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欧州文化首都における日本関連プログラムを支援しています

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[Vol.7] 選び、交わり、見る  -日欧写真分野学芸員交流事業に参加して

写真プロジェクト「日本に向けられたヨーロッパ人の眼/ジャパントゥデイ vol.6」作品選考会を兼ねて2003年12月に日欧写真分野学芸員交流事業を行いました。参加学芸員おふたりからの報告です。

奥村 泰彦

和歌山県立近代美術館 学芸員

はじめに

 ヨーロッパの写真家の眼を通して、日本の現在を紹介する展覧会「日本に向けられたヨーロッパ人の眼 ジャパントゥデイ」の第6回にあたり、仙台市、奈良県、和歌山県が撮影地として選ばれた。これに関連して、作品の選考会に参加し、写真に関連する美術館施設を中心に交流と視察の機会をいただいた。以下、簡単にその内容を報告したい。

 

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虚実いりみだれる 仙台の姿 ~マチュウ・ベルナール=レイモン

2004年の欧州文化首都はフランスのリールとイタリアのジェノヴァである。選考会はリールで行われたのだが、日本を撮影した4人のうち、2人は都合がつ かないとのこと。そのため、まず12月8日(月)、ジュネーヴにおいてマチュウ・ベルナール=レイモン氏の作品選考会が行われた。選考に当たったのは菊田 樹子氏、小寺規古氏、清水有氏(せんだいメディアテーク学芸員)並びに筆者の4名。マチュウ氏の作品は、同一の場所を撮影した複数の光景をコンピュータに 取り込み、対象を加えたり消したりすることによって、一見何の変哲もない画面に不自然さを漂わせるものである。瞬間の記録としての写真の特性を揺るがし、 古典的な異時同図法による物語性を導入する手法とも見えた。相当数の作品を準備してくれており、それを20数点まで絞り込む作業は一筋縄ではいかないものであった。

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左より仙台撮影写真家マチュウ、菊田アーティスティックディレクター、筆者

リールでの会議は12月10日(水)。「欧州文化首都2004リール」が開幕したばかりで、慌ただしい雰囲気の漂う事務局の一角において、奈良県を撮影したユギュ・フォンテーヌ氏と、仙台市、奈良県、和歌山県を撮影したベルト・テウニッセン氏の作品を選考した。ここでは先の4名に加え、欧州側のアーティスティックディレクターであるキャロリーヌ・ダヴィッド氏が加わった。

にほんの家族の風景 ~ベルト・テウニッセン

まずベルト氏の作品70数点を、20点程度に絞る。彼の作品は、室内で家族を撮影したもの。作家自身が撮影の原則を立てているが、家の中では必ずしもその通りに撮れず、作品によって作家の原則と例外について、興味深い議論が行われた。完成作品は、タイ製の竹の和紙に、インクジェットプリントで仕上げたいとのことで、見本を2点持参してくれた。

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左から、奈良撮影写真家ユギュ、仙台・和歌山・奈良撮影写真家ベルト、アーティスティックディレクター・キャロリーヌ

モノクロームで際立つ 奈良の表情たち ~ユギュ・フォンテーヌ

続いてユギュ氏の作品である。彼は、既に20数点に作品数を絞り込んでおり、ノートパソコンで見ていった。あえて観光地としての奈良市に撮影を限り、奈良の観光地としての俗性と、宗教的、歴史的な面を同時に示す表現を目指したようである。先の2氏の作品はカラーであったが、ユギュ氏はモノクロで仕上げたいとのこと。念のため、彼が選ばなかった作品にも一通り目を通したが、やはり作家の選んだものが良いことを認めるにとどまった。  その他、リールの施設を視察する時間は無かったのだが、街中にも作品が設置されるなど、欧州文化首都事業の盛り上がりを確認できた。

老練作家がとらえた和歌山 ~ミンモ・ヨーディチェ

12月13日(土)には菊田氏と筆者が、和歌山県を撮影したミンモ・ヨーディチェ氏の作品選考のため、ナポリへとおもむいた。同氏の作業は、コンタクトプリントからネガを選ぶ途中で、数点のテストプリントも試みられていた。暗室作業で作品を完成させる仕事の性格上、完成作品はまったく違うものになる。そのため、選ばない方が良いと思われる主題について、こちらの考えを伝えるにとどまった。これまでの作品も拝見し、歴史性や精神性をはらんだ画面の深みを感じたが、作家自身はそのような批評の言葉で作品が単純化されるのを好まなかったようだ。

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和歌山県撮影写真家ミンモ(右)のアトリエで

4作家とも、選考にかけられる時間は十分とは言えなかったが、最終的な作品の点数や額装の方法と大きさについて、それぞれがアイディアを持っており、具体的な展示計画を立てるうえでの基本的な条件も明らかになった。

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グラーツ(2003年欧州文化首都)

写真選考の合間を縫って、いくつかの美術館施設の視察を行うことができた。 2003年の欧州文化首都であるグラーツでは、その一環として設立されたクンストハウス・グラーツを訪れた。古い倉庫を大きく改装した建物に、カメラ・オーストリアの事務所と展覧会スペースが移り、それとは別にコレクションを持たない現代美術のための展覧会スペースが置かれている。カメラ・オーストリアは、事務所の引っ越しが終わっていない中で展覧会も開催しているというお忙しい中、ラインハルト・ブラウン氏にご対応いただいた。この施設ができたことでグラーツは、コレクションを持つノイエ・ガレリー(時間の都合で実見できたのはここだけだった)、アルテ・ガレリー等とあわせ、充実した博物館施設を持つ街になった。

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クンストハウス・グラーツ手前がカメラ・オーストリア

ロッテルダム(2001年欧州文化首都)

ロッテルダムではオランダ国立写真美術館を訪れ、チーフ・キュレーターのフリッツ・ヒールストベルフ氏のご案内で、組織と施設を見学した。展覧会だけでなく、図書室、アルシーヴ、修復施設が揃い、それぞれに専任者がいるという、しっかりした組織の背景をうかがい知ることができた。その後、清水氏と筆者がフリッツ氏にそれぞれの館の説明を行った。  ロッテルダムでは他にボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館、ヴィッテ・デ・ヴィット現代美術センターを訪問した。

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フリッツ・ヒールストベルフ氏(右)に和歌山県立近代美術館の紹介>

ミンモ氏作品を発見!

ナポリではミンモ氏並びに奥様のアンジェラ氏のご案内により、サント・エルモ城での「ガスパーレ・トラヴェルシ」展オープニングに出席した他、考古学博物館、カポディモンテ美術館などを視察した。この館の一角にはミンモ氏のコーナーがあり、イタリアでは辞書に載る作家であることを改めて実感した。 最後にフランクフルトを訪れ、国際写真フォーラム、ポルティクス、シルン・クンストハレ、市立ギャラリー、現代美術館、ギエルシュの家・地方美術館、リービークハウス・古代彫刻美術館、シュテーデル美術館、フランクフルト・クンストフェライン等を視察した。

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刺激的なヨーロッパ美術館事情を目の当たりに

ジュネーヴ、グラーツ、リール、ロッテルダム、ナポリ、フランクフルト(経由だけならブリュッセル、アムステルダム、ミュンヘン)と、多くの都市を駆け足で巡る旅であった。それぞれの都市で見ることのできなかった施設も多いが、全体を概観すると、コレクションを持たない非営利施設での展覧会活動が活発な印象を持った。同時に大規模な美術・博物館では、その収蔵品と基礎研究を土台に、実験的で挑発的、時に攻撃的とも言えるほど知的刺激に満ちた展覧会活動がなされていた。特にシュテーデル美術館の展示は興味深く、多いに参考になった。

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最後に、今回の交流事業に参加する機会を与えていただき、実務面でもお世話をいただいたEU・ジャパンフェスト日本委員会事務局、そして支援企業の皆様に感 謝いたします。また、各写真家の皆様、欧州文化首都リール2004のキャロリーヌ・ダヴィッド氏をはじめ、それぞれの滞在地でお世話になった美術館の 方々、同行いただいた菊田樹子氏、小寺規古氏、清水有氏に感謝の意を表して結びといたします。

 

和歌山県立近代美術館
640-8137 和歌山市吹上1-4-14 TEL:073-436-8690
写真提供:菊田樹子・奥村泰彦

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