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[Vol.19] 一枚の写真から~生への誘い

2007年2月2日~25日に開催した佐賀県立美術館での写真展「日本に向けられたヨーロッパ人の眼vol.8」の関連事業として、佐賀新聞社との共催で開催したエッセー・作文コンテスト。写真展会場の作品を見て感じたことを文章に表現していただき、9歳から80歳まで191編の応募がありました。その中から、最優秀賞を受賞した2名の方の作品をご紹介します。

古賀 祐子さん

佐賀市 主婦 47歳

それは、「生きる鼓動が聞こえる写真展」だった。風の音、波の音、鳥の鳴き声、車の音、人の声、一枚一枚の写真の前に立 つといろいろな音が聞こえてくる。時間を忘れさせてくれる心豊かなひとときだった。そしてどこか懐かしく思えるのはなぜだろう。やはり私が日本人であると いうことを再認識させられた瞬間でもあった。

私達がいつも見慣れたありふれた風景のこの場所をわざわざ撮影場所に選んだのにはきっと彼らからのメッセージ が隠れているに違いない。ヨーロッパ人の写真家の方々の心境を探りながら鑑賞するのも又、楽しかった。この場所にたどり着くまでどれくらい歩いたんだろ う。歩き疲れこの景色に出会った時は捜し物が見つかった時のような喜びと安堵感で一杯だったことだろう。この場所のどんな所に魅力を感じシャッターを切っ たのか。彼らの日本探しの旅に同行しているかのごとくそれぞれの写真の中に私なりの解釈で「日本」を感じた。「自然の中に造られた遊具」「ヨーロッパ風 ガーデンの後ろに見え隠れする和風の木」などは、そのコントラストとアンバランスが実におもしろい。彼らがこの場所にレンズを向けた気持ちがちょっとだけ 分かったような気がした。「レースのカーテン越しに見る静かな風景」は、日頃私達日本人女性が忘れかけている奥床しさを思い出させてくれた。ヨーロッパ人 女性に「やまとなでしこ」を学び、おかしくもあり、彼女との距離が縮まったようで嬉しくもあった。

日本の、また佐賀の美しさ、国境を越えた人と人とのぬくもりを再発見し、次に目に飛び込んできたのはギリシャ のなんとも言えない美しい風景だった。「久我秀樹、ギリシャを撮る」のエリアである。今だかつて訪れたことのない未知の世界ではあるが、真っ青な空と白く 塗られた壁、そこには期待を裏切らない素敵な風景が広がっていた。遠い異国の地に思いを馳せて見ていると、一枚一枚に吸い寄せられ、さわやかな風を肌で感 じているかのような錯覚を覚えるのが何とも不思議だ。そんな心地よさをここで終わりにするのはもったいないと思い、最もギリシャの風を感じたお気に入りの 写真のポストカードを購入して佐賀県立美術館を後にした。

 

vol_19_12_02

撮影:久我秀樹

 

さあ、ここからは現実が待っている。日課となっている母の入院先の病院へ直行だ。いつもの場所に車を止め、いつもの病室 のドアを開けると、そこには今日もベッドの中から窓の外の空を仰ぐ小さな母がいる。足踏み状態の病状が続く中、つい会話も途切れがちのこの頃だったが、何 気なく私がバッグの中から取り出して見せたポストカードに母の目が輝いた。歩くことはおろか、一人で食事をすることさえままならない母が、

「ギリシャに行ってみたカー。」

と、言ってくれた。こんな母を見るのはどれくらいぶりだろう。毎日、どんな励ましの言葉を重ねても、こんなに も希望に満ちた笑顔に出会うことはなかった。嬉しかった、本当に嬉しかった。と同時に、一枚の写真の魔力を感じずにはいられなかった。気が付けば私は今見 てきたばかりの写真展のことを一生懸命語っていた。心なしかほんわか暖かく変わった病室の空気の中で、母はしっかりと「明日からのリハビリを頑張る」と、 約束してくれた。

病床の母にも生きる希望と勇気を与えてくれた今回の写真展。まさしく「生きる鼓動が聞こえる写真展」だった。 早く元気になって、いきなりギリシャは無理だけど美しい自然があふれている「ふるさと佐賀」をゆっくり見て回りましょう。そして又いつかこういう写真展が 開催された時は、今度は是非出掛けようね、お母さん!

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