものと仮想的なものを橋渡ししました。村田氏の詩は長い巻物に記されていて、村田氏はそれを何度も広げては声に出して読み、その声は空間に響き渡りました。鈴木氏も村田氏も私も裸足になり、脆弱性をさらけ出しながら、パフォーマンスにおけるそれぞれの役割を表現しました。沖啓介氏は、そのサウンドスケープに抵抗と反戦への強い意識を吹き込みました。そして彼は、詩、動き、映像の要素を見事に織り交ぜ、時にはそれらを継ぎ目なくつなぎ合わせ、他の要素との即興の対話を生み出しました。このアンサンブルは頂点と静止の瞬間を繰り返しながら30分間繰り広げられ、参加者はそれぞれ直感的に反応し、ダイナミックで有機的なリズムを生み出し、それは徐々に共鳴的な結末へと導かれていったのです。
パフォーマンスは、アーティストと観客、そして空間そのものとの深遠なつながりによって締めくくられました。特に印象的だったのは、日本の青少年合唱団と共に以前ノヴィ・サドでのアートイベントでの招聘公演を行った島本裕充氏との再会でした。その公演もEU・ジャパンフェスト日本委員会の支援を受けて実施されたプロジェクトで、ステージ上の島本氏はセルビアの観客を包み込み、地域社会の深く永続的な絆を象徴していたのでした。
パフォーマンスの後、私たちは灯篭流しに招待されました。それぞれの平和への祈りが込められた灯籠が静かに流れ、深い瞑想的な雰囲気に包まれました。セルビアの仲間たちが、この静かでありながら奥深い儀式に目に見えて感動している様子を見て、私は平和という普遍的な言葉、そして共有する体験の力を思い起こしたのです。
本プロジェクトは思いがけない形で続きました。2週間後、沖氏とイリッチ氏は東京の高円寺で再び共演し、小さなライブハウスで即興演奏を披露したのです。この共演が、親密で力強い雰囲気の中で展開されるのを観客の一人として目撃し、私は今年のプロジェクトの最終章の幕が閉じる感覚を覚えました。

本プロジェクトは、EU・ジャパンフェスト日本委員会の揺るぎない支援なしには実現しなかったでしょう。彼らの文化交流の涵養・育成に対する献身的な努力は、私たちに国境を越えて意義ある芸術を創造するためのプラットフォームを提供してくれました。本プロジェクトをより豊かなものとし、日本とセルビアの草の根のつながりをより強固なものにしてくれた彼らの貢献に深く感謝しています。
私たちがこれらのコラボレーションを通じて築いた絆は、今後も、対話、考察、芸術的交流に取り組む次世代に刺激を与えながら、さらに成長し続けていくと信じています。“メトロプレックス2024.2122”のようなプロジェクトは、アートが架け橋となり、理解をはぐくみ、最終的には私たちを平和という共通のビジョンに近づける、その変革的な力を私たちに思い起こさせてくれるのです。