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[Vol.71] アート – 問うものと問われるもの

第23回EU・ジャパンフェスト
ギャラリーTHE ROOM BELOW
ストックホルム スーパーマーケット・アートフェア参加

村住 知也

THE ROOM BELOW

Exterior view of venue

会場の外観

人生の中で困難な状況に身を置かざるを得なくなったとき、例えば事故による身体的障害やストレスから発する精神的苦しみを負い、日常生活に直視しがたい大きな変化がもたらされたとき、人はふとして創造的な活動を始めることがある。たとえそれが過去今までやったことのないものだったとしても、誰かから指導を受けたりはしない。この創作は純粋に自分自身の生と向き合う行為であるために人の目に触れることを想定する必要がないからだ。自身の内側から湧きあがる衝動にのみ駆られたこの表現は私達が知っているアートとは違い、独自な美意識をもって異彩を放っている。私たちはこれらをアールブリュット、アウトサイダーアート、セルフトートアートなどと呼んでいる。日本美術史において彼らの作品が研究され、評価を受け始めたのは近代になってからでまだ歴史は浅い。西洋美術史のなかでもこれらの作品をどのように区分すべきか長い間議論が続けられてきたが、2013年、アートの世界的祭典であるベネチアビエンナーレで現代美術と同列に紹介する画期的な展示が行われセンセーショナルを巻き起こした。この潮流に勇気づけられ、障害を抱えながら制作を続けているアーティストたちを2006年からサポートしてきた私たちTHE ROOM BELOWは、現代美術を紹介する国際的なイベントSupermarket Art Fair 2015に出展することにした。参加の目的としたのは、アートと、アウトサイダーと呼ばれてきた創作物の概念がどのよう違うのか、またどの点について同じなのかを多くのアーティスト達との交流の中から考察する機会を得るためであった。アカデミックなアートだけに限らず、長く美術制度の外に置かれてきたが非西洋文化圏のアート、そして社会的マイノリティのアートもが現代美術作品として発表される本アートフェアで、私たちは有意義なプレゼンテーションを行った。世界中から集まったアーティスト達との建設的な対話を継続、発展させるために国際的ネットワークを構築し持ち帰れたのは意味あることであった。

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オープニングの様子

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展示風景

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The Room Below 展示ブースの風景

このアートフェアはアーティストが自主運営する組織やギャラリー、非営利の美術団体に限られて開かれており、それが理由で商業ギャラリーでは紹介されにくい実験的な作品を多く見ることができる。出展者は会期中に開かれるパネルディスカッションやディベートへの参加を通して積極的な意見交換を行うのだが、私たちの参加した会ではそれぞれが活動資金をどのように得ているかについて関心が集まり、ディスカッションに多くの時間が費やされた。なぜなら以上で述べたように作品の性質上、活動資金を作品の販売に期待することは難しく他の方法で見つけなくてはいけないからだ。興味深いのはお金の話を突き詰めていくとその国の文化政策とともに政治的背景も見えてくることだった。活動資金を公的機関からの助成金に頼ることができる国もあれば、支援体制が十分整っていない国も当然ある。現代美術そのものが芸術として認められにくい環境にあるだけではなく、反社会的な要因としてアーティストが抑圧されている国があることも知った。アートフェアで出会ったアーティストの多くは、画壇で評価を受けることではなく、社会に提示しなくてはいけない何かの為に制作をし、発表するためのスペースを維持し続けているようだった。今年のアートフェアは昨年と比べてより多くの国々からの参加があったが、とくにウクライナ、ロシア、シリア、パレスチナ、エジプトなど深刻な社会不安を抱える国々からの出展に注目が集まった。その多くがやはり政治的テーマを扱い、作品は来場者に強烈なメッセージを投げかけていた。「皆が知る真実は権力者たちに追従して作られている。権力をもたない弱い立場にいる人たちの真実を私たちの作品を通して知ってもらいたい」と語る彼らの姿勢には、ジャーナリストとは違う視点に立脚したアーティストとしての役割や責任を果たそうとする力強さ、そして隠された真実を伝えようとしないメディアに対する批判が感じられた。会期中開かれたシンポジウムでは「抵抗としてのアート」というテーマで各国のギャラリスト、アーティストが意見を交わし、性差、教育、経済、文化的背景など多面的な切り口で議論を重ねた。すなわちこのアートフェアは既存のアート文脈や価値に身を置かず「アートとはなにか?」を根本から問い直す試みであった。アートに言葉はいらないと言われるが、ここでは積極的な言葉なくしてアートは成り立たないという雰囲気に満ちていた。

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パフォーマンス風景

このたびの国際的なアートフェアへの参加を経験して感じたのは、文化交流が必ずしも自分たちが持つ独自のナショナリズムや伝統、習慣を紹介し合うだけではないということだ。私たちは否応無しに他人の問題が自分の問題になりうるグローバリゼーションの時代を生きている。地理的国境を越え、同時代性を意識した意見交換こそ現代の文化交流と言えるのではないだろうか。私たちはアートに問われる期待と責任を感じるだけではなく、多くのアーティストたちと国際的なネットワークを築けたことの成果から、私たちの活動は今後力強く発展していくだろう。

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