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[Vol.228] 『Diorama Map』展、ゲッチョ・フォト2020にて

ヨーキン・アスプル

ディレクター

ゲッチョ・フォトは、Begihandi collective主催による写真を専門とするフェスティバルで、9月にビルバオから程近いバスク地方沿岸に位置するゲッチョを舞台に開催されました。ゲッチョ・フォトは、世界各国の写真家やヴィジュアルストーリーテラーから寄せられた様々なプロポーザルを一堂に集め、毎年提案されたテーマを取り巻く現代ならではの話し合いの場を設けています。本フェスティバルは、批判的思考に働きかけ、かつ活性化を促すメディア横断的プラットフォームとして着想されました。その主なるねらいは、発足当初から依然として変わることなく、精力的な国際的プログラムの展開を通じて、私達市民に影響する公的関心の対象となる事柄について対話を提起し、都市空間を文化的利用の場として復活させたり、あるいは従来とは異なる斬新な形態、サポート、展示空間への探究を深めることにあります。  

©Juan Gómez

展覧会のほとんどが野外インスタレーションとして企画され、写真作品と環境が織り成す対話に脚光を当てるとともに、その一方で、本フェスティバルでは、インスタグラム・フィルター、ポッドキャスト、プレイリスト、あるいはパフォーマンスといった、インターネット仕様のプログラム展開を行うことで、デジタル空間にも飛び込んでいます。ゲッチョ・フォトは、写真、映像、アーカイヴ、インスタレーション、VR、デジタルアートなど様々なメディアを駆使した視覚表現を選出し、領域横断的ナラティブを紡ぎ出す異なる背景を持つアーティスト達による作品を紹介しています。店舗経営者、バーやカフェ、アマチュア写真家といった地元住民の直接的な参画と並行して、40ヶ国を超えるアーティストからの国際公募への応募作品により、ゲッチョ・フォトは年を重ねるごとに拡大を続け、カンファレンス、スピーチ、上映会、ラボ、ナイトウォーク、市街地と海岸の両方を周遊する各種ツアーなど、多様な観客に向けて考案されたアクティビティを盛り込んだ大規模なプログラムをご用意しています。

創設から14年ものあいだ、200名を超える世界に名だたる作家が参加し、その多くが評論家から高い評価を得ています。本フェスティバルはほとんどが入場無料で、集いの場そして国内外のプラットフォームとして構築され、各機関、アーティスト、来場者で成る、経験と知識の交換のためのネットワークづくりを行って参りました。 

©Juan Gómez

今回の開催では、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーでデジタル・キュレーターを務めるジョン・ウリアルテ氏を迎え、本フェスティバルの芸術監督を手掛けていただき、今年のテーマは「To The Street!」に決定しました。こうしてゲッチョ・フォトは、対話、抗議のためのバージョンアップした環境として、出会いや相互認識の場として、さらには実験、遊び、祝祭のためのグラウンドとしての公共空間の探究にアプローチを行ったのです。

プログラムは例年と同様に、展覧会とアクティビティの大きく分けてふたつの分野で構成され、今年は目新しい点としては、オンラインプログラムが加わりました。展覧会に関して述べますと、ゲッチョ・フォトは以前にも増して公共空間の活用に重点を置き、ほぼすべての展示がストリート、つまり屋外での企画となりました。

本フェスティバルは、展覧会、世界各国のアーティストに門戸を開く国際公募、教育プログラムの一環のラボ、デジタルプログラム、文化的エコシステムの強化を促す文化エージェントおよび機関との協働、写真作品および専門領域についての考察のための共有空間としての会合、あるいは参加型プログラムの一環として実施する多彩なアクティビティなどを擁するひとつのプラットフォームとして構成されています。

またゲッチョ・フォトは、よりハイブリッドなフェスティバルを目指しており、写真展の開催に加え、映像、インスタレーション、映画館、バーチャルリアリティやデジタルアートなどにも活動の場があります。さらに本フェスティバルが、より持続可能な催しとなることを願っています。内部の見直しを機に、開催によって生じ兼ねない環境インパクトの低減のための手引きとなる、持続可能化計画の作成に取り組みました。

これにより、今回は、明らかにこれまでで最も趣向の異なる開催となりました。それにもかかわらず、すべての展覧会とアクティビティについて開催期間中にいただいた評価や支持の声に、私達は非常に満足しています。先行き不透明な現時点において、文化こそが必要不可欠であるという確信を胸に、私達は2021年9月2日から26日に予定される次回の開催に向けて取りかかっているところです。

©Juan Gómez

西野壮平氏の「Diorama Map展」を代表してお伝えしますと、本展は、フェスティバルに来場した一般客より素晴らしい反響をいただきました。略歴になりますが、西野壮平氏は1982年生まれの日本人アーティストで、その作品はサンフランシスコ近代美術館やアイルランド写真美術館をはじめとしたギャラリーや美術館での多数の展覧会で取り上げられたほか、韓国の大邱写真ビエンナーレ、香港国際アートフェア、ソウル・フォト、東京都写真美術館、サンフランシスコ近代美術館などでのグループ展や個展で展示を行った経歴をお持ちです。シリーズ作『Diorama Map』では、西野壮平氏がカメラを片手に世界各地の都市の街路を歩き、時には鳥瞰的に、あるいは路上からの視点から断片的な風景を写真に捉えます。その後それらの写真をプリントし、一枚一枚手作業で貼り合わせ、自らの記憶や場所の記録をたどりながら、壮大な地図を構築していきます。その結果生まれたコラージュは、地図本来の説明的な目的からは全くかけ離れた目標を追求しています。それはすなわち、作家が街を歩いた際に得た自らの経験とカメラが捉えたものに基づいた、表情豊かな都市の表現を呈しているのです。反復と対峙が、西野氏の制作プロセスの根本的要素を成しています。社会経済の発展が都市の際限のない拡大、成長の引き金となり、形状や建造物を造り出し、作家はその絶え間ない繰り返しを強調あるいは変容することにより、その増幅に呼応しています。そしてそれを繋ぎ合わせる過程で、経験と記憶を通じて、アーティストの都市観を表現する単体としての要素において、撮りためた断片的な画像の意味が完成し、一体となるのです。

本フェスティバルの主なアイデンティティの象徴のひとつに、出会い、楽しみ、内省の場としての公共空間の断固たる擁護が挙げられます。このことから、西野壮平氏のコラージュ作品は、アルゴルタ市場に特設された展示会場で屋内展覧会として披露されました。場所独特の特徴とゲッチョの市街中心部の程近くといった、インスタレーション作品の戦略的立地条件も相俟って、この作品は本フェスティバルにおいて最大の絶賛を浴びました。推定およそ1万人もの人々がこの市場とレストラン・テリャゴリを訪れ、本イベントが誇る最も特別な展覧会のひとつを満喫しました。

©Juan Gómez

観客のリアクションについてになりますが、本展を訪れた方々のほとんどが、精緻を極めた驚異的なこの作品をじっくりと鑑賞できたことから、驚きと称賛の反応が窺えました。また、作品の前で歩いたり動き回ったりすることが可能だったことにより、これらの写真をよりダイナミックに感じていただくことができました。これらの巨大な地図は、何万枚もの断片で構成されているため、このコラージュ作品は、来場者が作品に対してとる距離によって異なって見えました。つまり遠目あるいは間近で見るのでは、まるで違った見え方となっていたのです。総じて、一般客そして報道機関ともに、寄せられたすべてのコメントに賛辞が述べられていました。

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