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[Vol.91] 愛と広がりに満ちた旅

ロムク・ゲイブ・ドラーイ

俳優

 欧州文化首都レーワルデン2018から、私のもとに日本で行われるいいだ人形劇フェスタへの代表出席の依頼が舞い込みました。「何という信じられない好機だ」と私は思いました。このチャンスを逃す手はありませんでした。人形劇の分野での経験を積む機会が与えられる上、世界観を豊かにし、自己をより良く知ることを可能にしてくれるのです。私は確実に自己を深化、広げることができ、そのきっかけをくださったレーワルデン2018、EU・ジャパンフェスト日本委員会、人形劇団プーク、 Tryater(レーワルデンの芸術文化センター、SFPK(舞台芸術社会基金)をはじめとした出会ったすべての方々に感謝の意を伝えたいと思います。

東京

 東京から始まったこの視察旅行ですが、見知らぬ国をひとりで旅することは、思いのほか興奮に満ちたものに思えました。東京に降り立った瞬間から、まるで温かな毛布に包まれるような気持ちになりました。それはただ単に幾筋もの温かな日差しを降り注ぐ太陽だけでなく、友好的でオープンな日本の人々のおかげでもあったのです。道路標識に一瞬目を向けただけで、目的地まで歩いて送ってくれたり、そこまでしないにしても、ただ笑顔で話しかけてくれました。日本の人々はものすごく親切でした。 

 図1東京には二日間滞在し、そこではEU・ジャパンフェスト日本委員会の古木さんと、人形劇団プークでマネージャーを務める小梛さんとの会合が予定されていました。古木さんと私は、おいしい夕食をいただきながら、数々の政治的問題について話し合いました。私達は日本と他の国々との関係や、日本とオランダの結びつきについて語りました。それに加えて、英国のEU離脱、日本の情勢、そしてEUにおける文化首都の意義などについての論議しました。

 いかなる場合でも、文化首都が政治的事柄になること、あるいはそうなることを目論むことは、あってはなりません。芸術が打ち勝ち、我々をひとつにするものと私達は信じています。政治的思考や行動の方法に違いはあるものの、例えば文化首都がトルコと協働できたように、芸術には結びつける力があるはずです。芸術が結びつけてくれるのです。

  8月1日月曜日、新宿の中心に本部事務所を構える大規模な劇団、人形劇団プークとの話し合いの場が設けられました。美しい建物に所在する事務所で、私は人形劇団プークのマネージャー兼ウニマ執行委員の小梛さんと、EU・ジャパンフェスト日本委員会職員の武富さんとお会いしました。小梛さんと武富さんはその週の後半にフェスティバル訪問のため飯田に赴く予定でした。小梛さんは、観るべき公演についていろいろと役立つ助言をくださいました。また、日本の人形劇や、スペインのサン・セバスティアンとオランダのドルトレヒトのフェスティバルについても、たくさんの情報をいただきました。溢れんばかりの情報の詰まったバッグパックを背に、私は人形劇に浸りきるため、いいだ人形劇フェスタへと出発しました。                  

いいだ人形劇フェスタ

 最初に観た公演は、ビオレン・ファンベル女史が主宰するフランスのヨウカイ劇場による「Volatil(es)」でした。要約すると、このパフォーマンスは、悲しみに暮れた女性が自由の象徴である鳥に変身するという内容です。45分のこの公演で、私はメランコリックな恍惚状態へと引き込まれていきました。ゆっくりとした展開でありながらパワフルな情景により、人間が鳥に変容する様子が体感でき、その迫力はすさまじいものでした。ファンベルさんによる映像と照明と幻想を巧みに操る技が非常に興味深かったです。フェスティバルはこの公演で好調なスタートを切りました!
図2 続いて敬愛してやまなかった舞台が、人形劇団プークでした。私の日本語の語学力不足から、残念ながら物語全体についていくことはできませんでした。それが幸いに転じ、人形遣いの技術と人形に完全に意識を集中することができました。四頭の鹿、これらの人形を私は心の底から楽しく鑑賞しました。このことが、私の中の人形作家としての心に笑顔を灯してくれました。これらの人形のスタイルは、まさに見事な美しさでした。小梛さんが楽屋を見せてくださった際、もちろん私は真っ先に鹿を見に行きました。

 これらの人形に生命を吹き込むために、どのような種類の素材や技法が使用されているかを探るため、私は人形をくまなく観察しました。

 楽屋見学の後、武富さんと私はウェルカムパーティーに招待されました。この場をお借りして、武富さんにはいろいろとお力添えいただき、また特に芸術や日本文化、そして自分達について楽しいお話ができたことを、改めて感謝したいと思います。彼女にお会いできたことを大変嬉しく思っています!

 ウェルカムパーティーでは人形作家や人形遣い師が一堂に会し、食事をともにしながら、フェスティバルの盛況を祈り乾杯しました。皆が集まりフェスティバルの演技や人形劇全般について語ることができたことは、素晴らしいことでした。

 パーティーの後、私はポーランドのポズナンに拠点を置く大型劇団の芸術監督を務めるマレク・ヴァスケールさんとお会いしました。彼は日本人俳優と、自らの劇団に所属するポーランド人俳優による共同制作を手掛けました。このパフォーマンスには、存在すべてが三角形というコンセプトが取り入れられています。舞台装飾は三角形で構成され、鳥、水生動物、樹木などの物体は三角形を使って形作られていました。これは子供向けの舞台でしたが、私の空想力をもくすぐるものがありました。一時間のあいだに四季が流れ、私の想像力を掻き立てました。三角形だけを用いて観客の想像力を刺激する、何とも卓越した形態および実験といえました。

図4 多数の舞台を鑑賞しましたが、ハイライトとして真っ先に挙げたいのが、トム・リーさんと日本の車人形師五代目家元の西川古柳師匠により制作された「Shank’s Mare(膝栗毛)」です。この舞台は、放浪するふたりの旅人の旅路が時間と場所を同じくして交差する物語を綴ったものです。この作品は、伝統的な車人形と映像投影、音楽の生演奏を駆使し、生と死や、受け継がれていく伝統といったテーマを探求しています。日本と西洋の演劇様式が美しく溶け合うこのパフォーマンスは、レーワルデンでもぜひ観てみたいと思いました。この舞台でも鹿が登場しますが、こちらは木で作られていました。人形劇団プークの公演で見た鹿とはまったく違う形をしていました。その形姿により、同じ発想に対して全く異なる手法でアプローチすることが可能であると同時に、それが人形を作りだす美しい技法でもあるということに気づかされました。

図3 最後に、そもそも私が訪日するきっかけとなった文楽についての体験についてお話したいと思います。文楽の発祥は300年前にさかのぼり、その歴史がプレゼンテーションのなかでひときわ顕著に表れていました。人形作りと、活き活きとした人形の動きの演出に用いられる磨き抜かれた技芸には、とてつもない魅力があります。三人の人形遣い師がたったひとつの人形をこれほどまでに自然な形で互いに調和し合いながら操る光景は、眺めていて非常に美しいものがありました。私はただそこに座り、ぽかんと口を開けたまま鑑賞するのみでしたが、ここで得た印象は間違いなくレーワルデンに持ち帰りたいと思います。 

この視察旅行の成果

 欧州文化首都レーワルデン2018では、目下、2018年に文楽公演をレーワルデンに招聘する試みに取り組んでいます。現在大阪の国立文楽劇場との話し合いが進められているところです。

 このほか、私はフリースラントとレーワルデンの人形劇団の調査を行っています。人形劇団のためのプラットフォームをいかに拡大できるかに関するものです。さらに、いいだ人形劇フェスタに触発され、可能であれば2018年に自分自身でもレーワルデンで人形劇フェスティバルを開催してみたいと考えています。この調査結果が、このようなイベントの実現可能性や得られる支援についての指針を示すことになります。私はぜひ再び日本を訪れ、技芸を習得し、日本文化や車人形の世界に浸りたいと望んでいます。

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