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[Vol.96] 日本の眼とエストニアの心

荒井秀子

日本・エストニア友好協会
事務局長

エストニアという北欧の小さな国がソ連からの独立を果たして25年。ロシアという大国の隣国同士という共通点もあってか、この国はEUの中でも比較的親日家が多い国であろうと思う。ここにきて日本でもエストニアファンは増え続けている。人、自然、民族文化、アート、音楽、IT、それぞれ好みは違うかもしれないが、エストニアの地を訪れてこの国の虜になる人は数知れない。曽根原昇という写真家もその一人。しかし、彼はもっと深いエストニアの心を求め、写真に収め続けている。民族的生活文化自体が世界無形文化遺産に登録(2003年)されているバルト海に浮かぶ長さ7km、幅3kmの小さなキフヌ島を6年前に訪れた写真家は、その牧歌的な風景にすっかり心を奪われてしまった。以来写真雑誌の仕事の合間、毎年のようにキフヌ島に通い、言葉ではなくその笑顔と人柄で人々と心を交わし、その生き様に焦点を当ててシャッターを切り続けてきた。民族衣装に身を包んで力強く働く女性たち、小さな島ながら長閑で大きな自然、家族の一員となっている動物たち。ターゲットはどこまでもゆったりとしていて時の流れを止めてくれる。

その日本人写真家がキャッチしたキフヌ島の魅力の表現をエストニアの都会人はどのように受け止めるのか、私たちのそんな疑問から首都タリンでの写真展開催の企画が始まった。しかし同時に世界遺産キフヌ島という、ある意味エストニアでは聞き飽きた題材に、現地の人々には見向きもされないのではないかという危惧がエストニア側の共催団体に浮上し、なかなか前に進めなかった。旅行先として人気があるため、多くの雑誌やメディアで紹介され尽くしている感があるからだ。でも、窮すれば通ず、あれこれ迷った末一つのアイディアが生まれると、一気に準備が進み始めた。幸いにもEUジャパンフェスト日本委員会の助成金の回答にも背中を押して頂くことができ、曽根原氏のキフヌ島の写真を中心にして、同時にエストニア人旅行者が見た日本の風景写真といけばなを展示して日本の文化紹介もしようという案に軌道修正することとなった。会場であるエストニア国立図書館からも賛同を得て、事が動き出したあとは順調に準備を進めることができた。何事も諦めずに知恵を絞り合う事で前進できるものだと、当たり前の事ながら改めて感じた。

写真といけばなの展示のオープニングを翌日に控え、準備のためにと案内されたのは、個人のカントリーハウス。そこでいけばなの材料を入手するとのこと。日本では花屋に高価な展示会用の花を注文して生けることが当たり前で、庭の木々を使って生けることができる人は尊敬に価すると思っていたが、こうして思いがけず自然に生えている樹木、草花の命を作品に吹き込む機会に恵まれた。エストニアのいけばなサークルのメンバーはいつもそうして個性豊かな作品を生けているという話に、自然と共に生きている人々の生活の豊かさ、心のゆとりに胸打たれ、元祖でありながら日本人は本来のいけばなの心を忘れているのかもしれないと思い知らされた。

 いよいよオープニング当日。格調高い国立図書館のギャラリー入口に、赤く色づいた蔦が生けられた大きな白い角の花瓶がまず目につく。見事なその花瓶も、ギャラリー内に展示される全てのいけばな作品の花器もエストニア日本協会会員である陶芸家の作品。来場者が到着する前にはエストニアと日本のコラボレーションが見事に整った、見ごたえある展示会が完成していた。

キフヌ島の何気ない生活を曽根原氏の眼で芸術にまで高めた写真は、現地の人々の眼をも釘付けにしていた。一つの作品の前で長い時間立ち止まって見つめている人々も多く、観光案内に出てくるそれとは異なった普段着のキフヌ島の美しさに、ある意味その島を田舎扱いしている現地の人々にとって目からウロコだったのかもしれない。そんな刺激を日本人が与えられる機会を持てたことは、幸いであり、光栄でもあった。これはEUジャパンフェスト日本委員会にご支援頂けたからこそ実現できたことである。

10月4日のオープニングセレモニーには、柳沢洋子駐エストニア日本大使はじめ50名近い図書館、日本協会関係者や在エストニア日本人、多くの親日家が集まった。日本から持参した菓子、日本茶、酒は瞬く間になくなり、空になった瓶や皿を見つめ、現地の人々のアートだけでなく日本の食への関心の高さにも驚かされた。創立以来25年、交流を重ね、情報が深まるにつれて様々な形での要望が増えてきている昨今、そして2018年のエストニア建国100周年を控え、日本で最も長くエストニアと関係   を持ってきた団体の一つとして、さらに活動を充実させ、使命を遂行していきたいという意気込みを新たにした瞬間でもあった。

最後に、この「対話:日本とエストニア、写真といけばな展」は好評につき、また国立図書館の要望もあり、会期を一週間延長して展示することができたことをご報告し、EUジャパンフェスト日本委員会の皆様のご協力とご支援への感謝に花を添えさせていただきます。ありがとうございました。

 

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