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[Vol.106] バックグラウンドを超えた出会いを ー Atelier Vallettaに参加して

松本ひとみ

P3 art and environment プロジェクト・マネージャー

 マルタ共和国の首都・ヴァレッタで開催された「Atelier Valletta」に参加した。若手フェスティバル制作者のためのプログラムで、20ヶ国から34人の参加者が集い、2019年3月の一週間をともに過ごした。

 私は、業務の一環として、現代美術を扱う国際芸術祭のプログラム・コーディネーターや、マネージャーを務めることがある。主催者である地方自治体や、様々なステークホルダーとの協働を進める中で、しばしば悩みや課題に直面する。近年では制作者のネットワーキングや、アーツカウンシルなどの中間支援組織による取り組みのおかげで、国内の同業者と情報や課題をシェアする機会が増えているが、より広範な目線で芸術祭の意義・目的を議論する必要があるとも感じている。欧州において、同業者が、とくに同世代の皆んなが、今まさにどのような課題に直面し、向き合っているのかを知りたいと思い、参加を決めた。

 ©Sebio Aquilino

 7日間のプログラムは、盛りだくさんの内容だった。参加者全員による各フェスティバルのプレゼンテーション、フェスティバルを実施する上で考慮すべき様々なトピックについての議論、ワーキング・グループによる発表、幾つかの文化スポットへの訪問、などで構成されていた。印象的だったのは、一方向の講義形式はほぼ無く、メンターでありファシリテーターのマイクさんの差配のもと、参加者の積極的な発言と、参加者同士のコミュニケーションにほとんどの時間が割かれていたことだった。
 また、今回は地元団体「Festivals Malta」とのパートナーシップのもとで実施されていて、マルタ側の受け入れ役として、会場手配や移動の細かい調整を彼らが担ってくれただけでなく、私達と同じ参加者として行動を共にしたので、折々で彼らの仕事についても話を聞くことができた。彼らは1年間に6つものフェスティバルを実施しているが、フルタイムのスタッフ達は複数のフェスティバルを兼任しているので、一緒に過ごす時間が長く、チームの結束の強さが伺い知れた。

 参加者は、国やバックグラウンドはもちろん、フェスティバルの性質が多岐に渡っていた。分野は演劇、ダンス、音楽、それらの複合体が大多数であった。大学主催のアウトリーチ事業もあったし、いくつかはLGBTや特定の政治状況に対するアクションとして実施されていた。置かれている状況は異なるが、共有できる悩みはいくつもあった。最たるトピックは資金調達。一見、アウトプットが華やかなフェスティバルでも、毎回苦労しているという話を聞いて驚いたり、クラウドファンディングが主である事例を聞いたりした。また、来場者からのフィードバックをいかにたくさん得るかというテーマでは、アンケートの簡素化やツール開発の話を出し合ったりした。より現場に近い話題としては、音楽フェスティバルでいかに来場者にゴミの分別を行ってもらうか、という悩みで、デザインの工夫によって楽しみながら分別を行う仕掛けを発案した話が出た。このように、バックグラウンドを越えて、試行錯誤と具体的な解決策をシェアし合えたのは、大変有意義であった。

 ©Sebio Aquilino

 一方で、欧州圏と、アジア圏や日本では、フェスティバルの置かれている状況に違いがあることを肌身に感じる機会でもあった。Atelier Vallettaにおいては、フェスティバルは社会課題に対するアクションである、という前提がある。今回は、気候変動や難民・移民問題、環境問題、社会包摂などが扱うべき課題として挙げられていた。欧州においては、文化フェスティバルは他の社会的要素と同等に、社会の中で果たすべき役割を持っていて、文化だからこそ言及できるテーマがあり、手法があることが、共通認識となっていると感じる。
 日本では、芸術祭が博覧会の系譜と見做されて集客そのものが目的とされるか、観光や地域経済への貢献が主たる指標として掲げられることが多く、今この場所で芸術祭を行う意味とはなにか、そのためにどのようなあり方が望ましいのか、ということを議論する機会がもっと増えても良いように思われる。
 今回、アジアからは、韓国、シンガポール、タイからの参加者がいたので、彼らとはこのような感想を共有し、議論が深まった。

 2020年を間近に控え、様々な文化イベントが行われていくこのタイミングで、アジアにおける日本、欧州とアジア、欧州と日本、という複層的な視点をもって、自らの置かれている状況を見直したことは、とても重要な経験だった。

 これらの経験を持ち帰り、自分が携わる現場でも生かしていくとともに、今度は私自身もネットワーキングに貢献できたらと考えている。日本の若いアーティストに興味を持っているプログラマーから問い合わせを受けたり、フェスティバルを訪問する計画を立てたりなど、今後につながる芽がすでに生まれている。本プログラムは今後も世界各所で実施されていくので、より多くの方にチャレンジしてほしい。きっと、自身の中に新たなものさしを加える機会になることと思う。

 最後に、このプログラムのために尽力されたThe Festival Academy、Festivals Maltaとすべての方々に、そして今回参加するチャンスをくださったEU・ジャパンフェストの皆さまに、心より感謝を申し上げます。

 ©Sebio Aquilino

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