田中一村記念美術館における写真展「日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイvol.9」(会期:2008年9月7日~30日)の関連事業として、「エッセイ・作文コンテスト『一枚の写真を見て感じたこと』」を開催。奄美各地からたくさんの応募がありました。その中から、最優秀賞に輝いた川原千亜梨さんの作品をご紹介します。
「まるで、あの頃のオオゴマダラを見ているようだ。」
わたしの記おくがタイムスリップしたようによみがえった。
その日は台風が過ぎ去った次の日だったと思う。当時一年生だったわたしの目の前をオオゴマダラという、きれいでめずらしいチョウがひらひらと舞った。わたしは、一しゅんにして心をうばわれ、毎日観察するようになった。わたしとオオゴマダラの付き合いはここから始まった。
四年生になり、飼育委員会に入ったわたしは、たくさんのオオゴマダラを世話することになった。思えば、三年前、一匹のオオゴマダラが目の前を横切ったのをきっかけに、今はたくさんのオオゴマダラの世話している。何か不思議な縁を感じずにはいられない。
しかし、自然界は時として残こくだ。すべてのオオゴマダラが順調に育つとは限らない。たくさんいるオオゴマダラのうちの一匹が、きずつき、羽がボロボロに なっていた。飼育委員としてはこのようなすがたを見るのはつらい。「かわいそう」という気持ちばかりが強くなってしまう。
「長くはもたないだろうな。」
わたしを含め、飼育委員のほとんどがこんなことを考えはじめていた。
ところが、わたしたちのあきらめムードをかき消すように、このオオゴマダラは、きずついたすがたになっても、花のみつを必死に吸っていた。がんばって吸っていた。まるで、
「生きるんだ。」
と力強く自分に言い聞かせているように。わたしは、「生きる」ということが、どんなにうれしいことなのか、教えてもらった。きっとこの写真に写っているチョウも、毎日を必死に生きているんだろうな。わたしは、なつかしい思い出とともに心の中で応援していた。

撮影:クニー・ヤンセン
