芸術の言語を交わす場所、アートキャンプ

レンカ・コディトゥコヴァ|西ボヘミア大学ラディスラフ・ストナーデザイン・アート学部
アートキャンプ総合ディレクター

ArtCamp2016_students5アートキャンプは、西ボヘミア大学ラディスラフ・ストナーデザイン・アート学部で毎年開催されている国際芸術サマースクールです。創設から12年の歴史を経て、アートキャンプはチェコ共和国最大の芸術専門サマースクールとして成長し、美大生、アーティストならびに一般市民に人気の夏期講習先となっています。アートキャンプでは、毎年多彩なコースを用意し、国際的なアーティストの招聘を行っています。年齢、文化、国籍、関心、才能の異なる受講参加者が個性あるモダンな美術大学校舎のアトリエや屋外で出会い、制作を共にし、プルゼニ市および近郊を探索します。アートキャンプ2016は、2016年7月11日から29日かけて開かれ、美術とデザインの計33コースに380名を超える参加者を迎えました。

ArtCamp2016_students2アートキャンプは、国際事業として、海外から作家や学生を誘致し、新しい文化的・芸術的体験の付与、創造性豊かで刺激的な夏期講習先の提供に加え、その後の国際的連携に向けたプラットフォームの創出を図ることを目標としています。EU・ジャパンフェスト日本委員会と遊工房アートスペースとの連携は、当サマースクールの国際性の強化と、参加者のための文化多様性、豊かな環境づくりを促す継続的プロジェクトのひとつです。2013年に開始したこの協力関係のおかげで、アートキャンプ2016では日本から受講参加者4名と招待作家1名を迎え入れました。(2013年には学生1名、2014年には学生10名、2015年には学生5名と招待作家1名の参加がありました。)

このグループには日本の美術大学3校からの学生達とアートマネージメント専門家1名が含まれ、そのうちこの専門家は、日本の秋田県で同様のプログラム設立の可能性を検討しており、アートキャンプならびに当組織に関する調査の機会を兼ねての参加でした。受講体験、関連プログラムへの参加に加え、アートキャンプ主催者との会合でノウハウの共有を行うなど、双方の視点から総合的に体験していただきました。これがきっかけとなり、将来の協力関係のさらなる可能性や日本の美術大学および機関との交流の拡大につながることが考えられます。
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4名の日本人参加者は、それぞれ一週間のアートコース3講座を受講し、全員見事に修了を果たしました。これらのコースには、芸術療法、建築、陶器デザイン、製本、映像制作、デジタル写真、ニューメディア、コンテンポラリーダンスの原理などが含まれました。アートキャンプ体験では、イベント性に富んだ関連プログラムへの参加が組み込まれ、参加者に新しい友人と課外で会ったり、プルゼニでの滞在を存分に楽しんでもらう機会が設けられました。このプログラムの一環として、アーティストによるプレゼンテーション、学生向け映画ナイト、観光(有名なアドルフ・ロースのインテリア見学を含む)、展覧会オープニングなどが開かれました。参加者が若手作家のグループに溶け込み、新しい交友関係を築き、才能を伸ばし、経験をフルに満喫する姿を見守れたことが、私達にとって大きなやりがいとなりました。このような夏期プログラムへの参加により、若手作家が視野を広げ、新しい技法や発想を身に付け、未来の人生や創作活動において重要となる新しい友情や文化的体験を得るのに役立ったことが、参加者からの感想により裏付けられています。またこうした経験が、個人の人生や観点、そして海外留学や滞在制作プログラムへの参加といった、将来の決断に影響を与えることになることも考えられます。さらに、日本からの来訪者と出会い、協働の機会を持つことは、チェコの学生達にとっても等しく重要かつ有益であるといえます。

アートキャンプ・サマースクールに漂う国際的な雰囲気は、受講参加者のみならず、招待作家によって醸し出されたものでもあります。アートキャンプ2016では、アメリカ、カナダ、ポーランド、スロバキア、そして日本からは今回で二人目となる作家を迎えました。東京に拠点を置く建築家矢嶋一裕氏が日本の茶室の伝統に焦点を当てた一週間の建築コースの講師を務め、参加者から大変好評をいただきました。参加者は、日本と欧州の建築の相違点と類似点を探り、茶室の伝統、建築術的原理および哲学を学び、有名なアドルフ・ロースのインテリアを見学、さらには伝統的な起こし絵模型の作製方法を教わり、各自が独自の茶室デザインを表現しました。また矢嶋一裕氏は、公開イベント「アートキャンプ20×20」で、自らの建築プロジェクトに関するプレゼンテーションをペチャクチャ形式で行いました。ArtCamp2016_KazuhiroYajima1

アートキャンプは、ラディスラフ・ストナーデザイン・アート学部の国際関係の発展において極めて重要なツールといえます。アートキャンプへの参加がきっかけで芽生えた日本の大学および作家との交流が発展し、学生や教師の流動化や展覧会プロジェクト、滞在制作プロジェクトといった互恵な協力関係につながることを願っています。

アートキャンプは、チェコと日本という遥か遠い国々の出身者を含め、人々をひとつに結びました。距離や文化的差異がありながらも、私達には多数の共通点があります。そして私達は共通語である芸術という言語を交わすのです。