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TOPページ >> プログラム >> 第11回 EU・ジャパンフェスト >>北欧CUMULUS会議視察、調査


拡大EUに向けて美術・デザイン教育はどう変わるか
視察・調査報告書

進藤 加代 進藤 加代

 
2003年5月7〜21日にかけてCUMULUS会議参加及びエストニア・スウェーデン・フィンランドの視察を行ってまいりました。
今回は組織を離れ個人として初めての会議参加・調査・視察でしたので、出発前は不安を感じておりましたが多数の方々のご協力で実りのある結果となりました。


ソ連邦離脱10年後のエストニアへ
エストニアのタリンで開催された今回の会議は旧共産圏で初の開催であり、日本では紹介される事の余り無かったエストニアの美術・デザインに触れる絶好の機会との期待を胸にヘルシンキから双発のターボプロップ機に乗りこみました。80人前後の乗客の殆どが会議参加者であり機内で早くも情報の交換が始まり20分程でタリンに到着、空港で私も前回お目にかかった、オスロのTove Kjar教授やロンドンからのBirgisdottirさんと久しぶりに再会し近況や会議中の予定について会話が弾みました。


エストニア美術アカデミー見学
会議の前にエストニア芸術アカデミー学内見学が行われフランス・デンマークからの参加者約20名程のグループに参加し金工・ファッション・皮革・舞台・プリンティング・ガラス・家具の各コースを見学。
このグループの案内役のKadi Pajupuu助教授は30代半ばの女性でテキスタイル科の主任を務めているとの事。
ファッションデザインコースは現在最も人気があり、入学に当たっては数十倍の競争率という難関を突破しなければならないとの事、ちょうど2年生のコンポジションの授業中で担当の教授から課題の狙いなどの説明をうける。色彩はつかわず紙またはシーチング地を使い徹底的に様々な形の訓練を目指しているとの事、若い女子学生達がお喋りもせず黙々と作業を続けているの見て、ふと私語や携帯等で騒がしい日本の授業を思い浮かべた。




皮革はバッグや装飾品の他に製本の専門があり、エストニアのみならずEU諸国からの留学生も多くレベルもかなりのものと見受けられました。フランスからの見学者は大変な興味を示し何名かの学生と今後について早速具体的な交渉を開始。



家具のコースでは成型合板を使った椅子を展示中。成型合板技術は意外にも英国で開発されてから直ぐにエストニアに紹介され50年あまりの古い歴史があり現在でも最も一般的な素材であるとの事。展示作品もスカンジナビアデザインの多大な影響が感じられた。


見学しての印象は建物・設備等けっして良好とは言えず特にコンピューターなどの機材は日本の大学に比べると大変見劣りがした。その点は案内のKadi Pajupuu助教授をはじめ各教員から話があり、そのため数年中に新校舎を建築予定しているとの事。それもなんとかつては刑務所だった建物。まあ大学も刑務所も似てないことも無いねと一同顔を見合わせる。


物質的にはかなり厳しい状況ではあっても学生の意識は高く非常に意欲的に課題に取り組んでいるのが感じられた。エストニア国外への進出を希望する卒業生も多くそのせいか教職員・学生の殆どが英語他外国語に堪能であり本当に10年前までソ連邦の一員であったとは俄かに信じがたかった。日本の文化に対しても大変興味も持ち思ったよりJカルチャーの情報もだいぶ入っているようで日本のファッションや漫画について質問を受けた。




CUMULUS会議
5月8日
午後2時より会議は建築博物館に改造されたかつての塩の収蔵倉庫で開催された。開会の挨拶についで
Krista Kodres教授(エストニアアカデミー ) "Design in Estonia"
Diana Crane教授(ペンシルバニア大学)Culture and Globalization: A Case Study Of The Fashion Industry
,Natasha Vita-More氏 The new human Primo (3M+ = human - transhuman - posthuman)
Carlo Vezzoli教授(ミラノ工科大学)Designing systemic innovation for sustainability
以上の発表が行われた。


5月9日
午前
Ken Friedman博士(ノルウェー)Design policy for Estonia in the Global Economy.
Paivi Tahkokallio(フィンランド)Future Body: No sustainability without Design for All
Marek Strandberg (タリン工科大学)Future Body: High-tech and low-tech synergy
Jan Verwijnen 教授(ヘルシンキ美術デザイン大学)Sustainability Designed: SPARK! - Sustainability Designed
午後はエストニアアカデミーに場所を移し
Session A Culture and Globalization
Session B1 Future Body
Session B2 Future Body
Session C Sustainability Designed
Session D Ex-Files
分科会に分かれ会議を続けた。




私は国際交流担当者の会議であるSession D Ex-Filesに参加。実務担当者の会議らしくEUの助成金獲得方法や他の国際組織情報、参加した国際会議の報告など盛りだくさんで時間が足りなく皆物足りなさそうであった。特に学生の受け入れについて教育システムの違いを理由に英国が消極的である事が槍玉にあげられ一時は一斉攻撃の的になる一幕も。
ただ殆どの参加者が顔見知りで個人的にも親しいので此処まで突っ込んで話が出来るのだろうと納得した次第。




5月10日
会議ボードメンバーによるGeneral Assemblyが行われている間、エストニアアカデミーが計画してくれたタリン旧市街の見学に参加。ガイドは美術史を研究している大学院生で専門が専門だけに我々の面倒くさい質問にも丁寧に答えてくれる。旧市街でも支配階級の町であるトームペアは観光客の他に人気が余り感じられない。ソ連邦崩壊後、生活インフラが整っていないため郊外の団地の1部屋と歴史有る1軒家と交換する住民が続出、結果無人地帯化したという。家売りますの英文の看板が多く見受けられ、現実にフィンランドから多額の投資が行われている。イデオロギーの支配から経済の支配へとエストニアが置かれている立場の難しさを感じた。ただ幸運にもソ連統治下でもエストニア語は禁止されなかったので民族のアイデンティティーを守る事が可能だったとの説明を受ける。




午後からのラヘマー国立公園へのエクスカーション後再会を約束しながら解散した。
今回の会議でも2004年度のロシアをはじめ旧共産圏国家のEU加盟が大きな話題となった。
CUMULUSのメンバー内でアメリカ、アジアを含めた拡大を進めるのか、むしろEU内に限定して活動をするのかCUMULUSの方向性について多くの意見が交わされていた。
今後を注目していきたい。


エストニア芸術活動の現場へ
Estonian Artists' Association Estonian Center for Contemporary
Artist in Residence プログラムについて伺うためEstonian Artists' Associationを訪問した。住所を頼りに訪ねたがエストニア語の表記で皆目見当がつかず手当たり次第に尋ねる。
やっとギャラリーらしき建物に入り受付嬢に名前と住所を見せるが要領を得ず、ついには奥から何事とゾロゾロ表れた人達の助けで建物の最上階に事務所がある事を突き止めた。エレベーターが無いのでエッチラオッチラ7階まで登りようやく到着した。
担当のMaris Vagaさんは思いがけず20代の女性であった。旧市街にあるアトリエは現在ノルウェーのアーティストが滞在中で直ぐ連絡を取ってくれたが留守のため見学は残念ながら出来なかった。現在はバルト海沿岸の国々からの受け入れのみで、又所有しているアトリエは1ヵ所のため受け入れ人数が限られてしまっている。勿論将来的には受け入れ範囲は広げたいが経済的に非常に厳しい状況で現状維持がやっとであるとの事、維持費用は以前から所有している建物の賃貸料つまりソ連統治下時代の遺産で自由な交流をまかなっているという皮肉な話であった。


Maris Vagaさん

彼女は事務局担当で余り現在のアートシーンには詳しくないので他に適当な方を紹介してくれるとの事で後を付いて隣の建物にあるEstonian Center for Contemporaryへ向かう。現れた責任者は何と昨夜遅くまで話をしていたエストニアアカデミー学長AndoKeskkula,の夫人で2人ともびっくり。
出版物や今まで行ったプロジェクトについてお伺いする。やはり此処でも財政的に厳しく活動が制限されてしまう状況であるという。そんな中で今年のベネチア・ビエンナーレに参加するアーティストの資料を頂く。2人組みのユニットMarko und KaidoでJohn Smithなる人物の日常生活を語るという作品であった。
その後同じ建物の1階にあるデザインショップを訪ねる。芸術アカデミー出身の若いアーティスト・デザイナー達の作品を販売している。皆日本のデザインに興味があり何時かは日本に行ってみたいと口々に語る。タリン市内には此処の他にアーティストショップが何ヶ所かあったが殆ど女性達が運営していた。アカデミーでも殆ど男子学生の姿が見えなかったし、どうもタリンのアート・デザインシーンは女性がリードしているようだった。


ショップ内とデザイナーでもある販売員

Sweden 
Konstfack(スウェーデン国立美術・工芸・デザイン大学)卒業制作展
5月13日
Konstfack 卒業展のオープニング、今期を最後に退職するラーラシュテッド学長が次期学長のビョルクマン氏を紹介し始まる。教員・学生達はビールや飲み物(無料)を手にそれぞれ勝手に座り各学科の代表者によるプレゼンテーションを聞いている、いつもながらリラックスした雰囲気である。最後に女性教授の増加を求める女性差別反対団体の代表の女子学生がラーラシュテッド学長に紹介されメッセージを読み上げる。非難対象とされている学長以下教員達がニコニコ?しながら見守るという日本では考えられない光景でセレモニーは終了した。今回は修士課程のみの展示で学士は学外で場所を借りて展示となったので初日は学内展示を見学した。作品はここ近年の傾向であるファインアートとデザインが混在し、展示もインスタレーションを駆使したものであった。作品のレベルは日本の若い作家を見慣れた眼からみれば若干ナイーブな印象を受けた。




5月14日
学士の展示を見学、当たり前と言えば言えるが修士の作品よりもっとベーシックな作品が多く明解な印象を受けた。ラーラシュテッド学長の話ではグラフィックやインテリアなど職業に直結する学科の学生は学士を終えた時点でどんどん社会に出て行くので修士に残る学生は減少しているとの事。話を聞いた学生も大学に残るより実際社会で働きたいしでそれも出来たら海外での仕事を希望していると語った。


現代美術館付属建築博物館の展示プロジェクト担当の友人Elizabethに時間が取れたので話を聞く。新築された現代美術館が工事ミスの浸水騒ぎで10月まで休館を余儀なくされて、色々なプロジェクトが取りやめになったり順延されたりとスウェーデンのアートシーンに多大な影響が出ているという。
夕食で久しぶりに再会したエヴァ・クムリーン前駐日スウェーデン大使夫人から今秋開催される「スウェーディシュスタイル・東京」また2004年度に予定している「ジャパニーズ・スタイル・ストックホルム」について説明を受ける、益々意欲的に文化交流を続けていられると見受けられ今後の協力を約束。


Finland
躍進する現代フィンランドアートを訪ねて
5月16日
15日の夜のフェリーでストックホルムを発ち16日の早朝Turkuの港へ到着する。RaumaにあるLonnstrom Art MuseumのディレクターKivimakiさんの出迎えを受け市内に向かう。
Turkuはフィンランド第3の都市でヘルシンキに移るまで首都であった古い町で多くの学術機関を有する大学都市でもある。ヘルシンキとの関係はちょうど東京に対する京都のような立場で人々の町に対する誇りが其処此処に感じられた。
先ずトゥルクポリテクニックを訪ねる。建物はかつてケーブル工場であったものを改装した鰻の寝床のようなユニークなデザインであり内部にはコンサートや演劇に使用するホールがあった。美術学部はちょうど卒業制作展が終わったばかりで学生の姿はみられず閑散としていた。ちょうどトゥルク市内で開催されている国際アニメーション映画祭にあわせて上映されているアニメーション学科の卒業制作作品を見る事ができた。この今回で2回目、20ヶ国300本の作品を上映する国際アニメーション映画祭ではFocus Japanと銘打たれた特集が組まれ、特別ゲストとして山村浩二氏が招待されていた。
12本の卒業制作作品は2〜6分前後でクレイ、人形といったクラシックな手法が使われ世界屈指のIT王国なのにCGは殆ど見られないのが印象に残った。


ポリテクニック見学の後トゥルク市立美術館を訪ねる。ちょうど一昨年前亡くなったムーミンの作者トーベ・ヤンソンの回顧展が開催されていた。この展示に日本から多数のオファーがあるが後数年はフィンランド国内を巡回するので日本での展示はまだ先になる様だ。
ディレクターのPaivi Kiiski−Finelさんと共にTITANIKギャラリーを訪ねるここはトゥルク市に提供された場所をアーティスト達が共同運営している。現代アートを主に展示している、訪ねた前日から日本をテーマにした展示が行われていた。いずれもそれぞれイメージとして捕らえた日本を表現するというものであって、なかに回転寿司の積み重ねられた皿をテーマに製作されたガラスの作品が興味をひいた。
Paivi Kiiski−Finelさん、Kivimakiさんに日本で紹介される事がなかなか無い西フィンランドのアートシーンやTuruku City Environmental Art Project・来年開催予定の環境アートThe Baltic Sea Biennale等のお話を伺い情報交換を約束。


回転寿司からイメージしたガラスの作品


Rauma
世界遺産の小さな町の現代美術館へ
5月17日
気温7度のなかユネスコ世界遺産に登録されている旧市街を見学。木造建築のため再度の火災に遭い現在は19世紀に復元された587軒の木造住宅からなる町並みで現在でも公共施設、住宅や商店として使用されている。住民は家屋を昔のまま保存する義務があるうえ修復も個人の負担となるという。旧市街に住むことは一種のステータスである。事実ヘルシンキ等から多くの文化人が移り住んでいる。そのうちの陶芸家Kerttu Horilaさんのアトリエと住居を見学。


その後Lonnstrom Art Museumを見学。この美術館は木材加工産業で財をなしたLonnstrom一族によって設立された私立の美術館でかつての住宅を改装したもので、規模は小さいながら現代美術の紹介を積極的に行って注目されている。私が訪ねた時はドイツで主に活動しているスロベニア出身のIgor StromajerさんのWebを使った作品展示?が行われていた、尚この内容はwww.intima.orgで見ることができる。
来年度のArtist in Residenceの選考中で4人の受け入れに38人の応募、内日本から2名応募があったが残念ながら選考に洩れてしまった。日本からの応募者の特徴とした具体的な制作内容やなぜここで制作したいか等のプレゼンテーションが他に比べて弱いとの指摘を受けた。


Kerttu Horilaさんのアトリエ


Lonnstrom Art Museum内部


Helsinki
5月19日
UIAH The University of Art and Design Helsinkiを訪問しCUMULUS事務局を訪ねる。次回の会議開催や日本との交流の可能性について話し合う。
The Operation Saunabus の指導教員でインテリアデザイナーのTimo Salli教授と面会し、持参した日本の若いデザイナーの作品を紹介する。大変興味を示したSalli教授から秋学期から開始するプロジェクトへインターネットを使った参加を打診される。
Sotama学長、Salli教授共々10月に東京で開催される「静かさのデザイン」に参加のため来日される予定、日本での再会を期して大学を後にした。


5月20日
毎回時間が取れず見逃しているThe Museum of Art and Design で20世紀前半に起こったフィンランドロマンティシズム・ユーゲントシュティ−ルJugend - the turn of the 20th century in Finnish fine arts, industrial arts andarchitecture・金工作家Bjorn Weckstrom
・フィンランドデザイン史Designmuseo Collections 1870-2002
の展示をみる。何れも充実した内容だがコンパクトにまとまって大変見やすい。
Kiasma現代美術館では数多い展示の中でロンドン在住のYinka Shonibare氏「Double Dress」が興味をひいた。当日はフィンランドの祝日で多くの見学者が見られたが特に教員に引率された中学生が学芸員から説明を受けている姿が印象に残った。
ようやく太陽が顔を覗かせたフィンランドを後に帰国の途についた。


まとめ
今回は計画の段階から我ながら欲張りすぎて無事進められるかと不安であったが、連絡ミスや時間の都合で予定通りには行かなかった事もあったが行く先々で多くの人々の手助けで何とか満足のいく結果が出せた。
現在CUMULUSで面識を得た韓国Hanyang University の ClaireKim講師と今後の交流プロジェクトのアウトラインについて話し合いを進めている。
Salli教授と福田英盛氏についても次回のCUMULUS会議で対面する予定になった。
今回、草の根の国際交流の重要性を再認識することが出来、今後の私の活動の方向性がはっきりしてきた。
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