巡回移動する施設

リタ・オルランド|オープン・デザイン・スクール マネージャー

「City pop-up architecture」とは、様々なかたちでの利用や解釈が可能な小型建築を意図したものです。マテーラのような小規模都市や僻村に当てはめると、「City pop-up architecture」は、市民の関わりや積極的な参加の振興を図るための文化的な巡回移動型施設となることが望ましいと考えられます。そのデザインは、誰もが利用でき、各自のニーズに応じて仕様変更が可能なオープンソース形式で、これがコミュニティに活力をもたらし、知識交換を促進するひとつの手段となります。

 

その目的は、公共空間の活性化を促すツールキットを提供することで、これらの空間をワークショップや講演、パフォーマンス、社会活動などが展開できる活動的空間に変容させることにあります。移動式空間を結ぶネットワークにより、図書、パフォーマンス、音楽、演劇、読書会などを、バジリカータ州全土ならびに世界の他の地域に点在する十分な機会に恵まれない地域に持ち込むことが可能になります。巡回移動型施設に備わる可動型インフラにより、これらの場所で上映会や作文ワークショップ、パフォーマンス、読書会などが開かれ、出会いや文化創造の拠点となるのです。

 

この種のプロジェクトをオープン・デザイン・スクールと共同実施するにあたり、世界的に名声高い建築設計事務所アトリエ・ワンは、ごく自然な選択といえました。両グループともに、開かれた参加型アプローチを共有し、そのプロセスの開始段階よりコミュニティの関与に重点を置いているからです。

 

本プロジェクトは、「デザイナーとしてのユーザー」という方法論を用いて、コミュニティのニーズの明確化のみに留まらず、むしろコミュニティに新たな視点を持ってもらい、創造的な共通の解決法を見出す後押しをする、共創型デザインプロセスの確立を狙いとしています。 

「City pop-up architecture」プロジェクトの一環で開発された巡回移動型施設の第一弾となったのが、「ソーラークッカー」です。これは例えば日射量、緯度、季節性、傾斜角度などの一定の条件のもとで、太陽エネルギーを利用して調理できるオーブンで、自転車トレーラーに収まり運搬可能なデザインとなっています。

内側をフィルムミラーで覆った木箱は、安価で簡単に作れることから、可能性として誰にでも再現できます。太陽光がもたらす熱を利用し、特に夏季の一日で最も気温の高い時間帯であれば、上部と側面のカバーの傾斜を変えることで、様々な料理が作れます。

 

これらの箱も可動対象物として捉えられ、2台の自転車に固定することで、都市を周遊しながら食料を集めるとともに、実演を行うためにソーラークッカーを運搬することができます。

 

地元の食料品市場を訪問し、伝統農法に関する調査のために実施した小規模農家へのインタビューを踏まえて、季節性に応じた野菜が選ばれました。

 

このプロセスは、6歳から13歳までの児童を巻き込んで進められました。子供達は、ガーデントピア・プロジェクトとの共同運営によるオープン・デザイン・スクール・ガーデンに植えられた野菜の多種多様な類型ごとにラベル付けをし、違いの見分け方や農法を学びました。

世界各国から集めたレシピに関するプロジェクトを運営する地元組織「Casa Netural」と協働し、私達は健康的な食物、再生可能エネルギー、温室効果ガス排出量削減などへの認識を高めるため、学生グループと会合の場を持ちました。

 

最初の料理レシピ集をもとに、一冊の料理本が誕生しました。これには、ソーラーオーブン、調理時間、温度についての情報加え、播種と収穫の両方の時季ごとに分類された、地場産の野菜一覧が掲載されています。

 

『ソーラー・クッキング・クラブ』のグラフィックで装飾されたワゴン車が、流し台、ナイフやフォーク類、皿、鍋などのほか、伸縮式テーブルを完備した移動型キッチンに変身し、こうして本校の中庭が、コミュニティランチに向けて準備の整った共有スペースに生まれ変わったのです!ソーラー・クッキング・クラブは、オープン・デザイン・スクールとアトリエ・ワンが実現を目指す、簡単に作れる『オープンソースファニチャー』コレクションの開発と、この分野における伝統的手法についての研究から成る、広範にわたるプロジェクトの最初の成果となりました。

 

火力資源に頼らずに調理をする可能性を探ること、それは政治的表明であり、経済的事情に左右されることなく、より幅広い人達に調理された食事を手にしてもらう機会を提供する、民主的な手段といえます。このような洞察は、移民にまつわる議論をも育み得ます。バジリカータ州では、イタリアの他の地域と同様、毎年のように農業労働者として働く膨大な数の移民を受け入れていますが、これらの人々は適切な住宅の確保がままならないのが現状です。それが理由で、毎年、粗末な小屋や不安定な建造物、その場しのぎの家具がひしめく仮設集落が出現します。こうした現象をデザインの視点から考察することにより、誰もが活用できるオーダーメイド式解決策のカタログ化につながると考えられ、これは、特に十分に活かされていない技能や文化的背景を持つ多様な人々と協働し発展させるべきものなのです。

 

今後の意向として、こうしたトピックに取り組むべく混成型の作業グループを発足し、地球規模で効果をももたらし得るような、地域の問題に向けた解決策を提示する試みを行っていきたいと考えております。